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三人目のA型ドール②
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構内は幸いにも人の出入りは皆無だ。
サツキさんは、旧館に向かった。旧館と言っても、取り壊されずにそのまま放置してああるような場所だ。近づくと更にそれがわかる。入口が元々なかったのか、はずれたのか、要するに、誰でも入れるようになっている。
「この中の、休憩室のような場所に、イズミさんがいるようです」
サツキさんはそう言って、「まだいれば・・ですが」と小さく言った。
その通りだ。如月カオリが、この場所から移動していれば、それで終わりだ。
イズミのいる場所を探す作業は振り出しに戻る。
だが・・
「ミノルさん・・」
僕を呼ぶイズミの声が聞こえた気がした。
僕はサツキさんに「イズミは、まだここにいます」と断言した。
サツキさんは、僕の顔を見て、
「お二人は・・強いキズナで結ばれているのですね」と言った。
僕は、「イズミは・・大事な友達です」と答えた。
「イズミ!」僕は大きく呼びかけた。
そんな僕にサツキさんは「休憩所は、二階のようです」と言った。
奥に薄汚れた階段がある。ギイギイと軋む階段が崩れることのないように、歩を進めた。
「イムラさん、お気をつけてください」とサツキさんが注意喚起した。
「ゆっくり上がっているよ」
階段だけでなく、床も壁も崩れかけている。
しかし、サツキさんが忠告したのは、建物のことではなかったようだ。
「イズミさん以外のドールがいるようです」
ドール・・あのドールか。
「サツキさんには、そんなことがわかるのですか?」
僕の問いにサツキさんは「気配を感じます」と返した。
「たぶん・・そのドールは、A型ドールの新型、如月カオリという名のドールです」
僕はサツキさんに、そのドールの特徴を説明した。
「そのドール・・ワタシの思考内には存在しないようです」
「存在しない?」
僕の問いに、サツキさんは「ハイ」と頷いた。
「サツキさんの並列思考・・つまり、B型ドール間で交わされる情報の中にもいない・・そういうことですか?」
並列思考・・サツキさんは、元並列思考型のB型ドール。そして、現在は並列思考のAIを引き継いだSドールだ。
そんな並列思考の海の中にも、如月サツキのような新型のドールのデータがないということか。
「ドール間の思考を調べてみましたが、あるのは新型という名称だけで、その中身や特徴についてはまだ不明のようです」
階段も危ないが、床も危険だ。
サツキさんと共に、そろりと歩く。
いた!
二階の隅の小部屋の中にいるのは、間違いなくイズミだ。
だが、問題はその状態だ。
イズミは充電が切れているのか、微動だにせず、板間に仰向けになっている。
その横には黒のパンツスーツの如月カオリが同じように仰向け状態だ。
そして、イズミの脇からドール間を繋ぐコードが伸び、真横のドール・・如月カオリの背に繋がっていた。
如月カオリの方は、充電が切れているとは思えないが、眠るように、イズミと同じ格好で顔を天井に向けている。
目を開けているのかどうか、分からない。黒のサングラスをかけているからだ。
「あの少女型ドールが、イズミさんですね」とサツキさんが訊いた。
イズミ・・いじらしくも、その手に島本さんからの帽子が握られている。
ごめんな、イズミ。
僕がイズミに声をかけようとすると、
僕たちに気づいたのか、隣の如月カオリが上体を起こした。
「このドールの所有者か」如月カオリはそう言った。「つい最近、見た顔ね」
なんか、態度がデカいな。山田課長の前では猫をかぶっていたのか。
「あんた・・如月カオリだろ・・僕に会ってるよ。山田課長と一緒に・・忘れたのか?」
如月カオリは、「ヤマダ?・・」と怪訝な表情で言った。
「山田さんは、あんたの所有者・・ご主人様だよ」
僕が確認するように言うと、
如月カオリは、薄ら笑いを浮かべて、
「ああ、あの所有失格者のことね」と言った。
「失格者?」
山田課長が、如月カオリを所有する適合失格者ということか。
サツキさんは、旧館に向かった。旧館と言っても、取り壊されずにそのまま放置してああるような場所だ。近づくと更にそれがわかる。入口が元々なかったのか、はずれたのか、要するに、誰でも入れるようになっている。
「この中の、休憩室のような場所に、イズミさんがいるようです」
サツキさんはそう言って、「まだいれば・・ですが」と小さく言った。
その通りだ。如月カオリが、この場所から移動していれば、それで終わりだ。
イズミのいる場所を探す作業は振り出しに戻る。
だが・・
「ミノルさん・・」
僕を呼ぶイズミの声が聞こえた気がした。
僕はサツキさんに「イズミは、まだここにいます」と断言した。
サツキさんは、僕の顔を見て、
「お二人は・・強いキズナで結ばれているのですね」と言った。
僕は、「イズミは・・大事な友達です」と答えた。
「イズミ!」僕は大きく呼びかけた。
そんな僕にサツキさんは「休憩所は、二階のようです」と言った。
奥に薄汚れた階段がある。ギイギイと軋む階段が崩れることのないように、歩を進めた。
「イムラさん、お気をつけてください」とサツキさんが注意喚起した。
「ゆっくり上がっているよ」
階段だけでなく、床も壁も崩れかけている。
しかし、サツキさんが忠告したのは、建物のことではなかったようだ。
「イズミさん以外のドールがいるようです」
ドール・・あのドールか。
「サツキさんには、そんなことがわかるのですか?」
僕の問いにサツキさんは「気配を感じます」と返した。
「たぶん・・そのドールは、A型ドールの新型、如月カオリという名のドールです」
僕はサツキさんに、そのドールの特徴を説明した。
「そのドール・・ワタシの思考内には存在しないようです」
「存在しない?」
僕の問いに、サツキさんは「ハイ」と頷いた。
「サツキさんの並列思考・・つまり、B型ドール間で交わされる情報の中にもいない・・そういうことですか?」
並列思考・・サツキさんは、元並列思考型のB型ドール。そして、現在は並列思考のAIを引き継いだSドールだ。
そんな並列思考の海の中にも、如月サツキのような新型のドールのデータがないということか。
「ドール間の思考を調べてみましたが、あるのは新型という名称だけで、その中身や特徴についてはまだ不明のようです」
階段も危ないが、床も危険だ。
サツキさんと共に、そろりと歩く。
いた!
二階の隅の小部屋の中にいるのは、間違いなくイズミだ。
だが、問題はその状態だ。
イズミは充電が切れているのか、微動だにせず、板間に仰向けになっている。
その横には黒のパンツスーツの如月カオリが同じように仰向け状態だ。
そして、イズミの脇からドール間を繋ぐコードが伸び、真横のドール・・如月カオリの背に繋がっていた。
如月カオリの方は、充電が切れているとは思えないが、眠るように、イズミと同じ格好で顔を天井に向けている。
目を開けているのかどうか、分からない。黒のサングラスをかけているからだ。
「あの少女型ドールが、イズミさんですね」とサツキさんが訊いた。
イズミ・・いじらしくも、その手に島本さんからの帽子が握られている。
ごめんな、イズミ。
僕がイズミに声をかけようとすると、
僕たちに気づいたのか、隣の如月カオリが上体を起こした。
「このドールの所有者か」如月カオリはそう言った。「つい最近、見た顔ね」
なんか、態度がデカいな。山田課長の前では猫をかぶっていたのか。
「あんた・・如月カオリだろ・・僕に会ってるよ。山田課長と一緒に・・忘れたのか?」
如月カオリは、「ヤマダ?・・」と怪訝な表情で言った。
「山田さんは、あんたの所有者・・ご主人様だよ」
僕が確認するように言うと、
如月カオリは、薄ら笑いを浮かべて、
「ああ、あの所有失格者のことね」と言った。
「失格者?」
山田課長が、如月カオリを所有する適合失格者ということか。
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