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少女たちの出会い②

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「弾いてあげようか?」
 私はピアノを指した。どうして私はそんなことを言い出したのだろう。
「石谷さん、ピアノ弾けるの?」
「少しね」
 少しではない。毎日、何時間も練習をしている。発表会にも出た。
 本当は同級生の前では弾きたくないのだけど芦田さんの持っている雰囲気に呑まれたのかもしれない。誰かに今の実力を聞いて欲しくなった。
「弾いて、弾いてっ・・私、聴きたいっ」
 私は「うん」と言って書架に並べてある譜面の本の中からショパンを取り出した。
 そして、すぐにショパン練習曲第3番ホ長調「別れの曲」を見つける。
 私は暗い音楽室でピアノを弾き始めた。今練習中の曲だ。
 ここで弾くのは初めてではない。先生に許可をもらって昼休みに何度も弾いたりしている。いつも通りにピアノを弾きながら私は考えていた。
 そういえば私、友達いなかったな。毎日、家に真っ直ぐ帰ってピアノの練習ばかりしてた。休み時間に話したりする子はいても、こうやって誰かと二人きりになって話すのは初めてだ。
「すごい、すごい! 今の曲、何ていうの?」
 弾き終わるとすぐに芦田さんはパチパチと手を叩いた。
「ショパンの『別れの曲』よ」
 途中までだけど完璧に弾けて少し自慢だった。
「よかったあ・・でもせっかく加奈ちゃんとこうして出会えたのに『別れの曲』はちょっとなあ」
 芦田さんは「別れ」という題目に不満みたい。
 もう一曲弾くのにはもう時間がない。昼休みはあまりにも短い。
 あれ、それより今、この子、私のことを「加奈ちゃん」って言ったわよね。
 私の名前は石谷加奈子。芦田さんが私の名前を知っているのは不思議でも何でもないことだけどずいぶん馴れ馴れしい。
「ごめんなさい。芦田さん、加奈ちゃん、って友達みたいな言い方は、ちょっと」
「えへへ、私たち、もう友達だよ」芦田さんはにんまりと笑った。
「どうして?」
「だって、お父さんにいつも言われてるの。困った時に助けてくれる人は友達だって」
 芦田さんがニコニコしながら私を見ている。
 今、気がついた。芦田さんって丸い顔をしている。

 下校時間になると芦田さんは私の席にちょこちょこと寄ってきた。
「加奈ちゃん、一緒に帰ろうよ。家の方向、同じだよね?」
「別にいいけど、芦田さんの家って、学校から近くなかった? 私の家、遠いんだけど」
 窓の外を見ると雨が本格的に降り始めている。
「はい、傘! 私、二本持ってきてるから」
 芦田さんは私に折り畳み傘を差し出した。
「えっ」・・この子、用意がいい。
「雨、降ってるよ。加奈ちゃん、傘、持ってきてないでしょ」
「そうだけど・・いいの?」
「いいの、いいの。困った時はお互い様って言うじゃない。お父さんがいつも言っているよお」
 ぷっと吹き出して笑いそうになった。この子、いつもお父さんに言われている言葉が出てくる。
 二人で校門まで出ると親が傘を持って迎えに来てくれるのを待っている子が大勢いた。
 私の場合は家が遠すぎて迎えに来てもらうのはすごく大変だ。芦田さんが傘を貸してくれていなければ先生に言って貸し出してもらうつもりだった。
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