血を吸うかぐや姫

小原ききょう

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復活①

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◆復活

 この場で一番哀れなのは、妹に見放され、その場にうずくまっている渡辺さんだ。
 妹が一人で逃げていった現実を認められないのか「そんな、そんなっ、サヤカ」と繰り返している。
「さて、残ったこの男。どうしましょうか?」
 伊澄瑠璃子は、渡辺さんを見下して冷たく言った。
「どうせなら、体の中のものを、妹のサヤカくらいの大きさまでレベルを引き上げてあげましょうか?」
 その言葉に、渡辺さんの顔が恐怖に引き攣った。
「あ、あんら、妹みたいな体には、なりらくない」
 渡辺さんは顔を押さえながら、小さく言って、伊澄瑠璃子を仰ぎ見、
「た、たすけてるれ」と懇願した。
「あら、命乞いなの?」伊澄さんは、そう言って「さっきまでの威勢は一体どこにいったのかしら?」と皮肉った。
 確かにみっともなく見える.だが、体があんなことになった妹を見て、平気な人間もそうそういないだろう。
「こ、こんらことになるとは・・思ってなかった」渡辺さんは誰ともなく言った。

 そんな渡辺さんを君島さんは、「だから、この男、嫌いだったのよ」と吐き捨てるように言った。
 そんな君島さんに、神城が、
「君島さん、あなた、渡辺さんがあんな男だって、いつ、どうして、わかったの?」と尋ねた。
 それは僕も知りたい。君島さんは、渡辺さんと出会った時から、「あの男、嫌い」と言っていた。
「人間は、およその分類が出来るのよ。いい人、悪い人、それ以外にも卑怯な人間や、立場が悪くなるとすぐに豹変する奴や・・」
 君島さんは神城に自分の考えを説明した。
「そんなことを私は幼い時から、言い寄ってくる男を観察して学んだわ。厭と言うほどね」
 神城は、君島さんの説明を聞いて「君島さん、なんだか、怖いわ」と言って「君島さん、これまで、ろくな人間と出会ってないんじゃない?」と皮肉った。

 伊澄瑠璃子は、僕たちの会話を聞いていたのか、
「うふふっ、君島さん。あなたが私の立場だったら、この男をどうするのかしら?」と訊いた。
 まるで何かの選択を迫るようだ。
 そう訊かれた当の君島さんは、
「そんなの、あなたが考えなさいよ! 私には関係ないわよ」と即座に返した。
 君島さんは綺麗好きで、プライドも高いが、度胸も座っている。こんな状況を引き起こしている伊澄瑠璃子を何とも思っていないようだ。
次に神城が、
「伊澄さん、結局、あなたは一体何がしたいの?」
 いらいらしたように訊いた後、
「私は、奈々の体を元に戻して欲しいだけなの」と目的を急いだ。
 それだけじゃない。僕は自分の体、そして君島さんの体を元に戻して欲しい。ここに来たのは、その糸口を見つけるためだ。

 そんな僕たちを見て伊澄さんはこう言った。
「あなたたち、ずいぶんと勝手ね」
 彼女に言わせれば、僕たちが一方的に願いを迫っているように思えるのだろう。
 伊澄瑠璃子にとって、何の見返りもないことはしたくないとでも言うのだろうか?

「けれど、全ての原因は、伊澄さん・・君だろう!」僕は強く言い返した。
 そして、
「こんなことが起こった全ての発端は、伊澄さん以外に考えられない」と続けた。
 僕の抗議に伊澄さんは、「そのお話は、先ほどしたはずです」と応えた。
「それは・・その事件は、君のお姉さんや、ご家族にとっては悲劇だったろう。けれど、僕の知りたいのは、その後のことだ。どうして、君が血を吸ったりするのか?」
 そして、
「どうして、体の中に寄生する『あれ』・・つまり伊澄さんのお姉さんの分身が誕生したのか? それを知りたいんだ」
 そう立て続けに訊くと、
 一言、伊澄瑠璃子はこう返した。
「あら、私、人の血を吸ったことなんて、一度もないわよ」
 冷やかな目が僕に刺さる。
「え?」
 そう言えば、伊澄瑠璃子が誰かの首筋に歯を当て、血を吸っているのは見たことがない。
 血を吸っているのは、全て他の人間だ。
 一番最初、屋敷で白山あかねの首に穴が空き、空中に血が飛びだした時、それは、「あれ」が血を吸い上げていたのだし、佐々木奈々の時も同じだ。松村もそうだ。
 保健の吉田女医は、女友達に血を吸われたと言っていたし、その吉田女医が、体育の大崎の血を吸った。
 ・・伊澄瑠璃子は血を吸わない。
 そして、伊澄瑠璃は、血を吸われた人間の体内に、姉の分身である「あれ」を入れているだけだ。
 その行為、その目的は?
 これまで僕が見てきたもの、吉田女医の言葉、そして、今日の出来事と、伊澄瑠璃子と姉のレミに起こった悲惨な出来事。
 それら全てを繋ぎ合わせると、見えてくるものがある。
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