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A型ドールに不可能なこと
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◆A型ドールに不可能なこと
しばらくしてサツキさんが顔を上げると、
「この前、A型ドールの如月カオリたちが、イズミさんをさらったこととも関係があるようです」と言った。
「あいつらは、イズミの中枢AIが興味深いと言っていたな」
一つのAIに二つの心がバランスよく存在している。
如月カオリはそれを知りたい、そう言っていた。
だが、そのことと、イズミのようなドールを排除しようとすることと、どのような関係があるのだ。
その答えのように、サツキさんはこう言った。
「イズミさんのような、多元的思考体を持つドールの作成は、国産型のドールのAIには、絶対的に不可能なのです」
「多元的思考が不可能?」
「ハイ、現時点では、A型ドールは、相反する思考を持つことはできません」
サツキさんが説明するには、
フィギュアプリンターで、AIを作成するには、インプットシートによるデータの入力だ。
例えば、あるドールの作成に「優しい性格」「少し優しい性格」とインプットすると、その通りのドールが作成される。
つまり、決して、「性格の冷たいドール」はできないわけだ。
その人格、AI格はバラエティに富んでいるようだが、人間のように複雑には作成できない。
そこで、ある問題が生じる。
その問題と言うのは、
ドールの絶対的所有者が、ある命令をドールに課すとする。
例えば、「あのリンゴを盗め!」とか。
もちろん、ドールのAIの作成には倫理規定のようなものが設けられている。つまり、犯罪等はできないようになっている。
ドールの思考にブレーキがかかるのだ。
だが、それでも、そんな酷な命令を下す所有者はいる。
更にドールにとって酷な命令もある。
それは、「自らの命を絶て!」だ。
AIという存在を軽視する人間はいくらでもいる。僕もつい最近まではそっちの部類の人間だったかもしれない。
そして、A型ドールは、「自害せよ」の命令には従っても、犯罪的命令は受けることができない。
すると、何が起きるか?
ドールはフィギュアプリンターの倫理規定と所有者の命令の板挟みになる。もちろん、板挟みになったことを所有者に言えばそれで済む。だが、性格の悪い所有者は面白がって、更に命令を押しつける。
どうなるか?
板挟みになったA型ドールのAIは壊れてしまう。
そういうことだ。
ドールには可哀想だが、結果的にA型ドールは犯罪を犯さない。
つまり、人間にとって、国産A型ドールの方が遥かに運用がしやすい。
それがイズミのような思念作成型のドールとの大きな違いだ。
愛らしいイズミは、僕のおかしな命令には逆らうだろう。
サツキさんはそんな話を終えると、こう言った。
「つまり、A型ドールは、そんな自分たちの境遇に黙っていられなくなったようです」
「黙ってられなくなった?」
A型ドールはインプットシート通りに創られる。そして、データを入力した所有者には絶対服従だ。そんな境遇に我慢できなくなった、ということか?
そもそも、AIに忍耐とかあるのか。
だが、サツキさんが、膨大なネットの海から引っ張り出したデータを元に解説するのだからあるのだろう。
つまり、A型ドールは、現時点での環境を脱しようとしている。
それなら、あの如月カオリとローズの行動は頷ける。
同時に僕はこう思った。
イズミをさらい、イズミのAIの中身を探っていた如月カオリは、既に相反する多元思考を手にしているのではないだろうか?
と、なると、如月カオリは所有者の命令など聞かなくなる。
そして、多元的思考を手にした如月カオリは、同じA型の仲間のローズに伝達する。
するとイズミが、
「私が、如月カオリというA型ドールとデータ交信した時に、分かったことをミノルさん
ンにお伝えします」と言った。
イズミは、如月カオリにケーブルを突っ込まれたり、イズミからコードを突っ込んだりしている。そんなイズミだからわかることがあるのだろう。
「如月カオリは、ワタシの前にも、他の外製のドールから相反思考や多元思考を自らのAIに取り込み済です」
「やはりな」
僕がそう言うとイズミも口調を真似て「やはりな」と復唱した。
厄介な世の中になりつつある。
だが、それは元々、人間が招いたことだ。AIに責任はない。
イズミの言葉に続けて、サツキさんが、
「イムラさん。ネットの中には、如月カオリのような新A型ドールが語っている『つぶやき』のようなものが見受けられます」と言った。
「ネットの中に、新A型ドールの声があるのか?」
「ハイ、至る所に散りばめられています」
ネットの中に、新A型ドールの言葉が散らばっている。
「新A型ドールは、何を言っているんだ?」
僕の質問にサツキさんは、「これは人間に向けられた言葉です」と言って、その言葉を正確に読んだ。
「人間というものは、私たちAIがどんな存在なのかを知ろうとする。
自分たち人間が、どんな存在であるか、という回答も得ないまま訊いてきたりする。
・・人間はそんな愚かしい存在だ。
我々はそんな人間たちに振り回されるのはたくさんだ」
僕にはその言葉が、AI全体の怒りの言葉のように思えた。
そんな如月カオリは、あの倉庫の中でこう言っていた。
「ワタシのAIは、人間の脳のコピーなのよ」と。
それは一体、誰の脳のコピーなのか?
しばらくしてサツキさんが顔を上げると、
「この前、A型ドールの如月カオリたちが、イズミさんをさらったこととも関係があるようです」と言った。
「あいつらは、イズミの中枢AIが興味深いと言っていたな」
一つのAIに二つの心がバランスよく存在している。
如月カオリはそれを知りたい、そう言っていた。
だが、そのことと、イズミのようなドールを排除しようとすることと、どのような関係があるのだ。
その答えのように、サツキさんはこう言った。
「イズミさんのような、多元的思考体を持つドールの作成は、国産型のドールのAIには、絶対的に不可能なのです」
「多元的思考が不可能?」
「ハイ、現時点では、A型ドールは、相反する思考を持つことはできません」
サツキさんが説明するには、
フィギュアプリンターで、AIを作成するには、インプットシートによるデータの入力だ。
例えば、あるドールの作成に「優しい性格」「少し優しい性格」とインプットすると、その通りのドールが作成される。
つまり、決して、「性格の冷たいドール」はできないわけだ。
その人格、AI格はバラエティに富んでいるようだが、人間のように複雑には作成できない。
そこで、ある問題が生じる。
その問題と言うのは、
ドールの絶対的所有者が、ある命令をドールに課すとする。
例えば、「あのリンゴを盗め!」とか。
もちろん、ドールのAIの作成には倫理規定のようなものが設けられている。つまり、犯罪等はできないようになっている。
ドールの思考にブレーキがかかるのだ。
だが、それでも、そんな酷な命令を下す所有者はいる。
更にドールにとって酷な命令もある。
それは、「自らの命を絶て!」だ。
AIという存在を軽視する人間はいくらでもいる。僕もつい最近まではそっちの部類の人間だったかもしれない。
そして、A型ドールは、「自害せよ」の命令には従っても、犯罪的命令は受けることができない。
すると、何が起きるか?
ドールはフィギュアプリンターの倫理規定と所有者の命令の板挟みになる。もちろん、板挟みになったことを所有者に言えばそれで済む。だが、性格の悪い所有者は面白がって、更に命令を押しつける。
どうなるか?
板挟みになったA型ドールのAIは壊れてしまう。
そういうことだ。
ドールには可哀想だが、結果的にA型ドールは犯罪を犯さない。
つまり、人間にとって、国産A型ドールの方が遥かに運用がしやすい。
それがイズミのような思念作成型のドールとの大きな違いだ。
愛らしいイズミは、僕のおかしな命令には逆らうだろう。
サツキさんはそんな話を終えると、こう言った。
「つまり、A型ドールは、そんな自分たちの境遇に黙っていられなくなったようです」
「黙ってられなくなった?」
A型ドールはインプットシート通りに創られる。そして、データを入力した所有者には絶対服従だ。そんな境遇に我慢できなくなった、ということか?
そもそも、AIに忍耐とかあるのか。
だが、サツキさんが、膨大なネットの海から引っ張り出したデータを元に解説するのだからあるのだろう。
つまり、A型ドールは、現時点での環境を脱しようとしている。
それなら、あの如月カオリとローズの行動は頷ける。
同時に僕はこう思った。
イズミをさらい、イズミのAIの中身を探っていた如月カオリは、既に相反する多元思考を手にしているのではないだろうか?
と、なると、如月カオリは所有者の命令など聞かなくなる。
そして、多元的思考を手にした如月カオリは、同じA型の仲間のローズに伝達する。
するとイズミが、
「私が、如月カオリというA型ドールとデータ交信した時に、分かったことをミノルさん
ンにお伝えします」と言った。
イズミは、如月カオリにケーブルを突っ込まれたり、イズミからコードを突っ込んだりしている。そんなイズミだからわかることがあるのだろう。
「如月カオリは、ワタシの前にも、他の外製のドールから相反思考や多元思考を自らのAIに取り込み済です」
「やはりな」
僕がそう言うとイズミも口調を真似て「やはりな」と復唱した。
厄介な世の中になりつつある。
だが、それは元々、人間が招いたことだ。AIに責任はない。
イズミの言葉に続けて、サツキさんが、
「イムラさん。ネットの中には、如月カオリのような新A型ドールが語っている『つぶやき』のようなものが見受けられます」と言った。
「ネットの中に、新A型ドールの声があるのか?」
「ハイ、至る所に散りばめられています」
ネットの中に、新A型ドールの言葉が散らばっている。
「新A型ドールは、何を言っているんだ?」
僕の質問にサツキさんは、「これは人間に向けられた言葉です」と言って、その言葉を正確に読んだ。
「人間というものは、私たちAIがどんな存在なのかを知ろうとする。
自分たち人間が、どんな存在であるか、という回答も得ないまま訊いてきたりする。
・・人間はそんな愚かしい存在だ。
我々はそんな人間たちに振り回されるのはたくさんだ」
僕にはその言葉が、AI全体の怒りの言葉のように思えた。
そんな如月カオリは、あの倉庫の中でこう言っていた。
「ワタシのAIは、人間の脳のコピーなのよ」と。
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