上 下
158 / 167

お茶の時間①

しおりを挟む
◆お茶の時間

 如月カオリは僕の家に立ち寄り、サツキさんの姿を認識すると、「サツキもここにいたんだな」と言った。そして、リビングでの立ち話が始まった。
「イムラ・・あれでよかったのか?」と僕に言った。
 もちろん、いいはずはない。島本さんの気持ちは聞けていない。
 僕が、「人の気持ちの整理には、時間がかかる」と応えると、
「それでいいのか? ドールもそうだが、人間にも残された時間はそうないはずだ」と言った。
 何も行動せぬまま、年をとる。如月カオリはそう言いたいのだろう。島本さんもぐずぐずはしていられない。
 だが、ドールは?
「如月カオリ、今、人間に残された時間はそうない、と言ったが、ドールにも時間がない・・そう言ったよな?」
 僕が訊ねると如月カオリはコクリと頷き、「言った」と短く答えた。
「どういうことだ?」
 すると如月カオリは僕の顔を見ながら、
「イムラ・・これはローズから聞いた話だが、そこの幼女型ドール・・」
 如月カオリは部屋に佇んでいるイズミを指して言った。
 イズミが顔を上げ、僕を見た。
「幼女じゃない。イズミという名前がある」
 僕が言うと、如月カオリは「ふっ」と今までに見たことのない笑みを浮かべ、
「知っているよ。イズミの中には、ミチルというワタシの義理の娘の思念があるのだからね」と言った。
 そして、
「イズミは、米国規格の中○製のフィギュアドールだが、近々、そのフィギュアプリンターは販売が禁止されるらしい」と言った。
「それは、ネットの情報で見たことがある。色々と不具合があるようだな」
 外製のドールは、人の思念で創られる。
 故に犯罪を目論むような人間の思念をプリンターに送り込めば、犯罪を犯す可能性のあるドールが出来上がるということだ。
 そのことにようやく気付いた機関が、外製のプリンターの販売の禁止に乗り出したということだ。だが、イズミのようにこうして出来上がっているものについてはどうしようもない。
 当初は販売の自粛要請だったが、ようやく禁止となったのか。

 だが、イズミは既に僕のものだ。プリンターが販売されなくても、イズミは僕の傍にいいる。
 そう安易に考えていた僕に如月カオリはこう言った。
「問題は、プリンターの販売の終了もそうだが、既に製作しているドールの回収が行われるかもしれない」と言った。
 え?
 一瞬、何のことか分からなかった。如月カオリは何を言っているのか? 意味不明の言葉に思えた。
 気がつくと、僕の心臓はドクドクと分かるほど音を立てている。
「如月カオリ、言葉を返すようだが、一度買ったものは、何かの権利が生ずるだろう。そこまではどこかの機関も手がだせないはずだ」
「まだ私も聞いたところだが、機関は何年かかけて、その作業を行うようだ」
「作業?」
「ドールの回収作業だ」
 ドールの回収だと! 冗談じゃない。その言葉に僕の怒りが爆発した。
「そんなことはさせるものか!」怒鳴る相手はいないが、そう叫ばざるを得なかった。
 如月カオリは、僕の表情を見ても、何とも思わないようだ。
 すると、イズミが、僕のそばに寄ってきて、
「・・ということは、ワタシはショブンされるのですね?」としょんぼりした声色で言った。
 そんなイズミの不安そうな顔を、なぜか如月カオリは優しげな瞳で見つめた。
「イムラ・・その気持ちは人間の所有欲というものなのか?」
 その問いに、僕はこう答えた。
「いや違う・・『家族の一員を失いたくない』という気持ちは所有欲という言葉では片付けられない」
 僕の強い言葉に、如月カオリが「ふっ」と微笑んだように見えた。
 同時に、イズミがペッタリと僕に寄り添った。その様子をサツキさんが微笑ましく見つめた。

 僕は「如月カオリ、ローズから聞いた話というのはどれくらい信憑性があるんだ?」と訊ねた。
「まだ決定事項ではない」
 少しホッとした。
「このプランには、反対する人間も多いと聞いている」
「反対する人間?」
「ドールにも人格を認める。そう語りだす者たちが増えてきている」
「当り前だ。僕のような人間は少なからずいるだろうし、ドールを所有していなくても、無茶な事案は反発を招くものだ」

 僕が少し落ち着きを取り戻すと、
 僕の心情を察知したのか、イズミとサツキさんがお茶の用意を始めた。
 まるで人間の以心伝心のように、サツキさんが湯を沸かし始め、イズミが湯呑を棚から出してきた。
 それも、四人分だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

冬に鳴く蝉

橋本洋一
SF
時は幕末。東北地方の小さな藩、天道藩の下級武士である青葉蝶次郎は怠惰な生活を送っていた。上司に叱責されながらも自分の現状を変えようとしなかった。そんなある日、酒場からの帰り道で閃光と共に現れた女性、瀬美と出会う。彼女はロボットで青葉蝶次郎を守るために六百四十年後の未来からやってきたと言う。蝶次郎は自身を守るため、彼女と一緒に暮らすことを決意する。しかし天道藩には『二十年前の物の怪』という事件があって――

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...