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イズミのバージョンアップ①

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◆イズミのバージョンアップ

「イズミタイプのドールの大きな情報って何だ?」
 あまり期待しないでおこう。
 僕のそんな反応ぶりを見て、イズミは立ち上がって、湯を沸かし始めた。
「ミノルさん、お話の前に、お茶をどうぞ」
 イズミはそう言って差し出した。
 イズミは自分の話を聞いて欲しい時に、よくお茶を勧める。
 特に飲みたくもなかったが、熱いのを我慢して口をつけると、
「美味しいですか?」と尋ねた。
 僕が「そうだな」と答えると、
「前に入れた時と、どちらが美味しいですが?」と訊いた。
「茶葉を変えたのか?」と訊くと、「いえ、前と同じです」と返した。
「なら、一緒だろ」と強く言うと、
 イズミは、
「前より、煎れ方が上手になったか、と」と言った。
 そういうことか。
 あまり味の変わらないお茶を「少し香りがよくなった気がする」と言うと、イズミは気をよくしたのか、得意気に話を始めた。
 まず、
「ミノルさん・・ワタシを創ったプリンターのメーカーさんから、おメールが届いているようです。そこからの情報です」
 メール?
 あ、そうか。今は、イズミはパソコンと繋げているから、それくらいはわかるのか。
「メーカーからって・・どんなメールだ?」
 久しく、メールチェックをしていなかったな。
「バージョンアップのお知らせです」とイズミは答えた。
 僕は「どれどれ」と言って、パソコンのディスプレイを覗き込んだ。
 すると、
「ミノルさん、パソコンを見る、そして、読む必要はありません。ワタシが話します」
 イズミはそう言って僕がパソコンを見るのを遮った。
「いや、イズミ、話を聞くより、メールを読む方が早いだろ」僕は抗議する。
 イズミは納得いかないのか、
「ワタシの話を聞く方が効率的です」とむくれた。
 そんな様子を見てサツキさんが笑って、
「イムラさん、ここはイズミさんの顔を立てて、お話を聞いてあげてはいかがでしょうか」と僕に折れるように言った。
 サツキさん、優しい! 僕とイズミの刺々しい会話の中和剤のようだ。

 僕はサツキさんの意見に従い、イズミの話を聞くことにした。

「ミノルさん。ワタシのバージョンアップは、このケーブルで行えます」
「そうか・・」
 買っといて良かったでしょ、と言いたいのか?

「それで、どんなバージョンアップなんだ?」
 少し興味が沸く。
 そんな僕の心を見透かすように、
「ミノルさん。楽しみですか?」と尋ねた。
 僕は「いや、それほどでも」と答えた。「楽しみ」と言うと癪だ。
 すると、サツキさんが、
「イムラさん。お顔に『楽しみ』と書かれていますよ」と微笑んだ。
 なんだか、ドール二人に弄ばれている気分だ。

 僕はやけくそになって「ああ、楽しみだ。だから、早く教えてくれ」と急かした。
 僕がそう言うと、イズミは再び、
「ミノルさん。二杯目のお茶をどうぞ」とまたお茶を勧めた。
 仕方なくまた飲むと、
 イズミは、
「ワタシのバージョンアップは、『思念読み取り能力』の追加です」と言った。
「思念読み取り能力?」
 よくわからないが、なんかすごいバージョンアップだな。
 まさか、追加払いがあるんじゃないだろうな?
 僕が経費のことを訊ねると、
「無料。只です」と答えた。
「そうか」と一安心していると、
「つまり、元々フィギュアプリンターに備わっていた思念を読み取る装置を、ドール自体に埋め込んだものです」
「プリンターに元々あったもの」
「元々あるものだから、経費はかからないのです」
 よくわからないが・・更に凄いな。普通、金はとるだろ。

「それって、ケーブルは使わないのか?」
「使いません」とイズミは言って、
 イズミは冷笑するような顔になり、
「ミノルさんは、ワタシを創った時、ミノルさんの頭とプリンターを繋がれましたか?」
「そんなことするわけないだろ!」
 考えただけでゾッとする。僕の頭にケーブルの端子が差し込まれたところを想像しただろ!
「ならば、無線ということです」
 なんか、腹立つ言い方! 
 横でサツキさんがくすくすと笑っている。

 イズミは、続けて説明した。B型ドールの並列思考以外では、ドール同士は、ケーブルで繋がないと情報が読み取れない。
 しかし、人間の思念は読み取れる。
 人間の思念は、イズミ曰く「漂っている」ものらしい。
 それって・・人魂のように聞こえるが。
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