血を吸うかぐや姫

小原ききょう

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君島律子の欲望①

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◆君島律子の欲望

 君島律子が僕の制服を掴みながら、
「何よ・・血を吸うって・・屑木くん、何のことなの?」と言った。
 この中で一番、この状況について知らないのは君島さんだろう。
「佐々木さんは・・どうなってしまったの?」
 君島さんは僕の体を揺さぶりながら、「ねえっ、屑木くん。いったい何が起きているの?」と言った。
 君島さんの体は、どんどん僕の体にピッタリと寄り沿ってくる。
 柔らかな乳房が僕の体に当たると、
 彼女の熱い体温が感じられ、心臓の鼓動が耳に届き、君島さんの体中に血が勢いよく流れているのを感じた。
 君島さん・・僕から離れてくれ。
 このままだと、僕はまた血が吸いたくなる。
 だが、完全に僕を頼り切っている君島さんの体を突き放すわけにもいかない。

 君島さんは僕を頼りにしているのかもしれないが、僕は佐々木奈々をどこか頼っていたのかもしれない。
 そんな佐々木は体を松村に委ねている。
 佐々木はまだ生きているのか? 生きているのならば何とかなるのでは・・
 だが・・
「おい、松村、お前、佐々木さんに何をしている」
 松村は佐々木に覆い被さるようにして泣いているのかと思っていたが、どうも違うようだ。
 松村は、佐々木の口をこじ開けようとしていた。そして、自分の口を近づけようとしている。
 まさか・・伊澄瑠璃子のように・・
 血を吸われた人間も、何かを入れることができるっていうのか。

 松村は僕の問いに、我に返ったように顔を上げ、
「屑木・・み、見るな」と言った。
 自分がしようとしていた行為を僕に見られたことで、松村は動揺している。
「奈々を救うには、これしか方法がないんだ」
 そう言った松村の口元から何やらドロッとした液体が溢れ出た。
 君島さんが「やだっ、汚い」と吐き捨てるように言った。

「だから訊いているだろ。佐々木に何をしようとしているんだ」
「屑木、お願いだから、俺と奈々を放っておいてくれ」
 そう言った松村の声は泣いているように聞こえた。
「俺は・・奈々を・・好きだったんだ。けれど、奈々は・・」松村はそこまで言って声を落とした。
「佐々木はまだ生きているのか?」
「ああ・・けど、このままだと、奈々は死んでしまう」
 だから、伊澄さんが白山あかねにしたように、体に何かを入れるのか。
 そして、入れなければ、吸血鬼化するのか?

 君島さんが僕の腕を強く引き、
「ねえっ、屑木くん・・こんな場所、早く外に出ましょう」と言った。
そう言った君島さんは体を僕にギュッと引っ付ける。君島さんの体はこんなにも肉感的だったのか。
 そんな性的邪念を払いのけ、
「君島さん・・今は、ダメだ。ここを出るわけにはいかない」
「そんな・・私、一人で、ここを出れないわ・・お願い」
 君島さんには悪いが、
 今は、佐々木を何とかしないと・・
 どうすればいい?

「なあ、松村・・佐々木をこのまま放っとけば、どうなる?」
 佐々木がどれだけの量の血を失ったのかは不明だが、場合によっては、僕のようになるのか?
 僕のような中途半端な吸血鬼に・・
「このまま放っとけば、佐々木は死ぬと言っただろ!」松村の怒声が飛ぶ。

 その時、松村の声が大きかったのか、
 佐々木が顔を上げた。
「佐々木っ」僕が声をかけると、佐々木は僕の方を見た。よかった、意識はある。
「屑木くん・・私、大失敗しましたね。涼子ちゃんにも怒られちゃいます」
 佐々木はこんな時にも友人の神城涼子のことを気にしている。

「佐々木、僕が悪かった・・油断していたんだ」
 自分を責める僕を見て、佐々木は首を振った。
「屑木くんは、ちっとも悪くありませんよ」と笑った。「こんなのどうしようもないじゃありませんか」
 その笑顔には悲しいほどに血色が無く、目が窪み、何かの重い病気のようにも見える。
 だが、佐々木は生きている。白山あかねの時のように死んではいない。
「佐々木、死ぬなよ」
 そう僕が励ますように言うと、佐々木は頷き「私、死にたくありません」と応えた。

 そんな僕と佐々木の会話を聞いていた松村は、
「どうしてだよ・・どうして、奈々は、屑木とそんなに仲がいいんだよ」と悔しがるように言った。
 まさか・・松村はそんなに、佐々木のことを・・そして、僕に嫉妬を。
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