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何者?①
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◆何者?
「邪魔者がいなくなったので、これでみなさんと、ゆっくりお話ができますね」
伊澄瑠璃子は落ちついた口調で言った。
ゆっくり話を、と言っても、ここは廃墟だ。埃も凄いが、蜘蛛の巣があちこちに張っているし、虫も這っている。
それに、サヤカの体から噴き出た体液で、いたるところがベトベトだ。
そんな場所で、僕たちは伊澄瑠璃子に対峙している。
こんな状況では、話をする気にもならない。神城などは既に話を聞く気が失せているようだ。
「伊澄さん、僕たちは、ここから出て行く。外の様子がわからないが、何とか逃げ切って見せる」と僕は言った。
「けれど、その前に教えてくれ!」
どうして伊澄瑠璃子は、姉のレミの分身をこの世に誕生させたのか? その答をまだ聞いていない。
「さっきのお話の続きですね」
伊澄瑠璃子は僕の顔を直視し、その美しい瞳を細めた。
「・・山の中の地面が光っていたのよ」
唐突に伊澄瑠璃子はそう言った。
「え?」
「レミ姉さんの行方が分からなくて皆が捜索している時、ある人が、私に近づいてきて、こう言ったのよ」
「ある人? 伊澄さんの知っている人なのか?」
僕の質問に伊澄瑠璃子は首を振り「初めて会う人よ」と答え、こう続けた。
「その人がこう言ったのよ・・『ねえ、瑠璃子ちゃん。山の方に行ってみたら? お姉さんは、山にいるかもしれないわよ』って」
「初めて会った人間の言うことを信じて、山に行ったのか?」
どこの誰かも分からない人を言うことを信じたのか。
「その時は、その人の言うことを信じるしかなかったわ。だって、誰もお姉さんのいる場所がわからないんですもの」
藁にもすがる、というやつか。
「でも、その人の言うことを信じて正解だったわ。山に近づくと、お姉さんの声が聞こえた気がしたの。そして、声がする方に行ってみたのよ。そしたら・・」
夜の山の中、伊澄さんの姉のレミが殺められた場所・・その場所が光っていた。
当然、レミに乱暴をした男は去った後だ。男は「確かに殺したはずだ」と言っていた。
だが、そこには姉のレミの姿はなかった。
けれど、伊澄瑠璃子は、
「私には、お姉さんが『私はここにいるわ』と言っているような気がしたの」と言った。
そう言った瞬間、柱時計が、ボーン、ボーンと5回打った。
その音で、部屋の中が一気に暗くなったように感じた。
「私はレミ姉さんを見つけたのよ」
そう言って伊澄瑠璃子は異様な笑い声を立て始めた。
「もちろん、その姿は、変わり果てていたわ。でも、私には、すぐにわかったの。それがレミ姉さんだって」
何がそんなにおかしいのか分からない。
妹が姉を発見しただけのことだ。だが伊澄瑠璃子はその答えのようにこう言った。
「私、姉さんを発見した時、こう思ったのよ。私とレミ姉さんは心で繋がっているんだって」
心で繋がっている・・そう誇らしげに言った。
それよりも、姉のレミは伊澄さんが発見した時、どんな姿だったのか?
神城が「お姉さんはどんな姿だったの?」と訊いても、
その問いには答えず、伊澄瑠璃子は異様な笑い顔を見せるだけだった。
「私は、そんなレミ姉さんの魂をすくい取ったのよ」
意味が分からない。変わり果てた姉をどんな形ですくい取ったのだろう?
神城は「伊澄さん、悪いけれど、話が見えてこないわ」と言った。
そんな神城に伊澄瑠璃子はこう言った。
「・・食べたのよ」
食べた?
姿が変わり果てた姉の体を食らったというのか?
神城が気分が悪くなったのか、「うっ」と嘔吐するような声を出した。
「もちろん、姉がそう望んでいたからよ。決して、私はレミ姉さんの嫌がることはしないわ」
そう語る伊澄瑠璃子の顔が幸福に満ちているように映るのは、僕だけだろうか。
そんな幸せそうな伊澄瑠璃子に、神城涼子が、「もうやめてっ!」と声を上げ、
「伊澄さん、その話はもういいわ」と言った。
伊澄さんは、話を中断させた神城に不服なのか、
「あら、大事な話はここからですのに」と言った。「それに、神城さんの親友の奈々さんのお体にも関係があると思いますわ」
だったら、聞かねばならない。
神城は覚悟を決めたように、聞く姿勢を見せた。君島さんは、変わらず僕の横に引っ付いたままだ。
「邪魔者がいなくなったので、これでみなさんと、ゆっくりお話ができますね」
伊澄瑠璃子は落ちついた口調で言った。
ゆっくり話を、と言っても、ここは廃墟だ。埃も凄いが、蜘蛛の巣があちこちに張っているし、虫も這っている。
それに、サヤカの体から噴き出た体液で、いたるところがベトベトだ。
そんな場所で、僕たちは伊澄瑠璃子に対峙している。
こんな状況では、話をする気にもならない。神城などは既に話を聞く気が失せているようだ。
「伊澄さん、僕たちは、ここから出て行く。外の様子がわからないが、何とか逃げ切って見せる」と僕は言った。
「けれど、その前に教えてくれ!」
どうして伊澄瑠璃子は、姉のレミの分身をこの世に誕生させたのか? その答をまだ聞いていない。
「さっきのお話の続きですね」
伊澄瑠璃子は僕の顔を直視し、その美しい瞳を細めた。
「・・山の中の地面が光っていたのよ」
唐突に伊澄瑠璃子はそう言った。
「え?」
「レミ姉さんの行方が分からなくて皆が捜索している時、ある人が、私に近づいてきて、こう言ったのよ」
「ある人? 伊澄さんの知っている人なのか?」
僕の質問に伊澄瑠璃子は首を振り「初めて会う人よ」と答え、こう続けた。
「その人がこう言ったのよ・・『ねえ、瑠璃子ちゃん。山の方に行ってみたら? お姉さんは、山にいるかもしれないわよ』って」
「初めて会った人間の言うことを信じて、山に行ったのか?」
どこの誰かも分からない人を言うことを信じたのか。
「その時は、その人の言うことを信じるしかなかったわ。だって、誰もお姉さんのいる場所がわからないんですもの」
藁にもすがる、というやつか。
「でも、その人の言うことを信じて正解だったわ。山に近づくと、お姉さんの声が聞こえた気がしたの。そして、声がする方に行ってみたのよ。そしたら・・」
夜の山の中、伊澄さんの姉のレミが殺められた場所・・その場所が光っていた。
当然、レミに乱暴をした男は去った後だ。男は「確かに殺したはずだ」と言っていた。
だが、そこには姉のレミの姿はなかった。
けれど、伊澄瑠璃子は、
「私には、お姉さんが『私はここにいるわ』と言っているような気がしたの」と言った。
そう言った瞬間、柱時計が、ボーン、ボーンと5回打った。
その音で、部屋の中が一気に暗くなったように感じた。
「私はレミ姉さんを見つけたのよ」
そう言って伊澄瑠璃子は異様な笑い声を立て始めた。
「もちろん、その姿は、変わり果てていたわ。でも、私には、すぐにわかったの。それがレミ姉さんだって」
何がそんなにおかしいのか分からない。
妹が姉を発見しただけのことだ。だが伊澄瑠璃子はその答えのようにこう言った。
「私、姉さんを発見した時、こう思ったのよ。私とレミ姉さんは心で繋がっているんだって」
心で繋がっている・・そう誇らしげに言った。
それよりも、姉のレミは伊澄さんが発見した時、どんな姿だったのか?
神城が「お姉さんはどんな姿だったの?」と訊いても、
その問いには答えず、伊澄瑠璃子は異様な笑い顔を見せるだけだった。
「私は、そんなレミ姉さんの魂をすくい取ったのよ」
意味が分からない。変わり果てた姉をどんな形ですくい取ったのだろう?
神城は「伊澄さん、悪いけれど、話が見えてこないわ」と言った。
そんな神城に伊澄瑠璃子はこう言った。
「・・食べたのよ」
食べた?
姿が変わり果てた姉の体を食らったというのか?
神城が気分が悪くなったのか、「うっ」と嘔吐するような声を出した。
「もちろん、姉がそう望んでいたからよ。決して、私はレミ姉さんの嫌がることはしないわ」
そう語る伊澄瑠璃子の顔が幸福に満ちているように映るのは、僕だけだろうか。
そんな幸せそうな伊澄瑠璃子に、神城涼子が、「もうやめてっ!」と声を上げ、
「伊澄さん、その話はもういいわ」と言った。
伊澄さんは、話を中断させた神城に不服なのか、
「あら、大事な話はここからですのに」と言った。「それに、神城さんの親友の奈々さんのお体にも関係があると思いますわ」
だったら、聞かねばならない。
神城は覚悟を決めたように、聞く姿勢を見せた。君島さんは、変わらず僕の横に引っ付いたままだ。
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