血を吸うかぐや姫

小原ききょう

文字の大きさ
上 下
99 / 118

何者?①

しおりを挟む
◆何者?

「邪魔者がいなくなったので、これでみなさんと、ゆっくりお話ができますね」
 伊澄瑠璃子は落ちついた口調で言った。
 ゆっくり話を、と言っても、ここは廃墟だ。埃も凄いが、蜘蛛の巣があちこちに張っているし、虫も這っている。
 それに、サヤカの体から噴き出た体液で、いたるところがベトベトだ。
 そんな場所で、僕たちは伊澄瑠璃子に対峙している。
 こんな状況では、話をする気にもならない。神城などは既に話を聞く気が失せているようだ。

「伊澄さん、僕たちは、ここから出て行く。外の様子がわからないが、何とか逃げ切って見せる」と僕は言った。
「けれど、その前に教えてくれ!」
 どうして伊澄瑠璃子は、姉のレミの分身をこの世に誕生させたのか? その答をまだ聞いていない。
「さっきのお話の続きですね」
 伊澄瑠璃子は僕の顔を直視し、その美しい瞳を細めた。
「・・山の中の地面が光っていたのよ」
 唐突に伊澄瑠璃子はそう言った。
「え?」
「レミ姉さんの行方が分からなくて皆が捜索している時、ある人が、私に近づいてきて、こう言ったのよ」
「ある人? 伊澄さんの知っている人なのか?」
 僕の質問に伊澄瑠璃子は首を振り「初めて会う人よ」と答え、こう続けた。
「その人がこう言ったのよ・・『ねえ、瑠璃子ちゃん。山の方に行ってみたら? お姉さんは、山にいるかもしれないわよ』って」
「初めて会った人間の言うことを信じて、山に行ったのか?」
 どこの誰かも分からない人を言うことを信じたのか。
「その時は、その人の言うことを信じるしかなかったわ。だって、誰もお姉さんのいる場所がわからないんですもの」
 藁にもすがる、というやつか。
「でも、その人の言うことを信じて正解だったわ。山に近づくと、お姉さんの声が聞こえた気がしたの。そして、声がする方に行ってみたのよ。そしたら・・」
 夜の山の中、伊澄さんの姉のレミが殺められた場所・・その場所が光っていた。

 当然、レミに乱暴をした男は去った後だ。男は「確かに殺したはずだ」と言っていた。
 だが、そこには姉のレミの姿はなかった。
 けれど、伊澄瑠璃子は、
「私には、お姉さんが『私はここにいるわ』と言っているような気がしたの」と言った。
 そう言った瞬間、柱時計が、ボーン、ボーンと5回打った。
 その音で、部屋の中が一気に暗くなったように感じた。
「私はレミ姉さんを見つけたのよ」
 そう言って伊澄瑠璃子は異様な笑い声を立て始めた。
「もちろん、その姿は、変わり果てていたわ。でも、私には、すぐにわかったの。それがレミ姉さんだって」
 何がそんなにおかしいのか分からない。
 妹が姉を発見しただけのことだ。だが伊澄瑠璃子はその答えのようにこう言った。
「私、姉さんを発見した時、こう思ったのよ。私とレミ姉さんは心で繋がっているんだって」
 心で繋がっている・・そう誇らしげに言った。
 それよりも、姉のレミは伊澄さんが発見した時、どんな姿だったのか?
 神城が「お姉さんはどんな姿だったの?」と訊いても、
 その問いには答えず、伊澄瑠璃子は異様な笑い顔を見せるだけだった。 
「私は、そんなレミ姉さんの魂をすくい取ったのよ」
 意味が分からない。変わり果てた姉をどんな形ですくい取ったのだろう?
 神城は「伊澄さん、悪いけれど、話が見えてこないわ」と言った。

 そんな神城に伊澄瑠璃子はこう言った。
「・・食べたのよ」
 食べた? 
 姿が変わり果てた姉の体を食らったというのか?
 神城が気分が悪くなったのか、「うっ」と嘔吐するような声を出した。
「もちろん、姉がそう望んでいたからよ。決して、私はレミ姉さんの嫌がることはしないわ」
 そう語る伊澄瑠璃子の顔が幸福に満ちているように映るのは、僕だけだろうか。

 そんな幸せそうな伊澄瑠璃子に、神城涼子が、「もうやめてっ!」と声を上げ、
「伊澄さん、その話はもういいわ」と言った。
 伊澄さんは、話を中断させた神城に不服なのか、
「あら、大事な話はここからですのに」と言った。「それに、神城さんの親友の奈々さんのお体にも関係があると思いますわ」
 だったら、聞かねばならない。
 神城は覚悟を決めたように、聞く姿勢を見せた。君島さんは、変わらず僕の横に引っ付いたままだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。 のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。 彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。 そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。 しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。 その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。 友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

ゆるゾン

二コ・タケナカ
ホラー
ゆるっと時々ゾンビな女子高生達による日常ものです。 (騙されるなッ!この小説、とんだ猫かぶりだぞ!)

処理中です...