83 / 167
A型ドールの支配構造①
しおりを挟む
◆A型ドールの支配構造
「井村くん、今回のことは私が悪かった。今度、取引のことで何かあったら、井村くんの会社を優遇することにするよ」
僕は、飯山商事の応接室で山田課長と向かい合っている。
彼の横には、A型ドールは座っていない。
新型の女スパイA型ドールもいなければ、最初に見た秘書型ドールも不在だ。
ドールをはべらせていない山田課長はどことなく不安定で頼りなさげだ。ただのでっぷりと太ったおじさんだ。
今回の件で山田課長は、本当に自分が悪いと思っているのか?
おそらく、深刻だとはとらえていないと思われる。
自分の所持するドールが、意にそぐわない行動を起こしたことの重大さに気づいていないだろう。
あの後、アパートに帰ると、島本さんは僕の帰りを待っていた。彼女からイズミが連れ去られた時の状況を詳しく訊くと、やはり、イズミは自分の意思ではなく、A型ドールに何らかのことをされ無理やり連れて行かれたように推測された。
あくまでも想像だが、A型ドールは、何らかの手を使って、僕の部屋のドアを開けさせた。そして、ドール間を繋ぐケーブルを使って、イズミのAI・・思考を従わせるようにした。それしか考えられない。イズミが、僕と関係ないところで、単独行動をするとはとても思えない。
山田課長は、僕に会うなり、こう言った。
「私のカオリが、井村くんのドールをどこかに持ち去ったようだ」
彼の話によれば・・
僕が山田課長に電話をかけ、イズミのことを問い質した時、カオリさんは、
「山田さまが、井村さんのドールを見たいと言っておりましたので、ドールを取りに行かせました」と言っていたらしい。
「取りに行かせました」・・と。
それが先日、山田課長と如月カオリが僕の携帯の向こうで話していた内容だ。
やはり、イズミを連れて言ったのは、カオリさんではなく、別のドールだ。
山田課長が更にカオリさんを叱りつけると、彼女は突如として姿を消した。
「それで・・如月カオリというAIドールは・・今どこに?」
それが第一の質問だ。
そして・・最大の質問、イズミは、今どこにいる!
どこへ・・あの女スパイドールはイズミをどこへ連れていったんだ!
「カオリは・・私のアパートにいるはずだが・・」自信のないような口調だ。
「アパート? ご自宅ではないのですね」
山田課長の自宅は戸建てのはずだ。
「ああ、アパートだ。私は、妻には内緒で安いアパートを借りている。金があれば別荘でも持ちたいところだが、あいにく安月給でね」
なるほど、山田課長は、愛人を囲うように別宅にドールを住まわせていたというわけか。
「そこに、カオリさんというドールと、僕のイズミがいるんですね」
丁寧に訊いているが、僕の感情は昂ぶっている。会社の関係がなければ、目の前の男を殴ってやりたい。
「そのはずだが・・」と山田課長は更に自信がないように答え、携帯を取り出し、通話を開始した。
相手が通話口に出ると、「おい、カオリ・・今、どこにいる?」と言った。
どうやら電話の相手は如月カオリらしい。山田課長は、彼女に携帯を持たせている。
だが、先方が放った言葉に「何、言えないだと!」と山田課長は言った。
一体どうなっているんだ。
山田課長は続いて、「ひょっとして、井村くんのドールもそこにいるのか?」と尋ねた。
「確かに、私は、井村くんのドールを見てみたいとは言ったが、何もさらってこい、とは言っていないぞ」
先方が何を言っているかは分からない。
「なに? 『見てみたいも、さらって来いも同じ』だと? 違うだろ!」
山田課長の言葉を聞く限りでは、明らかにカオリさんは、主人の意に反する行動を起こしている。
「なんだと・・井村くんのドールに興味がある? だと」
カオリさん自身が、イズミに興味を持った?
それは、なぜだ。
しばらく押し問答が行われた後、山田課長は僕に、
「どうも井村くんのドールとカオリは同じ場所にいるらしいが、カオリはその場所を教えてくれないんだ」
「山田課長のアパートではないのですか?」
「・・違うようだ」と山田課長は答えた。
そんな困った様子の山田課長は、次に内線電話をかけた。
「内海くん、君のドールを連れてこっちに来てくれないか」と言った。
数分もしないうちに、若い社員がドールを連れて応接室に入ってきた。
「井村くん、今回のことは私が悪かった。今度、取引のことで何かあったら、井村くんの会社を優遇することにするよ」
僕は、飯山商事の応接室で山田課長と向かい合っている。
彼の横には、A型ドールは座っていない。
新型の女スパイA型ドールもいなければ、最初に見た秘書型ドールも不在だ。
ドールをはべらせていない山田課長はどことなく不安定で頼りなさげだ。ただのでっぷりと太ったおじさんだ。
今回の件で山田課長は、本当に自分が悪いと思っているのか?
おそらく、深刻だとはとらえていないと思われる。
自分の所持するドールが、意にそぐわない行動を起こしたことの重大さに気づいていないだろう。
あの後、アパートに帰ると、島本さんは僕の帰りを待っていた。彼女からイズミが連れ去られた時の状況を詳しく訊くと、やはり、イズミは自分の意思ではなく、A型ドールに何らかのことをされ無理やり連れて行かれたように推測された。
あくまでも想像だが、A型ドールは、何らかの手を使って、僕の部屋のドアを開けさせた。そして、ドール間を繋ぐケーブルを使って、イズミのAI・・思考を従わせるようにした。それしか考えられない。イズミが、僕と関係ないところで、単独行動をするとはとても思えない。
山田課長は、僕に会うなり、こう言った。
「私のカオリが、井村くんのドールをどこかに持ち去ったようだ」
彼の話によれば・・
僕が山田課長に電話をかけ、イズミのことを問い質した時、カオリさんは、
「山田さまが、井村さんのドールを見たいと言っておりましたので、ドールを取りに行かせました」と言っていたらしい。
「取りに行かせました」・・と。
それが先日、山田課長と如月カオリが僕の携帯の向こうで話していた内容だ。
やはり、イズミを連れて言ったのは、カオリさんではなく、別のドールだ。
山田課長が更にカオリさんを叱りつけると、彼女は突如として姿を消した。
「それで・・如月カオリというAIドールは・・今どこに?」
それが第一の質問だ。
そして・・最大の質問、イズミは、今どこにいる!
どこへ・・あの女スパイドールはイズミをどこへ連れていったんだ!
「カオリは・・私のアパートにいるはずだが・・」自信のないような口調だ。
「アパート? ご自宅ではないのですね」
山田課長の自宅は戸建てのはずだ。
「ああ、アパートだ。私は、妻には内緒で安いアパートを借りている。金があれば別荘でも持ちたいところだが、あいにく安月給でね」
なるほど、山田課長は、愛人を囲うように別宅にドールを住まわせていたというわけか。
「そこに、カオリさんというドールと、僕のイズミがいるんですね」
丁寧に訊いているが、僕の感情は昂ぶっている。会社の関係がなければ、目の前の男を殴ってやりたい。
「そのはずだが・・」と山田課長は更に自信がないように答え、携帯を取り出し、通話を開始した。
相手が通話口に出ると、「おい、カオリ・・今、どこにいる?」と言った。
どうやら電話の相手は如月カオリらしい。山田課長は、彼女に携帯を持たせている。
だが、先方が放った言葉に「何、言えないだと!」と山田課長は言った。
一体どうなっているんだ。
山田課長は続いて、「ひょっとして、井村くんのドールもそこにいるのか?」と尋ねた。
「確かに、私は、井村くんのドールを見てみたいとは言ったが、何もさらってこい、とは言っていないぞ」
先方が何を言っているかは分からない。
「なに? 『見てみたいも、さらって来いも同じ』だと? 違うだろ!」
山田課長の言葉を聞く限りでは、明らかにカオリさんは、主人の意に反する行動を起こしている。
「なんだと・・井村くんのドールに興味がある? だと」
カオリさん自身が、イズミに興味を持った?
それは、なぜだ。
しばらく押し問答が行われた後、山田課長は僕に、
「どうも井村くんのドールとカオリは同じ場所にいるらしいが、カオリはその場所を教えてくれないんだ」
「山田課長のアパートではないのですか?」
「・・違うようだ」と山田課長は答えた。
そんな困った様子の山田課長は、次に内線電話をかけた。
「内海くん、君のドールを連れてこっちに来てくれないか」と言った。
数分もしないうちに、若い社員がドールを連れて応接室に入ってきた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる