上 下
90 / 167

三人目のA型ドール②

しおりを挟む
 構内は幸いにも人の出入りは皆無だ。
 サツキさんは、旧館に向かった。旧館と言っても、取り壊されずにそのまま放置してああるような場所だ。近づくと更にそれがわかる。入口が元々なかったのか、はずれたのか、要するに、誰でも入れるようになっている。
「この中の、休憩室のような場所に、イズミさんがいるようです」
 サツキさんはそう言って、「まだいれば・・ですが」と小さく言った。
 その通りだ。如月カオリが、この場所から移動していれば、それで終わりだ。
 イズミのいる場所を探す作業は振り出しに戻る。

 だが・・
「ミノルさん・・」
 僕を呼ぶイズミの声が聞こえた気がした。
 僕はサツキさんに「イズミは、まだここにいます」と断言した。
 サツキさんは、僕の顔を見て、
「お二人は・・強いキズナで結ばれているのですね」と言った。
 僕は、「イズミは・・大事な友達です」と答えた。

「イズミ!」僕は大きく呼びかけた。
 そんな僕にサツキさんは「休憩所は、二階のようです」と言った。
 奥に薄汚れた階段がある。ギイギイと軋む階段が崩れることのないように、歩を進めた。

「イムラさん、お気をつけてください」とサツキさんが注意喚起した。
「ゆっくり上がっているよ」
 階段だけでなく、床も壁も崩れかけている。
 しかし、サツキさんが忠告したのは、建物のことではなかったようだ。
「イズミさん以外のドールがいるようです」
 ドール・・あのドールか。
「サツキさんには、そんなことがわかるのですか?」
 僕の問いにサツキさんは「気配を感じます」と返した。

「たぶん・・そのドールは、A型ドールの新型、如月カオリという名のドールです」
 僕はサツキさんに、そのドールの特徴を説明した。
「そのドール・・ワタシの思考内には存在しないようです」
「存在しない?」
 僕の問いに、サツキさんは「ハイ」と頷いた。
「サツキさんの並列思考・・つまり、B型ドール間で交わされる情報の中にもいない・・そういうことですか?」
 並列思考・・サツキさんは、元並列思考型のB型ドール。そして、現在は並列思考のAIを引き継いだSドールだ。
 そんな並列思考の海の中にも、如月サツキのような新型のドールのデータがないということか。
「ドール間の思考を調べてみましたが、あるのは新型という名称だけで、その中身や特徴についてはまだ不明のようです」

 階段も危ないが、床も危険だ。
 サツキさんと共に、そろりと歩く。

 いた! 
 二階の隅の小部屋の中にいるのは、間違いなくイズミだ。
 だが、問題はその状態だ。
 イズミは充電が切れているのか、微動だにせず、板間に仰向けになっている。
 その横には黒のパンツスーツの如月カオリが同じように仰向け状態だ。

 そして、イズミの脇からドール間を繋ぐコードが伸び、真横のドール・・如月カオリの背に繋がっていた。
 如月カオリの方は、充電が切れているとは思えないが、眠るように、イズミと同じ格好で顔を天井に向けている。
 目を開けているのかどうか、分からない。黒のサングラスをかけているからだ。

「あの少女型ドールが、イズミさんですね」とサツキさんが訊いた。
 イズミ・・いじらしくも、その手に島本さんからの帽子が握られている。

 ごめんな、イズミ。
 僕がイズミに声をかけようとすると、
 僕たちに気づいたのか、隣の如月カオリが上体を起こした。
「このドールの所有者か」如月カオリはそう言った。「つい最近、見た顔ね」
 なんか、態度がデカいな。山田課長の前では猫をかぶっていたのか。
「あんた・・如月カオリだろ・・僕に会ってるよ。山田課長と一緒に・・忘れたのか?」
 如月カオリは、「ヤマダ?・・」と怪訝な表情で言った。
「山田さんは、あんたの所有者・・ご主人様だよ」
 僕が確認するように言うと、
 如月カオリは、薄ら笑いを浮かべて、
「ああ、あの所有失格者のことね」と言った。
「失格者?」
 山田課長が、如月カオリを所有する適合失格者ということか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...