血を吸うかぐや姫

小原ききょう

文字の大きさ
上 下
75 / 132

淫行事件のこと②

しおりを挟む
「あら、そうかしら?」
 急に話に入ってきたのは、君島律子だ。
 神城が気分を害し、
「何よ、君島さん! 津山さんは大人しい子じゃないの」と突っぱねた。
 だが、君島律子は「そう見えるだけじゃない?」と言って冷笑した。
 その様子を見ていた渡辺さんが、
「君島さんの言う通りかもしれないよ」と言った。「大崎を誘惑したのは、その津山さんだと聞いている」
「ええっ!」神城の顔に驚きの表情が浮かぶ。
 君島さんは「ほら、ごらんなさい」と言いたげな顔になる。
 津山さんのイメージが一瞬で崩れる。だが、それは僕たちが津山さんに勝手に抱いていたイメージだ。
 本当だろうか? だが、何もない所に噂は立たない。
 神城は暫く沈思していたが、
「でも、淫行は淫行でしょ。津山さんがいくら誘惑してきたからって、先生の立場で生徒の誘惑に乗ってはダメよ」と委員長らしいまっとうな意見を言った。
 対して、君島さんは「ふん」とそっぽを向いた。

 渡辺さんは「でも、おかしいな。彼女はそんな子ではなかったということなんだな」と小さく言った。神城が「そうですよ。津山さんはそんな子じゃないです」と念押しした。
 もしかすると、
「これは僕の推測ですけど」と話を切り出した。「津山さんは、何かの催眠術みたいなものにかかっていたんじゃないでしょうか? それで普段おとなしい津山さんが、本意でないようなことをしたんじゃないかと思います」
「催眠術?」
 そう言った渡辺さんのそんな顔を見ると、彼は伊澄瑠璃子の周囲にある結界や、催眠については詳しく知らないと思えた。
 渡辺さんは「誰が、何のためにそんなことを?」と僕に訊ねた。「僕には理解できないな」

 すると、君島さんが横で、話の流れに文句を言うように
「催眠術も何も、津山さんって、そんな女の子よ。過去にも男子が彼女に誘惑されたって、話を聞いているわ」と言った。
「君島さん、その話、本当なの?」と神城が訊いた。
「本当よ。なんで私がそんな嘘をついたりするの」とつっけんどんに君島さんが答える。

 僕の見方が違ったのか。
 ならば、話が全然変わって見えてくる。
 だが、この話には絶対に、伊澄瑠璃子が絡んでいるように思える。
 そして、伊澄瑠璃子は、「不純なものは嫌い」と言っていた。
 それは、体育の大崎先生のことだと思っていた。
 もちろん、彼女から見れば、大崎もその対象だろう。
 しかし、伊澄瑠璃子の本命は、淫行の相手の津山静香だったのではないか。

 僕は神城にこう言った。
「催眠にかかっていたのは、大崎先生の方だったんじゃないか?」
 催眠の対象は逆だった。
 元々性癖の良くない津山さんに、催眠を使って大崎が淫行するように仕向けた。
「ええっ、屑木くん、どういうこと?」
 僕は「これはあくまでも僕の想像だけど」と言って、
「伊澄さんは、不純なもの、いや、不純な人間が大嫌いなんだと思う。だから、津山さんのような女性が標的になった」
 僕はそんな推測を述べた。
「屑木くん、でもそれって、何のためにそんなことをするの?」と神城が言った。
 すると君島さんが「嫌いなのよ。近くにいて欲しくないんじゃない? 誰かさんみたいに」と神城に当てつけるように言った。
「ちょっと、君島さん、それどういうこと? 誰のこと?」と返した。
 そんな二人を見ながら、
「君たち、仲がいいんだね」と渡辺さんが笑った。
 その言葉に、二人の心に火を点ける。
「そんなわけ、ないじゃないですか!」神城が怒り、
「ふん!」と君島さんが更にそっぽを向ける。

 そんな様子を微笑ましく見ていた渡辺さんは、
「話はだいたい見えてきた。君たちに声をかけて本当によかったよ」と言った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

オカルト嫌いJKと言霊使いの先輩書店員

眼鏡猫
ホラー
書店でアルバイトをする女子高生、如月弥生(きさらぎやよい)は大のオカルト嫌い。そんな彼女と同じ職場で働く大学生、琴乃葉紬玖(ことのはつぐむ)は自称霊感体質だそうで、弥生が発する言霊により悪いモノに覆われていると言う。一笑に付す弥生だったが、実は彼女には誰にも言えないトラウマを抱えていた。

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

ルッキズムデスゲーム

はの
ホラー
『ただいまから、ルッキズムデスゲームを行います』 とある高校で唐突に始まったのは、容姿の良い人間から殺されるルッキズムデスゲーム。 知力も運も役に立たない、無慈悲なゲームが幕を開けた。

月のない夜 終わらないダンスを

薊野ざわり
ホラー
イタリアはサングエ、治安は下の下。そんな街で17歳の少女・イノリは知人宅に身を寄せ、夜、レストランで働いている。 彼女には、事情があった。カーニバルのとき両親を何者かに殺され、以降、おぞましい姿の怪物に、付けねらわれているのだ。  勤務三日目のイノリの元に、店のなじみ客だというユリアンという男が現れる。見た目はよくても、硝煙のにおいのする、関わり合いたくないタイプ――。逃げるイノリ、追いかけるユリアン。そして、イノリは、自分を付けねらう怪物たちの正体を知ることになる。 ソフトな流血描写含みます。改稿前のものを別タイトルで小説家になろうにも投稿済み。

5A霊話

ポケっこ
ホラー
藤花小学校に七不思議が存在するという噂を聞いた5年生。その七不思議の探索に5年生が挑戦する。 初めは順調に探索を進めていったが、途中謎の少女と出会い…… 少しギャグも含む、オリジナルのホラー小説。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...