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芦田堂
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◇
「あら、店番? 今日は一人なのね」
時々お店に来る女の人だ。今日はお連れさんがいる。
妹さん?・・娘さんだろうか?
「はい、お母さんは風邪ひいちゃって、奥で休んでいるんです。お父さんは配達に行ってます」
「もう風邪なの? ちょっとまだはやいわねえ」
昨日からお母さんは熱を出して私は学校から帰るとすぐにお店に出るようにしている。
お父さんはお得意さんまわりで忙しい。
店番はお店が忙しい時期もよく出ているからもう慣れっこだ。
「うちのヨウイチと同じ年なのに偉いわ」
ヨウイチ? どこかで聞いたことある名前だ。
年上の方の女性と話している間、連れ添いの女性が陳列棚を眺めながら和菓子を見ている。
「ねえちゃん、これも買ってかまへん?」私の一番好きな大福餅を指した。
姉妹なんだ。ずいぶんと年が離れているみたいだ。それにあまり似ていない。
「あんまり食べ過ぎると太るわよ」
私は忘れずに「それ、三つ買ってくれはったら、どら焼きが一つおまけに付くんです」と説明した。いつもお父さんに言われている通りに。
「ねえちゃん、そしたら、三つ買おっ」
「ユミコ、もっと太るわよ。かまへんの?」
「大丈夫よ。あとでヨウちゃんと、うんと遊ぶから」
ヨウちゃんって、弟さんだろうか?
別のお客さんがお店に入ってきた。「いらっしゃいませ!」大きな声で言う。子供連れだ。
「あの、そしたら、この新作の羊羹と柏餅十個と大福も三つもらえるかしら」お姉さんの方が注文した。
「ありがとうございます」私はお礼を言ってレジを叩き精算を済ませると和菓子全部とおまけのどら焼きを包んで紙袋に入れた。
「大きなお怪我やね」
ユミコと呼ばれていた女性が私のおでこに貼られたガーゼを指した。
「はい、でもたいしたことありません。それと、うちのあんこ、そんなに太りませんから」
「ごめんね。うちのねえちゃん、いっつも、ああ言うねん」
その人は優しそうな微笑みを浮かべた。
「ユミコ、行くわよ」先に出口の方に行っていたお姉さんの方が声をかけた。
「また来るわね」と言って妹さんはお姉さんの方へ駆け寄っていった。
「またお越しください」私は大きな声を出して、そのあと丁寧に頭を下げる。
「よっ、智ちゃん、頑張っとるなあ。今日も店番か」
藤田のおじさんがお店に入ってきた。藤田さんは隣の銭湯のご主人だ。同時に「芦田堂」の大のお得意さんでもある。
うちのお饅頭をよく食べているせいなのか、はっきり言って太っている。お腹も思いっきり出ていて、たぷたぷと揺れている。
「息子が新作の羊羹、えらい気にいってなあ。また買ってきてくれって言われたんや」
藤田さんの息子さんは私のクラスメイトの藤田くんだ。
藤田くんは全然太っていない。
「どんどん、買ってください。お父さんも喜びます」
私が羊羹を包んでいる間、藤田さんは椅子に座って汗を拭いている。もう十月だというのに。
「ああ、この汗か、ボイラーの掃除しとったんや」藤田さんは私が訊いてもいないのにそう言って笑った。
藤田さんは近くのアパートの小川さんの叔父さんでもある。小川さんとは小さい時、アパートの砂場でよく遊んだ。
小川さんは四年生になる頃にはおばあさんの駄菓子屋の手伝いや店番をするようになり遊ぶ機会もなくなった。
「また、悠子と遊んだってな」藤田さんは社交辞令のようにいつもそう言う。
「あら、店番? 今日は一人なのね」
時々お店に来る女の人だ。今日はお連れさんがいる。
妹さん?・・娘さんだろうか?
「はい、お母さんは風邪ひいちゃって、奥で休んでいるんです。お父さんは配達に行ってます」
「もう風邪なの? ちょっとまだはやいわねえ」
昨日からお母さんは熱を出して私は学校から帰るとすぐにお店に出るようにしている。
お父さんはお得意さんまわりで忙しい。
店番はお店が忙しい時期もよく出ているからもう慣れっこだ。
「うちのヨウイチと同じ年なのに偉いわ」
ヨウイチ? どこかで聞いたことある名前だ。
年上の方の女性と話している間、連れ添いの女性が陳列棚を眺めながら和菓子を見ている。
「ねえちゃん、これも買ってかまへん?」私の一番好きな大福餅を指した。
姉妹なんだ。ずいぶんと年が離れているみたいだ。それにあまり似ていない。
「あんまり食べ過ぎると太るわよ」
私は忘れずに「それ、三つ買ってくれはったら、どら焼きが一つおまけに付くんです」と説明した。いつもお父さんに言われている通りに。
「ねえちゃん、そしたら、三つ買おっ」
「ユミコ、もっと太るわよ。かまへんの?」
「大丈夫よ。あとでヨウちゃんと、うんと遊ぶから」
ヨウちゃんって、弟さんだろうか?
別のお客さんがお店に入ってきた。「いらっしゃいませ!」大きな声で言う。子供連れだ。
「あの、そしたら、この新作の羊羹と柏餅十個と大福も三つもらえるかしら」お姉さんの方が注文した。
「ありがとうございます」私はお礼を言ってレジを叩き精算を済ませると和菓子全部とおまけのどら焼きを包んで紙袋に入れた。
「大きなお怪我やね」
ユミコと呼ばれていた女性が私のおでこに貼られたガーゼを指した。
「はい、でもたいしたことありません。それと、うちのあんこ、そんなに太りませんから」
「ごめんね。うちのねえちゃん、いっつも、ああ言うねん」
その人は優しそうな微笑みを浮かべた。
「ユミコ、行くわよ」先に出口の方に行っていたお姉さんの方が声をかけた。
「また来るわね」と言って妹さんはお姉さんの方へ駆け寄っていった。
「またお越しください」私は大きな声を出して、そのあと丁寧に頭を下げる。
「よっ、智ちゃん、頑張っとるなあ。今日も店番か」
藤田のおじさんがお店に入ってきた。藤田さんは隣の銭湯のご主人だ。同時に「芦田堂」の大のお得意さんでもある。
うちのお饅頭をよく食べているせいなのか、はっきり言って太っている。お腹も思いっきり出ていて、たぷたぷと揺れている。
「息子が新作の羊羹、えらい気にいってなあ。また買ってきてくれって言われたんや」
藤田さんの息子さんは私のクラスメイトの藤田くんだ。
藤田くんは全然太っていない。
「どんどん、買ってください。お父さんも喜びます」
私が羊羹を包んでいる間、藤田さんは椅子に座って汗を拭いている。もう十月だというのに。
「ああ、この汗か、ボイラーの掃除しとったんや」藤田さんは私が訊いてもいないのにそう言って笑った。
藤田さんは近くのアパートの小川さんの叔父さんでもある。小川さんとは小さい時、アパートの砂場でよく遊んだ。
小川さんは四年生になる頃にはおばあさんの駄菓子屋の手伝いや店番をするようになり遊ぶ機会もなくなった。
「また、悠子と遊んだってな」藤田さんは社交辞令のようにいつもそう言う。
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