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来訪者②
しおりを挟むそう思った瞬間には、既に僕は島本さん部屋の呼び鈴を押していた。
中から出てきたのは、もちろん、島本さんだが、その奥に、如月カオリが仁王立ちしているのが認められた。いつもの黒のパンツスーツ姿だ。
島本さんは僕を部屋に通し、「こちらが、そのドールさんよ」と如月カオリを指した。
「イムラミノルか・・」
如月カオリが小さく言った。相変わらずの口調だ。
僕は、「この前は助かったよ。ありがとう」と手短に礼を述べた。
如月カオリには、コンサート会場で危ないところを助けてもらった。
「別に、大したことではない」
如月カオリはそう言って、サングラスをくいと上げた。その中には蒼い瞳があった。
「やっぱり、井村くんの知っているドールだったのね」と島本さんが、ほっとしたように言った。
そして、「私には、何の用事もないはずなんだけど、さっき、呼び鈴が鳴ったから、誰か、と思って少しドアを開けた隙に、こうなのよ」と状況を説明した。なるほど、チェーンが切れている。「全くビックリするわよ。勝手に上り込んで来るんだもの」
そうまでして如月カオリが、島本さん宅を訪れた理由は一つしかないだろう。
島本さんは更に、「それに、こちらのドールさん。変な事ばかり言うのよ」と訴えた。
「変なこと?」
「そう、変なことよ」
島本さんは頷くと、
「このドールさんは、『あなたは、こんな場所で何をやっているの?』って、しきりに言うのよ。意味が分からないわ・・それで井村くんに慌てて電話したのよ」と言った。
如月カオリは、「島本由美子の言う通りだ」と肯定して、再び島本さんをギロリと見て、
「あなたは、何をやっているのだ?」と言った。
強い口調だが、如月カオリは、饒舌なローズと比べるとどうも口数が少ない。説明下手だ。
僕は、「それでは、島本さんに分からないじゃないか。ちゃんと分かるように説明してくれ」と如月カオリを戒めるように言った。
すると如月カオリは、しばらく間を置いた後、
「すぐ近くに、自分の娘がいるというのに・・なぜ、会おうとしない」と言った。
その言葉で、狭い部屋の中に沈黙が訪れた。
如月カオリは、島本さんに、「自分の娘が近くに住んでいるのに、どうして会いにいかない?」そう言っている。
島本さんは、「私の娘・・って、あなたは、ミチルのことを言っているの?」と如月カオリに訊いた。
如月カオリはコクリと頷き、「そうだ」と言った。
如月カオリは、亡くなった草壁夫人の思念のコピーだ。
彼女が生前、どんな女性だったのか僕は知らない。知っているのは、草壁会長との間に子供が出来なく、草壁会長は島本さんとの間に出来たミチルという女の子を奪い取るようにして、夫婦の娘として育てた。
更に草壁会長は、島本さんに、「ミチルに会ってはならない」と、釘を刺している。
それ故に、島本さんは、実の娘が近くにいるのにも関わらず、会うことができないでいる。
たった一人の娘。たった一人の家族であるのに・・
第三者から見れば、おかしな関係でも、当人にとってはそうではないらしい。
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