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小山景子
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◆小山景子
「美也子から聞いて来たのよ」
傘の中の景子さんはそう言って、僕に手持ちの傘を差し出した。
景子さんの息が荒いところを見ると、まるで走ってきたかのようだ。どうして?
僕は傘を受け取り、「あ、ありがとう」と言って立ち上がった。お尻が濡れて気持ち悪い。
「美也子がね・・和也兄ちゃんが、おかしい・・ずぶ濡れで走り出した、って言うから、気になって探してたの」
そんな・・そんなことのために・・
僕が感謝の言葉を言う隙も与えず、
「和也くん、すごい顔をしてるわ。まるで魔女に魅入られたみたいな顔よ」
景子さんは僕の顔を眺めながら言った。
伊澄瑠璃子はまさしく魔女のようなものかもしれない。
しかし、肝心の伊澄瑠璃子はどこだ?
「景子さん・・さっき、ここにいた人は?」
僕は辺りを見ながら訊いた。
景子さんは伊澄瑠璃子の姿を見ているに違いない。
しかし・・
「え・・和也くん、今まで誰かと一緒にいたの?」
景子さんは見ていないようだ。彼女はどこに行ったんだ?
雨が止んだ。
景子さんは傘を閉じ、「雨、止んだね」と言った。
「久しぶりだね。和也くんとこうして話すの」
中学の時以来だ。あの箱ブランコに乗った日からは一度も話していない。道で見かけることはあっても挨拶を交わす程度だった。
景子さんの肩や、髪が濡れている。
「和也くん・・それで、何かあったの?」
説明してもわかってくれない。たとえ景子さんでも理解不能なことだ。
母にも、神城にも言えない・・人の血を吸いたいだなんて。
それにこんなことに景子さんを巻き込んではいけない。
僕は首を左右に振って、「何もない・・」と小さく答えた。
そう答えてから、はっとした。
もし、まだ伊澄瑠璃子が、この公園の中にいるとしたら・・
あの屋敷内の惨劇のように、景子さんの喉元に穴が開いて、血が噴き出すかもしれない。
・・そんなのはイヤだ。
「景子さん・・ここは危ないんだ。ここから出ないと」
「え?」
景子さんは何のことか分からない様子で、首を傾げた。「危ないって?・・」と言って景子さんは当たりの様子を伺った。「特に何も危なさそうな物はないけど」
物じゃなくて人なんだ。魔女なんだ。
「ま、魔女がいたんだ」
言ってから、おかしくなった。
「魔女っ?」
景子さんはそう言って、くすっと笑った。「魔女もいないわよ」
「和也くん。やっぱり、何かあったのね」
景子さんには隠せないのか・・
「ねえ、ちょっと話さない」
そう景子さんは言って、「でも、私と話すと、和也くんのお母さんに、怒られるよね」と小さく言った。
「母には、黙ってるよ」もう子供じゃない。もう高校生だ。
景子さんは「じゃ、あそこで」と箱ブランコを指した。
箱ブランコは大きな木の陰になっていて、雨が防げる唯一の場所になっている。最初からここに座ればよかったんだ。
「懐かしいね・・この公園」
そして、「この箱ブランコ・・」と景子さんは言った。
景子さんは脇の鎖に触れ、「錆びてるね」と言った。「あれから、ずいぶんと時間が流れたんだね」
僕と景子さんは向い合せに腰かけた。少し、照れ臭い。
あれから時間も経っているし、景子さんの容姿もずっと大人びて見えた。
僕はジャージ。景子さんはジーンズ。もっとマシな格好で出てくればよかった。
「和也くんが、さっき、昔みたいに『景子お姉ちゃん』と呼んでくれたこと・・嬉しかったよ」
そう言って、景子さんは懐かしむように微笑んだ。
そう・・昔は、景子さんのことを、時々そう呼んでいた。
景子さんを呼ぶときは、たいてい『景子さん』なのに、『景子お姉ちゃん』と呼んでしまうことがある。年上の幼馴染だから自然とそう呼んでしまうのだろう。
それに・・僕がそう呼ぶと、景子さんは喜んでくれた。
「景子さん・・今は、大学生なんだよね」
「うん」と景子さんが答える。
「すごく難関の大学だって聞いたよ」
「それ、言ったの。うちの男兄弟のだれかね」景子さんはそう言って笑った。
景子さんは、昔から頭が良かった。
本もたくさん読んでいるし、ピアノだって上手い。それに博学だ。
けれど、景子さんが、兄弟5人の中で浮いた存在なのはどうしてだろう?
妹の美也子ちゃんと、顔もタイプも全然違う。似た部分が一つもない。
それに、景子さんが他の兄弟と仲良くしているところも見たことがない。妹の美也子ちゃんともだ。
だから、今日、美也子ちゃんが僕のことを景子さんに言ったというのが不思議なくらいだ。
「和也くん。今でも、よく本を読んでるの?」
「最近は、読んでない」と僕は答えた。それはおそらく景子さんと話す機会がなくなってしまったせいだと思った。今のクラスで、読書は話題に上がらない。
僕は「景子さんは?」と尋ねた。
景子さんは「私は・・」と考えた後、「受験勉強中の時はあまり読んでなかったけれど、大学に入ってからは、よく読んでいるわよ」と言った。
そんな前置きのような会話を弾ませた後、景子さんは、
「和也くん」と僕の名を呼び、
「それで・・何があったの?」と再び尋ねた。
そんなこと言えない・・言えるわけがない。
久しぶりに会った景子さんに、言えるわけがない。言いたくない。
血を吸いたい話なんて・・気味悪がられるに決まっている。
「誰も信じないし・・誰にも言いたくない話なんだ」
と僕は言って俯いた。
景子さんの返事がないので、顔を上げた。景子さんは微笑んでいた。そして、
「だから、聞きたいんじゃない」景子さんは優しい声で言った。
本当は言いたい。誰かに・・いや、景子さんに聞いて欲しい。
でも、ダメだ。こんなことは言ってはダメだ。
女性の血を吸いたい・・それはダメなんだ。
そう思って、僕は景子さんの顔に目をやった。優しい顔がそこにはある。
しまった!・・どうして、僕は景子さんの顔を見てしまったんだ。
当たり前のことだが、景子さんも母や、神城と同じように女性だったのだ。
僕は景子さんの首筋に視線を走らせてしまった。
欲望・・いや、血を吸いたいという衝動が高まってくるのが分かった。心臓の鼓動が激しくなり、息も荒くなる。
こんな時に・・久しぶりに景子さんと再会したっていうのに、僕は・・
「和也くん・・どうしたの?」
僕は「なんでもない」と答えて俯いた。箱ブランコの鎖をぎりぎりと握りしめる。
それでも治まらない欲望を打ち消すように両膝にがりがりと爪を立てる。
止まらない・・景子さんの喉元を噛みたい。
「何でもないことは・・ないじゃない」
景子さんはそう言って、僕の横に腰かけた。バランスを失った箱ブランコがぎいっと傾く。
僕は慌てて、
「景子さん・・ダメなんだ・・僕に近づいては・・」と、途切れ途切れに言った。
「えっ・・」
「僕から、はなれて・・」離れてくれっ!
「和也くん・・どうして?」
景子さんの戸惑いの表情が目に映るのと同時に、景子さんの首筋に目が移る。
綺麗だ。
綺麗と思うのと同時に、その中に流れるものを吸い上げたいという欲望が突き上がってくる。
「どうしてって・・どうしても」体が動かない。箱ブランコから出ればいいだけなのに。
景子さんに傍にいて欲しいのに、離れて欲しい。
一体、僕は・・どうしたらいいんだ!
「ああっ!」と、僕は叫んで、
景子さんの肩を力づくで押さえ込んだ。互いの顔が向かい合った。
「和也くん」景子さんの驚きの表情が目の前にある。
僕の息が「はあっ、はあっ」と荒いのを、景子さんは観察するように見ている。恥ずかしい。
どうして僕は、久しぶりに会った景子さんにこんなことをしてしまったのだろう?
ダメだ・・このままでは、僕は景子さんの喉元に歯を立ててしまう。
・・そう思った瞬間、信じられないことが起きた。
僕の体は景子さんに抱き締められていた。
「け、景子さん?」
僕の顔は、景子さんの胸の中にあった。景子さんの温もりが伝わり、景子さんの体の柔らかさが感じられる。
あまりの突然の出来事に、さっきまでの衝動が吹き飛び、気分が落ち着いた。
「・・景子お姉ちゃん」
僕が顔を起こそうとすると、景子さんは更に力を入れ、僕の体を抱き寄せた。
「和也くん、大丈夫・・もう大丈夫よ」景子さんはそう繰り返した。
「本当に、何でもないんだ・・なんでも・・」
そう僕は言ったのに、何度も言ったのに・・
繰り返し言う度に、景子さんの僕を抱き留める力が強くなっていく。
その力を感じるごとに、
景子さんに嘘はつけない・・そう思った。
「美也子から聞いて来たのよ」
傘の中の景子さんはそう言って、僕に手持ちの傘を差し出した。
景子さんの息が荒いところを見ると、まるで走ってきたかのようだ。どうして?
僕は傘を受け取り、「あ、ありがとう」と言って立ち上がった。お尻が濡れて気持ち悪い。
「美也子がね・・和也兄ちゃんが、おかしい・・ずぶ濡れで走り出した、って言うから、気になって探してたの」
そんな・・そんなことのために・・
僕が感謝の言葉を言う隙も与えず、
「和也くん、すごい顔をしてるわ。まるで魔女に魅入られたみたいな顔よ」
景子さんは僕の顔を眺めながら言った。
伊澄瑠璃子はまさしく魔女のようなものかもしれない。
しかし、肝心の伊澄瑠璃子はどこだ?
「景子さん・・さっき、ここにいた人は?」
僕は辺りを見ながら訊いた。
景子さんは伊澄瑠璃子の姿を見ているに違いない。
しかし・・
「え・・和也くん、今まで誰かと一緒にいたの?」
景子さんは見ていないようだ。彼女はどこに行ったんだ?
雨が止んだ。
景子さんは傘を閉じ、「雨、止んだね」と言った。
「久しぶりだね。和也くんとこうして話すの」
中学の時以来だ。あの箱ブランコに乗った日からは一度も話していない。道で見かけることはあっても挨拶を交わす程度だった。
景子さんの肩や、髪が濡れている。
「和也くん・・それで、何かあったの?」
説明してもわかってくれない。たとえ景子さんでも理解不能なことだ。
母にも、神城にも言えない・・人の血を吸いたいだなんて。
それにこんなことに景子さんを巻き込んではいけない。
僕は首を左右に振って、「何もない・・」と小さく答えた。
そう答えてから、はっとした。
もし、まだ伊澄瑠璃子が、この公園の中にいるとしたら・・
あの屋敷内の惨劇のように、景子さんの喉元に穴が開いて、血が噴き出すかもしれない。
・・そんなのはイヤだ。
「景子さん・・ここは危ないんだ。ここから出ないと」
「え?」
景子さんは何のことか分からない様子で、首を傾げた。「危ないって?・・」と言って景子さんは当たりの様子を伺った。「特に何も危なさそうな物はないけど」
物じゃなくて人なんだ。魔女なんだ。
「ま、魔女がいたんだ」
言ってから、おかしくなった。
「魔女っ?」
景子さんはそう言って、くすっと笑った。「魔女もいないわよ」
「和也くん。やっぱり、何かあったのね」
景子さんには隠せないのか・・
「ねえ、ちょっと話さない」
そう景子さんは言って、「でも、私と話すと、和也くんのお母さんに、怒られるよね」と小さく言った。
「母には、黙ってるよ」もう子供じゃない。もう高校生だ。
景子さんは「じゃ、あそこで」と箱ブランコを指した。
箱ブランコは大きな木の陰になっていて、雨が防げる唯一の場所になっている。最初からここに座ればよかったんだ。
「懐かしいね・・この公園」
そして、「この箱ブランコ・・」と景子さんは言った。
景子さんは脇の鎖に触れ、「錆びてるね」と言った。「あれから、ずいぶんと時間が流れたんだね」
僕と景子さんは向い合せに腰かけた。少し、照れ臭い。
あれから時間も経っているし、景子さんの容姿もずっと大人びて見えた。
僕はジャージ。景子さんはジーンズ。もっとマシな格好で出てくればよかった。
「和也くんが、さっき、昔みたいに『景子お姉ちゃん』と呼んでくれたこと・・嬉しかったよ」
そう言って、景子さんは懐かしむように微笑んだ。
そう・・昔は、景子さんのことを、時々そう呼んでいた。
景子さんを呼ぶときは、たいてい『景子さん』なのに、『景子お姉ちゃん』と呼んでしまうことがある。年上の幼馴染だから自然とそう呼んでしまうのだろう。
それに・・僕がそう呼ぶと、景子さんは喜んでくれた。
「景子さん・・今は、大学生なんだよね」
「うん」と景子さんが答える。
「すごく難関の大学だって聞いたよ」
「それ、言ったの。うちの男兄弟のだれかね」景子さんはそう言って笑った。
景子さんは、昔から頭が良かった。
本もたくさん読んでいるし、ピアノだって上手い。それに博学だ。
けれど、景子さんが、兄弟5人の中で浮いた存在なのはどうしてだろう?
妹の美也子ちゃんと、顔もタイプも全然違う。似た部分が一つもない。
それに、景子さんが他の兄弟と仲良くしているところも見たことがない。妹の美也子ちゃんともだ。
だから、今日、美也子ちゃんが僕のことを景子さんに言ったというのが不思議なくらいだ。
「和也くん。今でも、よく本を読んでるの?」
「最近は、読んでない」と僕は答えた。それはおそらく景子さんと話す機会がなくなってしまったせいだと思った。今のクラスで、読書は話題に上がらない。
僕は「景子さんは?」と尋ねた。
景子さんは「私は・・」と考えた後、「受験勉強中の時はあまり読んでなかったけれど、大学に入ってからは、よく読んでいるわよ」と言った。
そんな前置きのような会話を弾ませた後、景子さんは、
「和也くん」と僕の名を呼び、
「それで・・何があったの?」と再び尋ねた。
そんなこと言えない・・言えるわけがない。
久しぶりに会った景子さんに、言えるわけがない。言いたくない。
血を吸いたい話なんて・・気味悪がられるに決まっている。
「誰も信じないし・・誰にも言いたくない話なんだ」
と僕は言って俯いた。
景子さんの返事がないので、顔を上げた。景子さんは微笑んでいた。そして、
「だから、聞きたいんじゃない」景子さんは優しい声で言った。
本当は言いたい。誰かに・・いや、景子さんに聞いて欲しい。
でも、ダメだ。こんなことは言ってはダメだ。
女性の血を吸いたい・・それはダメなんだ。
そう思って、僕は景子さんの顔に目をやった。優しい顔がそこにはある。
しまった!・・どうして、僕は景子さんの顔を見てしまったんだ。
当たり前のことだが、景子さんも母や、神城と同じように女性だったのだ。
僕は景子さんの首筋に視線を走らせてしまった。
欲望・・いや、血を吸いたいという衝動が高まってくるのが分かった。心臓の鼓動が激しくなり、息も荒くなる。
こんな時に・・久しぶりに景子さんと再会したっていうのに、僕は・・
「和也くん・・どうしたの?」
僕は「なんでもない」と答えて俯いた。箱ブランコの鎖をぎりぎりと握りしめる。
それでも治まらない欲望を打ち消すように両膝にがりがりと爪を立てる。
止まらない・・景子さんの喉元を噛みたい。
「何でもないことは・・ないじゃない」
景子さんはそう言って、僕の横に腰かけた。バランスを失った箱ブランコがぎいっと傾く。
僕は慌てて、
「景子さん・・ダメなんだ・・僕に近づいては・・」と、途切れ途切れに言った。
「えっ・・」
「僕から、はなれて・・」離れてくれっ!
「和也くん・・どうして?」
景子さんの戸惑いの表情が目に映るのと同時に、景子さんの首筋に目が移る。
綺麗だ。
綺麗と思うのと同時に、その中に流れるものを吸い上げたいという欲望が突き上がってくる。
「どうしてって・・どうしても」体が動かない。箱ブランコから出ればいいだけなのに。
景子さんに傍にいて欲しいのに、離れて欲しい。
一体、僕は・・どうしたらいいんだ!
「ああっ!」と、僕は叫んで、
景子さんの肩を力づくで押さえ込んだ。互いの顔が向かい合った。
「和也くん」景子さんの驚きの表情が目の前にある。
僕の息が「はあっ、はあっ」と荒いのを、景子さんは観察するように見ている。恥ずかしい。
どうして僕は、久しぶりに会った景子さんにこんなことをしてしまったのだろう?
ダメだ・・このままでは、僕は景子さんの喉元に歯を立ててしまう。
・・そう思った瞬間、信じられないことが起きた。
僕の体は景子さんに抱き締められていた。
「け、景子さん?」
僕の顔は、景子さんの胸の中にあった。景子さんの温もりが伝わり、景子さんの体の柔らかさが感じられる。
あまりの突然の出来事に、さっきまでの衝動が吹き飛び、気分が落ち着いた。
「・・景子お姉ちゃん」
僕が顔を起こそうとすると、景子さんは更に力を入れ、僕の体を抱き寄せた。
「和也くん、大丈夫・・もう大丈夫よ」景子さんはそう繰り返した。
「本当に、何でもないんだ・・なんでも・・」
そう僕は言ったのに、何度も言ったのに・・
繰り返し言う度に、景子さんの僕を抱き留める力が強くなっていく。
その力を感じるごとに、
景子さんに嘘はつけない・・そう思った。
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