血を吸うかぐや姫

小原ききょう

文字の大きさ
上 下
47 / 132

地を這うもの①

しおりを挟む
◆地を這うもの

 暗い廊下の先を歩く靴音が聞こえる。松村と君島さんだ。
 だが、二人の話す声は聞こえない。ひたすら、何かの目的に向かっているように感じる。

「屑木くん。ライターを持ってきました?」と佐々木が訊ねた。
「ああ、持ってるよ」
 大広間の燭台の蝋燭に火を点ければ、照明の代わりになる。蝋燭がまだあればの話だが。
 ライターの所在を確認すると、暗い廊下を進み始めた。まもなく大広間に出る。

 その時だった。
「きゃあああっ!」
 闇を切り裂くような女性の叫びが聞こえた。大広間の方からだ。
 佐々木が「君島さんの声でしょうか?」と言った。
「たぶん・・君島さんだ」
 佐々木と走って大広間に入ると、すぐに燭台を探し蝋燭に火を点けた。
 闇の中に、男女の姿が浮かび上がった。
 叫んでいたのは、やはり君島律子だった。

「どうして、私、こんな所にいるのっ!」
 暗闇の中、君島律子が辺りを見回しながら大きな声を出している。
 君島さんは状況が呑み込めないように見えた。なぜ、自分がこんな所にいるのかわからない。
 そんな君島さんの両肩を松村が押さえて、
「落ち着くんだ、君島さん」と言っている。
 が、そんな松村の言葉は意味をなさないようだった。
「いやっ、はなしてっ・・私の体に触らないでっ!」
 そう言って君島さんは松村の手を払いのけた。まるで、「低レベルの男の分際で気安く触らないで」と言わんばかりだった。

 佐々木が「君島さん、どうしちゃったんでしょうね」と言った。
「わからない・・」
 催眠の効果が切れた?
 そうとしか考えられない。
「もしかして」と僕は言って、「君島さんに何らかの催眠をかけていたのは、やはり、松村じゃないのか・・それが、何かのショックで解けてしまったとか・・」
「ここに入ったことで、催眠から解放されたのでしょうか?」
「そう思う」
「それにしても、君島さんのあの様子・・松村くんをひどく毛嫌いしているように見えますよね」
 君島さんにとって、松村は危ないところを助けてくれた騎士じゃなかったのか?
 僕が佐々木にそう言うと、
「でも、そう思っていたのは、私たちだけだったのかもしれませんね」と言った。
 
 確かに、佐々木の話によると、松村はしきりに言っていたらしい。
「君島さんに『屋敷に行こう』って誘うんだ」と。
 
 まさか。
・・僕の頭にある推測が成り立った。

「おい、松村!」
 僕は、君島さんに騒がれ、慌てふためいている松村を呼んだ。
 松村、お前は・・

「な、何だよ。屑木」
 松村は君島さんの変貌に動揺を隠せないようだ。
 そして、君島さんは、たった今、僕たちの存在に気づいたように駆け寄って来て、そのまま僕に抱きついてきた。
「屑木くん・・助けて・・松村くんが怖いの」
 君島さんの僕にしなだれかかるような様子を見て松村が、
「屑木、おまえ、関係ないだろ!」と僕に怒号を浴びせ、
「君島さんを返せ!」と言った。
 松村は、以前の松村ではない・・何かに憑りつかれている。
「いや、それは無理だ。君島さんはお前を怖がっているし、彼女を危険な目に合わせるわけにはいかない」
 僕が松村に言う度に、僕に抱きつく君島さんの力が強くなるのが感じられた。同時に僕の体が熱くなる。
 僕の血を吸いたい欲求が出ないか、それが不安だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

オカルト嫌いJKと言霊使いの先輩書店員

眼鏡猫
ホラー
書店でアルバイトをする女子高生、如月弥生(きさらぎやよい)は大のオカルト嫌い。そんな彼女と同じ職場で働く大学生、琴乃葉紬玖(ことのはつぐむ)は自称霊感体質だそうで、弥生が発する言霊により悪いモノに覆われていると言う。一笑に付す弥生だったが、実は彼女には誰にも言えないトラウマを抱えていた。

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

ルッキズムデスゲーム

はの
ホラー
『ただいまから、ルッキズムデスゲームを行います』 とある高校で唐突に始まったのは、容姿の良い人間から殺されるルッキズムデスゲーム。 知力も運も役に立たない、無慈悲なゲームが幕を開けた。

月のない夜 終わらないダンスを

薊野ざわり
ホラー
イタリアはサングエ、治安は下の下。そんな街で17歳の少女・イノリは知人宅に身を寄せ、夜、レストランで働いている。 彼女には、事情があった。カーニバルのとき両親を何者かに殺され、以降、おぞましい姿の怪物に、付けねらわれているのだ。  勤務三日目のイノリの元に、店のなじみ客だというユリアンという男が現れる。見た目はよくても、硝煙のにおいのする、関わり合いたくないタイプ――。逃げるイノリ、追いかけるユリアン。そして、イノリは、自分を付けねらう怪物たちの正体を知ることになる。 ソフトな流血描写含みます。改稿前のものを別タイトルで小説家になろうにも投稿済み。

5A霊話

ポケっこ
ホラー
藤花小学校に七不思議が存在するという噂を聞いた5年生。その七不思議の探索に5年生が挑戦する。 初めは順調に探索を進めていったが、途中謎の少女と出会い…… 少しギャグも含む、オリジナルのホラー小説。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...