血を吸うかぐや姫

小原ききょう

文字の大きさ
上 下
59 / 118

三角関係②

しおりを挟む
 そして、放課後のファミレス店内。
 神城は和風正統派美人。君島律子はゴージャス系美人。大袈裟だが、そんな形容がぴたりと当てはまる。
 女性に関しては、僕はごく普通の感覚だ。神城といると落ち着くが、君島律子のようにキラキラと輝く女性は、こっちがそわそわして落ち着かない。
 それが、どうだ。今はそれが逆だ。健康的な神城の姿が眩しく、君島さんとは同士のせいか、傍らにいると落ち着く。
 そんな神城が僕の向かいに不機嫌な様子で座っている。そして、僕の横には近すぎる位置で君島律子が座っている。おまけに飲み物まで僕に合わせている。

 だが、そんなことより、大きな問題がある。
 僕にまた吸血願望が出てきて、神城の血を吸いたくなるという不安だ。
 もちろん、これまでにそんな不安があり、実際に血を吸いかけたこともあった。だが、今は、それ以上に不安な要素がある。それは、
 君島律子が神城の血を吸ったりしないか、ということだ。
 一応、君島さんには前もって訊いておいた。
「親の血を吸ったりしなかったか? 吸っていなくても、吸いたくならなかったか?」
 だが、君島さんは「屑木くんの血を吸ったせいかな。そんな気分にはならなかったわ」と答えた。
 そんなものなのか・・ひょっとして血液型とか、関係があるのだろうか?・・いや、それはない。吸血鬼化した 時点で血液型は関係ないと推測する。
 僕と母は血液型が違う・・母はB型、僕はO型・・けれど、母が包丁で指を切った時、流れ出る血を見て吸いたくなった。

「私がちょっと風邪をひいて休んでいる間に、随分と仲良くなったものね」更に神城はご機嫌斜めだ。コーヒーにも手をつけず、僕と君島さんの様子をじーっと観察している。
「その理由を話すよ」
「早く、理由が知りたいわ・・だって、君島さんは、ついこの前まで、屑木くんのことなんか目もくれなかったじゃないの。どちらかと言うと、危ないところを助けてくれた松村くんに気があるのかと思っていたわ」
 そう言った神城に君島さんが、
「私が、バカだったのかもしれませんわ。屑木くんがこんな素敵な男性だと、今の今まで気づかなかったのですもの」と言った。
「ちょっと、君島さん、松村くんに助けてもらったのを忘れたの? 体育の大崎先生に襲われそうになったでしょう。憶えているわよね」
 神城が激昂気味に言うと、
「だって、私たち、お互いに血を吸い合った仲なんですもの」と勝ち誇ったように言った。
 言われた神城は、
「お互いに血を吸ったですって!」とヒステリックに言った。
「おい、神城・・声が大きい」僕は昂ぶった神城を戒めた。「ちゃんと最初から話すから、落ち着いて聞いてくれ」

 そして、僕は屋敷内でのことをぶちまけるように話した。佐々木の了承もなしに、佐々木のことも話した。佐々木は「屑木くんにまかせる」と言っていたから、大丈夫だと確信していた。
 話の途中、神城は何度か、絶句するような顔になったり、声を洩らしたりしていたが、最後まで話を聞いてくれた。
 神城も、僕と同じように、色んな場面に遭遇しているから呑み込みが早かった。
 ただ、僕は神城に言っていないことがある。
 それは、神城の血を吸いたくなったこと。そして、景子さんとの遭遇のことだ。何となく言うことがためらわれた。

 話を聞き終えた後、神城は、
「それで・・これからどうするの?」と尋ねた。
「どうって・・」どうしたらいいのかわからない。こっちが訊きたいくらいだ。
 神城は「私が思うに・・まず、あの幽霊屋敷にはいかないこと・・」と言ったはいいが、次の言葉が見つからないでいる。
 神城はコーヒーを少し飲み、「担任の上里先生に報告する・・」と言いかけ、「頼りになりそうにないわね」とため息をついた。
「屑木くんは、ご両親には言っていないのよね」
 僕が言っていないと答えると神城は、「私は両親に言ったわ」と答えた。「屋敷に行ったことも、白山さんのことや体育の大崎先生のことも」
「両親は何て言っていた?」
「それが、両親もよくわからないみたいなのよ。取り敢えず、娘の私には何もないわけだし。ただの奇異な現象としてしか、理解していないみたい」
 そんなものなのか・・
 奇異な現象どころか、既成概念がひっくり返るほどのことだった。
 こういうことって体験しないと分からないのかもしれない。自分が血を吸われたり、口の中に「あれ」を入れられたり。
 神城はこうも言った。
「前にも言ったけど、みんなおかしいのよ。親もそうだけど、生徒たちも・・集団催眠のようなものにかかっている・・そんな気がするのよ」
「僕もそう思う・・学校だけではなく、この町全体がおかしい」
 伊澄瑠璃子を中心として、何かが狂いかけている。
 体育の大崎に始まり、屋敷での出来事・・それらに続いて教室での乱闘騒ぎ、そして、昨日の事・・こんな小さな町では大騒ぎになりそうな出来事ばかりだ。
 けれど、翌日には、何ごともなかったように元の様相を取り戻している。

「それで、屑木くん・・今も誰かの血を吸いたいの?」
 神城にまじまじと見られ、そう訊かれると、ドキッとする。
 血を吸う・・今は治まっているが、いつ何時、また血を吸いたくなるかわからない。それは君島律子も同じだ。
「いや・・今は、吸いたくないし、もう大丈夫かもしれない」
 僕はそう言って、不安がる神城を安心させた。
 すると横の君島律子が「屑木くんが血を吸いたくなったら、いつでも私の血を吸ってもらってかまいませんわ」と言った。
 その発言にムッとした神城は「君島さんには聞いていないわ。屑木くんに訊いているのよ」と強く言った。
 そう言った神城を更に無視して君島律子は、
「私は、今でも屑木くんの血を吸いたいですわ・・でも、あんまり血を吸うと、屑木くんに怒られるから我慢しているのよ」と言った。
 それ、本当か? 単に神城に対する当てつけだろ。

 神城はそんな僕たちの様子を見ながら、何かを堪えているように見えた。
 そして、意を決したように、
「屑木くんが血を吸いたくなったら、私の血を吸ってもいいわよ・・少しくらいなら」と言った。
「え?・・」
 今、神城は何と言ったんだ。「私の血を吸ってもいい」だと?
「あのなあ、神城、簡単に言うけどな。血を吸われたら、吸血鬼化するんだぞ。それでもいいのか?」
 僕が強く言うと、
「それは、困るわねえ・・私、吸血鬼になったら、私、家族の誰かの血を吸っちゃいそう」と神城は他人事のように言った。
 そんな様子を見て君島律子が、
「いやですわ、屑木くん。血を吸うのは私だけにしてちょうだい」と甘えるように言った。

 どうやら、吸血鬼問題とは関係なく、男女の三角関係という別の問題が生じているようだった。
 ・・そう思った時。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

僕のみる世界

雪原 秋冬
ホラー
学校の七不思議である「イザナイさん」をきっかけに、日常の歯車が狂いだす。 あるいは、元々おかしかった世界を自覚していくだけなのかもしれない。 --- アドベンチャーゲーム用に考えていた話を小説化したものなので、小説内の描写以外にも道は存在しています。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

初恋フィギュアドール

小原ききょう
SF
「人嫌いの僕は、通販で買った等身大AIフィギュアドールと、年上の女性に恋をした」 主人公の井村実は通販で等身大AIフィギュアドールを買った。 フィギュアドール作成時、自分の理想の思念を伝達する際、 もう一人の別の人間の思念がフィギュアドールに紛れ込んでしまう。 そして、フィギュアドールには二つの思念が混在してしまい、切ないストーリーが始まります。 主な登場人物 井村実(みのる)・・・30歳、サラリーマン 島本由美子  ・ ・・41歳 独身 フィギュアドール・・・イズミ 植村コウイチ  ・・・主人公の友人 植村ルミ子・・・・ 母親ドール サツキ ・・・・ ・ 国産B型ドール エレナ・・・・・・ 国産A型ドール ローズ ・・・・・ ・国産A型ドール 如月カオリ ・・・・ 新型A型ドール

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

時々、僕は透明になる

小原ききょう
青春
影の薄い僕と、7人の個性的、異能力な美少女たちとの間に繰り広げられる恋物語。 影の薄い僕はある日透明化した。 それは勉強中や授業中だったり、またデート中だったり、いつも突然だった。 原因が何なのか・・透明化できるのは僕だけなのか?  そして、僕の姿が見える人間と、見えない人間がいることを知る。その中間・・僕の姿が半透明に見える人間も・・その理由は? もう一人の透明化できる人間の悲しく、切ない秘密を知った時、僕は・・ 文芸サークルに入部した僕は、三角関係・・七角関係へと・・恋物語の渦中に入っていく。 時々、透明化する少女。 時々、人の思念が見える少女。 時々、人格乖離する少女。 ラブコメ的要素もありますが、 回想シーン等では暗く、挫折、鬱屈した青春に、 圧倒的な初恋、重い愛が描かれます。 (登場人物) 鈴木道雄・・主人公の男子高校生(2年2組) 鈴木ナミ・・妹(中学2年生) 水沢純子・・教室の窓際に座る初恋の女の子 加藤ゆかり・・左横に座るスポーツ万能女子 速水沙織・・後ろの席に座る眼鏡の文学女子 文芸サークル部長 小清水沙希・・最後尾に座る女の子 文芸サークル部員 青山灯里・・文芸サークル部員、孤高の高校3年生 石上純子・・中学3年の時の女子生徒 池永かおり・・文芸サークルの顧問、マドンナ先生 「本山中学」

紺青の鬼

砂詠 飛来
ホラー
専門学校の卒業制作として執筆したものです。 千葉県のとある地域に言い伝えられている民話・伝承を砂詠イズムで書きました。 全3編、連作になっています。 江戸時代から現代までを大まかに書いていて、ちょっとややこしいのですがみなさん頑張ってついて来てください。 幾年も前の作品をほぼそのまま載せるので「なにこれ稚拙な文め」となると思いますが、砂詠もそう思ったのでその感覚は正しいです。 この作品を執筆していたとある秋の夜、原因不明の高熱にうなされ胃液を吐きまくるという現象に苛まれました。しぬかと思いましたが、いまではもう笑い話です。よかったいのちがあって。 其のいち・青鬼の井戸、生き肝の眼薬  ──慕い合う気持ちは、歪み、いつしか井戸のなかへ消える。  その村には一軒の豪農と古い井戸があった。目の見えない老婆を救うためには、子どもの生き肝を喰わねばならぬという。怪しげな僧と女の童の思惑とは‥‥。 其のに・青鬼の面、鬼堂の大杉  ──許されぬ欲望に身を任せた者は、孤独に苛まれ後悔さえ無駄になる。  その年頃の娘と青年は、決して結ばれてはならない。しかし、互いの懸想に気がついたときには、すでにすべてが遅かった。娘に宿った新たな命によって狂わされた運命に‥‥。 其のさん・青鬼の眼、耳切りの坂  ──抗うことのできぬ輪廻は、ただ空回りしただけにすぎなかった。  その眼科医のもとをふいに訪れた患者が、思わぬ過去を携えてきた。自身の出生の秘密が解き明かされる。残酷さを刻み続けてきただけの時が、いまここでつながろうとは‥‥。

ワールドミキシング

天野ハザマ
ホラー
空想好きの少年「遠竹瑞貴」はある日、ダストワールドと呼ばれる別の世界に迷い込んだ。 此処ではない世界を想像していた瑞貴が出会ったのは、赤マントを名乗る少女。 そして、二つの世界を繋ぎ混ぜ合わせる力の目覚めだった……。 【表紙・挿絵は「こころ」様に描いていただいております。ありがとうございます!】

処理中です...