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地を這うもの①
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◆地を這うもの
暗い廊下の先を歩く靴音が聞こえる。松村と君島さんだ。
だが、二人の話す声は聞こえない。ひたすら、何かの目的に向かっているように感じる。
「屑木くん。ライターを持ってきました?」と佐々木が訊ねた。
「ああ、持ってるよ」
大広間の燭台の蝋燭に火を点ければ、照明の代わりになる。蝋燭がまだあればの話だが。
ライターの所在を確認すると、暗い廊下を進み始めた。まもなく大広間に出る。
その時だった。
「きゃあああっ!」
闇を切り裂くような女性の叫びが聞こえた。大広間の方からだ。
佐々木が「君島さんの声でしょうか?」と言った。
「たぶん・・君島さんだ」
佐々木と走って大広間に入ると、すぐに燭台を探し蝋燭に火を点けた。
闇の中に、男女の姿が浮かび上がった。
叫んでいたのは、やはり君島律子だった。
「どうして、私、こんな所にいるのっ!」
暗闇の中、君島律子が辺りを見回しながら大きな声を出している。
君島さんは状況が呑み込めないように見えた。なぜ、自分がこんな所にいるのかわからない。
そんな君島さんの両肩を松村が押さえて、
「落ち着くんだ、君島さん」と言っている。
が、そんな松村の言葉は意味をなさないようだった。
「いやっ、はなしてっ・・私の体に触らないでっ!」
そう言って君島さんは松村の手を払いのけた。まるで、「低レベルの男の分際で気安く触らないで」と言わんばかりだった。
佐々木が「君島さん、どうしちゃったんでしょうね」と言った。
「わからない・・」
催眠の効果が切れた?
そうとしか考えられない。
「もしかして」と僕は言って、「君島さんに何らかの催眠をかけていたのは、やはり、松村じゃないのか・・それが、何かのショックで解けてしまったとか・・」
「ここに入ったことで、催眠から解放されたのでしょうか?」
「そう思う」
「それにしても、君島さんのあの様子・・松村くんをひどく毛嫌いしているように見えますよね」
君島さんにとって、松村は危ないところを助けてくれた騎士じゃなかったのか?
僕が佐々木にそう言うと、
「でも、そう思っていたのは、私たちだけだったのかもしれませんね」と言った。
確かに、佐々木の話によると、松村はしきりに言っていたらしい。
「君島さんに『屋敷に行こう』って誘うんだ」と。
まさか。
・・僕の頭にある推測が成り立った。
「おい、松村!」
僕は、君島さんに騒がれ、慌てふためいている松村を呼んだ。
松村、お前は・・
「な、何だよ。屑木」
松村は君島さんの変貌に動揺を隠せないようだ。
そして、君島さんは、たった今、僕たちの存在に気づいたように駆け寄って来て、そのまま僕に抱きついてきた。
「屑木くん・・助けて・・松村くんが怖いの」
君島さんの僕にしなだれかかるような様子を見て松村が、
「屑木、おまえ、関係ないだろ!」と僕に怒号を浴びせ、
「君島さんを返せ!」と言った。
松村は、以前の松村ではない・・何かに憑りつかれている。
「いや、それは無理だ。君島さんはお前を怖がっているし、彼女を危険な目に合わせるわけにはいかない」
僕が松村に言う度に、僕に抱きつく君島さんの力が強くなるのが感じられた。同時に僕の体が熱くなる。
僕の血を吸いたい欲求が出ないか、それが不安だ。
暗い廊下の先を歩く靴音が聞こえる。松村と君島さんだ。
だが、二人の話す声は聞こえない。ひたすら、何かの目的に向かっているように感じる。
「屑木くん。ライターを持ってきました?」と佐々木が訊ねた。
「ああ、持ってるよ」
大広間の燭台の蝋燭に火を点ければ、照明の代わりになる。蝋燭がまだあればの話だが。
ライターの所在を確認すると、暗い廊下を進み始めた。まもなく大広間に出る。
その時だった。
「きゃあああっ!」
闇を切り裂くような女性の叫びが聞こえた。大広間の方からだ。
佐々木が「君島さんの声でしょうか?」と言った。
「たぶん・・君島さんだ」
佐々木と走って大広間に入ると、すぐに燭台を探し蝋燭に火を点けた。
闇の中に、男女の姿が浮かび上がった。
叫んでいたのは、やはり君島律子だった。
「どうして、私、こんな所にいるのっ!」
暗闇の中、君島律子が辺りを見回しながら大きな声を出している。
君島さんは状況が呑み込めないように見えた。なぜ、自分がこんな所にいるのかわからない。
そんな君島さんの両肩を松村が押さえて、
「落ち着くんだ、君島さん」と言っている。
が、そんな松村の言葉は意味をなさないようだった。
「いやっ、はなしてっ・・私の体に触らないでっ!」
そう言って君島さんは松村の手を払いのけた。まるで、「低レベルの男の分際で気安く触らないで」と言わんばかりだった。
佐々木が「君島さん、どうしちゃったんでしょうね」と言った。
「わからない・・」
催眠の効果が切れた?
そうとしか考えられない。
「もしかして」と僕は言って、「君島さんに何らかの催眠をかけていたのは、やはり、松村じゃないのか・・それが、何かのショックで解けてしまったとか・・」
「ここに入ったことで、催眠から解放されたのでしょうか?」
「そう思う」
「それにしても、君島さんのあの様子・・松村くんをひどく毛嫌いしているように見えますよね」
君島さんにとって、松村は危ないところを助けてくれた騎士じゃなかったのか?
僕が佐々木にそう言うと、
「でも、そう思っていたのは、私たちだけだったのかもしれませんね」と言った。
確かに、佐々木の話によると、松村はしきりに言っていたらしい。
「君島さんに『屋敷に行こう』って誘うんだ」と。
まさか。
・・僕の頭にある推測が成り立った。
「おい、松村!」
僕は、君島さんに騒がれ、慌てふためいている松村を呼んだ。
松村、お前は・・
「な、何だよ。屑木」
松村は君島さんの変貌に動揺を隠せないようだ。
そして、君島さんは、たった今、僕たちの存在に気づいたように駆け寄って来て、そのまま僕に抱きついてきた。
「屑木くん・・助けて・・松村くんが怖いの」
君島さんの僕にしなだれかかるような様子を見て松村が、
「屑木、おまえ、関係ないだろ!」と僕に怒号を浴びせ、
「君島さんを返せ!」と言った。
松村は、以前の松村ではない・・何かに憑りつかれている。
「いや、それは無理だ。君島さんはお前を怖がっているし、彼女を危険な目に合わせるわけにはいかない」
僕が松村に言う度に、僕に抱きつく君島さんの力が強くなるのが感じられた。同時に僕の体が熱くなる。
僕の血を吸いたい欲求が出ないか、それが不安だ。
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