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B型ドールの変化

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◆B型ドールの変化

 島本さんが帰った後、僕はイズミに訊いた。
「なあ、イズミ、さっきの『おかあさん』っていうの・・あれは本当にお前の中のミチルが言ったのか?」
 あれはイズミの三文芝居だと勝手に解釈していた。しかし、
「ワタシにも理解不能です」と言った。「ワタシの中には別のAIがいます」
 そうだったのか。
 それはそれで問題だな。

 すると、サツキさんが、
「意外でしたね。島本さんは、イムラさんの申し出をお断りするものとばかり思っていました」と言った。
 そう、島本さんは断らなかった。
 島本さんは「あの人は、地元では有名な人だから、隠してもいつかはわかるわ」と言った。
 今はネット社会だ。
 そんな有名な人であれば、その娘の名前、ミチルで検索すればヒットするかもしれないし、イズミの顔で類似画像検索をすれば出てくるかもしれない。
 ま、その可能性は低いな。
 僕はサツキさんに、
「島本さんは、僕の強引さに観念したんじゃないかな」と応えた。
 すると、サツキさんは、「そうでしょうか?」と首を傾げ、
「島本さんは、イムラさんに賭けているのではないでしょうか?」と言った。
 島本さんが僕に賭ける?
「サツキさん・・悪いけれど、意味が分からない」
「私にもよくわかりませんが、島本さんは、イムラさんが何とかしてくれる・・そうお思いになっているのではないでしょうか?」
 もしそうだとしても、それは買いかぶりだ。 
 僕は何もできない。

 そんな会話をしていると、宅配便があった。
 届けられた物は、この前ネットで注文しておいた価格一万円のケーブルだった。
 これは、イズミの体とパソコンをつなぐコードだ。つまりイズミのAIとネットの海とを繋ぐ。
 イズミが言うには、これで何か新しい情報を取り込めるらしい。
 これ以上、何かを知る必要があるのかどうかはわからない。
 けれど、イズミ独自、かつ勝手な判断に、ネットの情報がバックアップされる。こう言うとイズミのことを信頼していないみたいだが、このケーブルを欲したのは当のイズミだ。
 イズミはさっそくノートパソコンと自分の体・・下着を捲り上げ繋いだ。

 ケーブルを繋ぐとイズミの目が点滅し始める。その目を見て、イズミがAIドールだと改めて認識する。
 僕が「イズミ、何か面白い情報でもあったか?」と訊いた。
 単なる面白い情報なら、僕が検索サイトで探せばいいだけの話だが、おそらくそうじゃないだろう。
「ハイ、ミノルさん。面白いです」
「何が面白い?」
「興味深いです」
「何が、そんなに興味深いんだ?」
「サツキさんに関係があるお話があります」
 ありますって、それ、ネットを検索して読んでいるのと変わりないじゃないか。
 ケーブル代の一万円を出した意味があるのか?

 イズミの興味深いという話は、サツキさんの前世でもあるB型ドールの話だった。
 サツキさんは、現在はセクサロイド型ドールのSドールだが、それ以前は国産B型ドールだった。
 単純作業に従事する専用のドールとして創られていた。その容姿も数パターンしかなく、A型ドールに優越感を持たせるべく黙々と働いていた。
 そして、短い命を終える。
 そんなB型ドールのAI・・つまり思考回路が「優しく」なってきたというのだ。
 その原因は、イズミ曰く「並列思考」が原因だそうだ。
 B型ドールを繋ぐ巨大な並列思考に変化が生じている。
 イズミが読み解くには、並列思考に変化を与えているのは、内部的要因ではなく、外的なものらしい。
 それはつまり人間の感情だ。
 人間の感情・・大勢のB型ドールの所有者の感情を並列思考が取り込み、それぞれのドールの性格を変えていく。
 それがどう変わったかと言うと、「優しく」だ。
 
 そんなB型ドールの変化に着目した社会は、B型ドールを介護職、保育士等へ就け始めた。
 人間よりもトラブルを起こさない・・そんなフレーズのようなものがB型ドールに付せられた。
 そこで問題とされたのが、B型ドールの寿命だ。
 B型ドールの寿命は短い。その理由は、B型ドールは、A型ドールの安価版であり、その体の構造が安価に作られている。つまり、フィギュアプリンターの材料費や、プリンターそのものの価格が安い。
 これまで素通りしてきたような寿命の問題が軽視できなくなってきた。
 それは、人間が寂しがる生き物だからだ。
 例えば、老人を介護しているB型ドールが亡くなる。
 老人より遥かに短く一生を終えてしまう。
 それは大きな問題となった。かといって、A型ドールを介護等に使えば、コストが5倍以上も膨らんでしまう。
 自分より先にドールに死なれた老人が、寂しさの余り、自害するようなケースも多くあったようだ。
 現在は、フィギュアプリンターのメーカーがこぞって、B型ドールの寿命を延ばすべく鋭意努力している。
 イズミはそんな話を長々とした。

「なあ、イズミ」と僕はイズミに呼びかけた。「今、イズミがしたB型ドールの話は、ネットで調べたら載っているんだろ?」
「ハイ、おそらく載っています。どこにでも」
「それって、イズミがケーブルをパソコンに差し込んで情報を収集するのとどう違うんだよ?」
 別に、出費したケーブル代の元を取ろうとか思わないが、気になる。
「雑多な情報をまとめたものをミノルさんにご提供できます」
「情報をまとめたもの?」
「ハイ。そうです。『まとめる』というは、誤った情報を切り捨て、その中から取捨選択し、更に選り抜きの、粒選りの情報をミノルさんに、ご提供できます」
 イズミは目を輝かせながらそう説明した。
「そうか・・それは助かる。誤った情報には触れたくないからな・・」
 なんか癪だな。僕がネットで誤った情報を読んでいるみたいだ。

 サツキさんは、イズミの言葉に感心したように、
「それは、いいかもしれませんね」と頷き、
「私たちの並列思考の場合ですと、間違った情報も取り込み、仲間のドールがそれを取り込むケースもありますから」と言った。
 なるほど。
 B型ドールは情報を共有できる大きなメリットがあるが、その情報が正しいとは限らない。またはフロンティアの時のように真実を隠したりもする。
 ならば、イズミがパソコンに繋いで、その情報をイズミが取捨選択するというのもいいかもしれない。
 と思っていると、イズミがすりすりと体を寄せてきて、
「ミノルさん、更に大きな情報があります」と言った。
「大きな情報?」
 それより顔が近い!
「ハイ、私たち、中○製のドールに関することです」
 そうイズミは言った。

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