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そんな運命の物語②

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 そんな風に、佐山さんは、エレナさんと新しいスタートを切ったようだが、
 同僚の植村の方は、嘆かわしい話を持ち出してきた。
「井村、俺、たいへんなところを見られてさあ」
 植村は顔を合わせるなりそう言った。
「清水さんに見られたんだろ? ドールのお母さんといるところを」
「ええっ、どうして、そのことを」
「佐山さんに聞いたよ」
「ということは、佐山さんも知っているのかあ」
「別にいいじゃないか。ずっと隠しているより。罪の意識から逃れたんだから」
 僕がそう言っても、植村は「しかしなあ・・よりによって、ドール。それもお母さんタイプだぞ」とぶつぶつ言っていた。
「しかし、当の清水さんはそれほど気にしていないと、佐山さんから聞いたぞ」
 そう僕が慰めると、「そっかあ」と植村は明るい表情を取り戻した。

 そんな植村の相手をした後、僕は残務整理をし、全ての業務を終えると、改めて自分の机のデスクトップに向かった。

 ネットで調べること・・
 それは、ローズが言っていた「ミチル」についてだ。
 駐車場での別れ際、ローズは「ミチル」という名を、如月カオリさまから聞いた、と言っていた。
 ローズは、「ミチルについて、イムラは知っているの?」と尋ねた。
 僕は知らない、と返事をした。
「ミチル」は隣の島本さんの生き別れの娘さんの名だ。
 だが、僕が知っていることをローズに言ってはいけない。そんな気がした。

 如月カオリは、イズミとケーブルを使って交信した際、「ミチル」の思念も流れ込んできたのだろう。その思念は島本さんが元であり、発信源だ。
 なぜか、如月カオリは、その「ミチル」の思念に関心を持った。
 なぜか?
 それは如月カオリが「ミチル」という名を知っていたからに他ならない。
 更に想像を巡らせると、
 僕の住むアパートは、同時に、島本由美子さんの住んでいる家でもある。
 そもそも、如月カオリが、イズミを拉致するという目的は、山田課長が僕の所持するドールに興味を示したことだと言っていた。
 その出発点が違ったのではないか? 
 如月カオリは、山田課長が興味を持ったイズミが住んでいる「僕のアパート」に興味を持ったということだ。
 すごく単純なことに今まで気がつかなかった。
 如月カオリにとって、当然、僕みたいな人間は眼中にないだろう。
 何が彼女にとって、最も関心があったのか?
 それは、
 ・・島本由美子が住んでいるアパートに、思念で作成された外製のAIドールがいる。
 そのことに関心があったのだ。
 僕が、山田課長と、初対面の如月カオリに会った時、彼女はその事に興味を示した。
 まず、如月カオリは山田課長が思念送信型のドールに興味を示した時、僕の住所を調べたのだろう。そして、気づいた。
 アパートにまだ島本由美子がいるということを。
 つまり、如月カオリは、隣に住んでいる島本さんのことを知っているということだ。
 如月カオリにとっては、イズミの二重思考よりも、こちらの興味の方が大きかったのかもしれない。

 僕は、そこから更に想像を巡らせた。
 それは、島本さんから娘を奪っていった男のことだ。
 相手の男は、草壁会長・・その人自身ではないだろうか?
 もしそうであれば、全ての話が繋がる。
 島本さんの話では、相手の男は地元でも有名な資産家だということだ。年齢がどれくらいなのか、未だ知らないが可能性は十分ある。
 そして、ローズが言うように、如月カオリのAIが草壁会長の妻だということが本当であれば、草壁会長の奥さんは亡くなっていることになる。
 つまり、島本さんの娘が養女として、草壁家にとられた、だが、義母はもうこの世にいない。そういうことだ。
 これは僕の想像に過ぎない。
 だが、そうでないと、如月カオリがイズミにこだわる理由。「ミチル」という言葉を発した理由の説明がつかない。

 そして、如月カオリは、思念で作成されたドールにイズミと交信し、「ミチル」の思念に触れたのだ。
 如月カオリのAIは、草壁会長の亡き妻の思念で構成されている。
 そして、イズミの思念の半分は、島本さんの娘「ミチル」の思念が宿っている。
 つまり、
 二人のドールは、義理の母娘の思念AIという関係だ。

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