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三人目のA型ドール①

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◆三人目のA型ドール

「イムラさん・・イズミさんは、この会社・・飯山商事の第二倉庫にいます」
 サツキさんは、エレナさんから抽出したデータに基づいて僕に報告した。
 やはり、あのエレナさんが、イズミを連れ去ったドールだった。
 そして、エレナさんに指示をしたのが、如月カオリだ。

「第二倉庫・・車だと、20分程度だな」
 そこで、あの女スパイドールがイズミに何をしようとしているのかは知らないが、人の持ち物、所有物・・いや、僕の大事なイズミを奪ったことは、許せない。
 僕は、「サツキさん。その第二倉庫に、これから行きます」と言った。
「ハイ、イムラさん」とサツキさんは綺麗な声で応えた。
 僕とサツキさんが、会社の玄関から出ようとすると、前方のロータリーに高級車が停車し、会社の役員らしき男が降りてきた。あれは、飯山グループの専務の小塚だ。
 そう僕が認識しても、向こうは僕のような小会社の下っ端のことなど知るはずもない。
 
 だが、僕が気になったのは、その専務ではなく、その横を颯爽と歩く女性だ。
 専務を立てて、少し後ろを歩くその背筋と隙のない歩き方。
 間違いなくドール・・B型の顔のパターンではないから、おそらくA型だろう。
 専務といるということは、専務の秘書的役割のドールなのだろうか?

 服装はただのOLの制服。この会社の制服だ。服装が平凡であるにも関わらず、誰よりも目立って見えるのは、何と言っても、その体つき、プロポーションだ。

 この前のエレナさんより身長もあり、胸がかなり豊かだ。臀部も男の欲情をそそる形をしている。高く通った鼻筋に憂いのある瞳、薄い唇。その部位の全てが男の欲情をかきたてる。
 世の女性たちが彼女の容姿を見れば、嫉妬心が起こるか、羨望の眼差しを向けることだろう。

 つまりは、そういうことか・・
 エレナさんと、目の前の彼女との大きな違い。
 エレナさんが意図的にセクシー系に創られているはずなのに、性的な感じがしない。その顔も無機質だった。その理由は、女性が作ったドールだからだ。
 それに対して、目の前を歩く女はセクシーそのものだ。おそらく彼女を創ったのは、男性で、彼女はその男の趣味嗜好なのだろう・・それが大きな違いだ。

 だが・・彼女の顔、どこかで見たことがある。それは、どこだったのだろう。

 玄関の自動ドアが開くと、僕とサツキさんは専務たち一行の行く手を阻まぬように、しりぞき道を開けた。案の定、僕は一礼したが、先方は僕を無視して通り過ぎていく。

 二人が中に入るのと同時に、僕とサツキさんは連れだって外に出た。
 だが、すれ違いざま、
 そのA型ドールがサツキさんを凝視するのを、僕は見逃さなかった。
 そして、
 ドールの顔を見たサツキさんの顔が一瞬、怯んだように見えた。何かの記憶が蘇ったかのように。

 駐車場に着くと、来た時と同じように、サツキさんを車の後部席に載せ車を走らせた。
 その道すがら、
「サツキさん・・さっき、会社の玄関ですれ違ったドール・・会ったことがあるのですか?」と尋ねた。
「いえ・・初めて見るお方です」サツキさんはそう答えた。
「お方」と、言った。「ドール」でもなく、「人」でもなく。

 飯山商事の第二倉庫は、小高い丘を登った所に位置する。主に資材置き場として使用されている倉庫だ。倉庫と言っても巨大な建物で、それは、三棟ほどある。新館のような建物もあり、朽ち果て荒れている旧館みたいな建物もある。
 警備の詰所に、山田課長には話を通してあると言って、僕の会社の名刺を見せた。
 あながち嘘でもない。実際に、山田課長には事前に申し立てをしてある。
「もし、如月カオリのいる場所が、飯山商事の中だったら、課長の許可・・ということにさせてもらいます」
 山田課長は、今回の件の謝罪として、僕の会社への優遇とか、言っていたが、そんなのはどうでもいい。それより、イズミを探すことが優先だった。

 さて、問題は、どこにイズミがいるかだ。
「サツキさん。エレナさんから抽出したデータで、イズミがこの中のどこにいるか、わかりますか?」
 サツキさんに、そこまで細かいことが分かるのだろうか?

 サツキさんは、敷地内の建物を上から下まで、眺め渡した。
「先ほどのA型ドール・・名称『エレナ』の視野情報の通りに、入館すれば」
 視野情報・・イズミのいる場所を、サツキさんは、ここの所在地やエレナさんがここで見た光景までをデータとして取り込んでいる。
 すごい! 改めてドールの性能の凄さを痛感する。

「では、サツキさん。エレナさんの足跡・・いや、エレナさんが見た風景を進んでください」
 サツキさんが歩き始める。僕はその跡をついていく。
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