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パーティ行①
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◆パーティ行
「島本のおばさん、見てください!」
アパートの下の小さな広場で、イズミがクルクルと回っている。スカートがふわりと風で持ち上がり、風で飛んでいきそうな帽子を手で押さえ回っている。
まるで少女が母親に、買ってもらった服を着て披露しているように見えた。
ただ、その動きはやはり規則正しい機械的な動きだ。
だが見る者にとっては、そこに感情を投射し、本当の少女のようにも見える。
イズミと二人で、出かけようとしていたところ、買い物帰りの島本さんに出会ったのだ。
「あら、イズミちゃん、この間の服、着てくれているのね」
島本さんから有難く頂いたゴシックロリータ調の服は、着ているところをまだ見せていなかった。
「似合っていますか?」
「可愛いわよ。すごく似合っているわ」
イスミは、島本さんの言葉を聞くと、僕の時のように、「可愛い」と何度も復唱した。
そんなイズミを見ながら島本さんは、
「井村くん、お出かけなの?」と訊いた。
「ええ、これから、イズミを連れて、会社のパーティに行くんですよ」
島本さんは、「時代は変わったわねえ。ドールとパーティなんて・・」と感嘆の声を洩らした。
「ワタシは、ミノルさんのお役に立つそうです」
イズミは、島本さんに向かって誇らしげに言った。
「あら、イズミちゃん、偉いわねえ」
島本さんがべた褒めすると、イズミは、「ワタシは、エライ」と復唱し、その目を僕に向けた。
イズミの顔が僕の反応を待っているように見える。
「ミノルさん、ワタシは、エライですか?」そう訊ねている顔だ。
僕は、真顔で「イズミは偉いぞ」と言った。
イズミは、島本さんが見ているのにも関わらず、デレっとなってしまった。その場で、またクルクルと回り出した。
その様子を見て、島本さんが僕に「イズミちゃん、ご機嫌ですね」と笑った。
僕は島本さんの笑顔を見ながら、
「あの、島本さん、一つ聞いていいですか?」と切り出した。
「何、井村くん?」
島本さんは僕に向き直った。
「島本さんは、娘さん・・ミチルさんの写真を見たことがありますか?」
そう僕が訊ねると、しばらく沈思したあと、顔を上げ、
「あるわよ」と小さく返した。
「そうですか」
僕はその後、言葉を続けなかった。
島本さんの返事に、アパートの広場の時間が止まったような気がした。
島本さんは、草壁会長のブログを見ている。
やはり、それは悲しい作業に違いない。
島本さんは別れ際、「イズミちゃん、パーティ、楽しんでらっしゃい!」と言っていたが、
別にイズミを楽しませるために行くのではない。
分かってはいるが、イズミに未知の世界を見せたい、そんな気持ちも心のどこかにあった。
そんなイズミを愛車ムーブの助手席に乗せ、パーティ会場に向かった。
パーティ会場は、草壁グループの系列のホテルの一階で行われている。
会場の中心にグランドピアノが置かれているような大きな部屋だ。
数社のグループ会社の懇親会も兼ねているので、人数が多い。少なくとも、これほどの規模のパーティに僕は参加したことはない。
僕のような平社員に近い人間の来るような所ではない。当然、植村や、佐山さん、清水さんもこんな場違いの所には来ない。
そして、会長の娘、草壁ミチルもいない。
それが自然だろう。ここは大人たちのいる場所だ。女子高生が来るような場所ではない。
挨拶は、草壁グループの会長ではなく、グループ会社の専務が行い、その後は無礼講となるパーティのようだった。ただ親睦を深めるための時間だ。無粋な商談をする者もいない。
そんなご大層な場所に、イズミを連れて、わざわざ来たのは、山田課長の妻、山田瞳子に近づくためだ。
参加者でドールを連れ添っている人間は、なにも僕だけではないようだ。
まず、この場にいるドールの数にも驚かされる。
自分の会社には、僕のように個人で所有しているものを除いては、ドールは一体もいない。そして、取引先の飯山商事には、かつてのサツキさんのようなB型ドールが数十体。そして、エレナさんのようなA型ドールも何人かいた。その中には、山田課長の所有する如月カオリ、そして、自称、草壁会長の愛人だというローズもいる。いや、ローズの場合は、飯山商事にいるというよりも、グループの頂点の草壁(株)にいると言った方が正しい。
会社におけるドールについては、彼女たちしか知らない。
だが、グループ会社の集まりとなると、ドールの数もこれまでとは全く違う。
見た目でドールと判別できるA型ドールを連れてきている人間が、何人もいる。
まるで恋人のように、腕を組んでいる男女。護衛のように後ろに立たせている男。
又は、待合所に控えさせている者。
驚いたのは、今回初めて見ることになった光景だ
年配の女性が、若い美男子のようなドールと不似合いなカップルのようにじゃれ合っている。まるで、ホストに入れ込んでいる金持ちの女性のように見える。
そんなドールとのカップルになっている男女は特に目を引いた。
もちろこの会場内には、普通の夫婦もいる。しかし、人間のカップルよりも、相方がドールの男女の方が目立つのはどういうわけだろう。単純に目新しいというだけなのだろうか。
「島本のおばさん、見てください!」
アパートの下の小さな広場で、イズミがクルクルと回っている。スカートがふわりと風で持ち上がり、風で飛んでいきそうな帽子を手で押さえ回っている。
まるで少女が母親に、買ってもらった服を着て披露しているように見えた。
ただ、その動きはやはり規則正しい機械的な動きだ。
だが見る者にとっては、そこに感情を投射し、本当の少女のようにも見える。
イズミと二人で、出かけようとしていたところ、買い物帰りの島本さんに出会ったのだ。
「あら、イズミちゃん、この間の服、着てくれているのね」
島本さんから有難く頂いたゴシックロリータ調の服は、着ているところをまだ見せていなかった。
「似合っていますか?」
「可愛いわよ。すごく似合っているわ」
イスミは、島本さんの言葉を聞くと、僕の時のように、「可愛い」と何度も復唱した。
そんなイズミを見ながら島本さんは、
「井村くん、お出かけなの?」と訊いた。
「ええ、これから、イズミを連れて、会社のパーティに行くんですよ」
島本さんは、「時代は変わったわねえ。ドールとパーティなんて・・」と感嘆の声を洩らした。
「ワタシは、ミノルさんのお役に立つそうです」
イズミは、島本さんに向かって誇らしげに言った。
「あら、イズミちゃん、偉いわねえ」
島本さんがべた褒めすると、イズミは、「ワタシは、エライ」と復唱し、その目を僕に向けた。
イズミの顔が僕の反応を待っているように見える。
「ミノルさん、ワタシは、エライですか?」そう訊ねている顔だ。
僕は、真顔で「イズミは偉いぞ」と言った。
イズミは、島本さんが見ているのにも関わらず、デレっとなってしまった。その場で、またクルクルと回り出した。
その様子を見て、島本さんが僕に「イズミちゃん、ご機嫌ですね」と笑った。
僕は島本さんの笑顔を見ながら、
「あの、島本さん、一つ聞いていいですか?」と切り出した。
「何、井村くん?」
島本さんは僕に向き直った。
「島本さんは、娘さん・・ミチルさんの写真を見たことがありますか?」
そう僕が訊ねると、しばらく沈思したあと、顔を上げ、
「あるわよ」と小さく返した。
「そうですか」
僕はその後、言葉を続けなかった。
島本さんの返事に、アパートの広場の時間が止まったような気がした。
島本さんは、草壁会長のブログを見ている。
やはり、それは悲しい作業に違いない。
島本さんは別れ際、「イズミちゃん、パーティ、楽しんでらっしゃい!」と言っていたが、
別にイズミを楽しませるために行くのではない。
分かってはいるが、イズミに未知の世界を見せたい、そんな気持ちも心のどこかにあった。
そんなイズミを愛車ムーブの助手席に乗せ、パーティ会場に向かった。
パーティ会場は、草壁グループの系列のホテルの一階で行われている。
会場の中心にグランドピアノが置かれているような大きな部屋だ。
数社のグループ会社の懇親会も兼ねているので、人数が多い。少なくとも、これほどの規模のパーティに僕は参加したことはない。
僕のような平社員に近い人間の来るような所ではない。当然、植村や、佐山さん、清水さんもこんな場違いの所には来ない。
そして、会長の娘、草壁ミチルもいない。
それが自然だろう。ここは大人たちのいる場所だ。女子高生が来るような場所ではない。
挨拶は、草壁グループの会長ではなく、グループ会社の専務が行い、その後は無礼講となるパーティのようだった。ただ親睦を深めるための時間だ。無粋な商談をする者もいない。
そんなご大層な場所に、イズミを連れて、わざわざ来たのは、山田課長の妻、山田瞳子に近づくためだ。
参加者でドールを連れ添っている人間は、なにも僕だけではないようだ。
まず、この場にいるドールの数にも驚かされる。
自分の会社には、僕のように個人で所有しているものを除いては、ドールは一体もいない。そして、取引先の飯山商事には、かつてのサツキさんのようなB型ドールが数十体。そして、エレナさんのようなA型ドールも何人かいた。その中には、山田課長の所有する如月カオリ、そして、自称、草壁会長の愛人だというローズもいる。いや、ローズの場合は、飯山商事にいるというよりも、グループの頂点の草壁(株)にいると言った方が正しい。
会社におけるドールについては、彼女たちしか知らない。
だが、グループ会社の集まりとなると、ドールの数もこれまでとは全く違う。
見た目でドールと判別できるA型ドールを連れてきている人間が、何人もいる。
まるで恋人のように、腕を組んでいる男女。護衛のように後ろに立たせている男。
又は、待合所に控えさせている者。
驚いたのは、今回初めて見ることになった光景だ
年配の女性が、若い美男子のようなドールと不似合いなカップルのようにじゃれ合っている。まるで、ホストに入れ込んでいる金持ちの女性のように見える。
そんなドールとのカップルになっている男女は特に目を引いた。
もちろこの会場内には、普通の夫婦もいる。しかし、人間のカップルよりも、相方がドールの男女の方が目立つのはどういうわけだろう。単純に目新しいというだけなのだろうか。
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