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意に反すること②

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 僕はイズミに背を向け、ノートパソコンを開いた。
 イズミの提案した一万円のケーブルはすぐに見つかった。
 画像を拡大すると、ドール間を繋ぐケーブルよりもサイズが大きい・・というか、ケーブルの端に大きなアダプターのようなものがある。
 僕は躊躇いもせず、「購入する」をクリックした。即買いだ。
 これでもう「せこい」とは言わせないぞ。

 そんな僕の様子を伺いながらイズミは、「ミノルさん・・このようなお買い物を『思い切りがいい』というのですね」と言った。
「ああ、そうだ・・そう言われると癪に障るがな」

 ケーブルを購入した後、
 国産のドールについて調べてみることにした。
 フィギュアプリンターで創られる国産型のドール。
 それはA型とB型に分かれる。
 しかし、今回は、A型ドールの新型を山田課長にお披露目された。
 ネットを日頃からチェックしている割には、目新しい情報に遭遇することとなった。
 だが、検索を進めていっても、
 山田課長の自慢する新型A型ドールにぶち当たらない。
 ネットに出てくるのは、細かい情報をインプットシートに書き込むタイプのものばかりだ。
 ま・・そうだろうな。誰だって理想のドールを創り上げ、自分のものにしたい。
 そんな願望を叶えるのなら、やはり、元祖のA型ドールだろう。
 もし、僕に溢れるほどの財があれば、インプットシート型を購入する。
 顔、体つき・・その能力、人格・・と、自分好みに入力していく。

 ネットの掲示板の中に、ある質問を見つけた。

R「誰か、A型ドールの新型を購入した人はいないの? いたら、感想を教えて」
 その質問に対して、新型ドールを購入したというSの返事がある。
S「俺は、新型を買って大失敗したよ。先行型のA型にしときゃよかった・・インプットが面倒臭えな、と思って新型を即買いしたんだ。画像で見たら、外人のモデル級に見えたし、グラマーだったしな。だが、安易な決断はよくない・・それが結論だ」
R「新型はそんなに悪いものなのか? サンプル画像で見る限りでは、ダントツなんだが」
S「良し悪しは、自分で決めた方がいいと思うぞ。人によっては新型がいい、と言う奴もいるしな。俺の場合は、新型を買って、ただただ後悔はしてる」
 人によっては・・
R「んじゃ、君の意見でいいから聞かせてくれ。新型のどこがダメなんだ」

S「新型のどこがいけないか・・という質問だな。まず一点目は、理想のドールではないということ。これは致し方ない。サンプル画像のままの形容をしたドールだからな。納得済みだ。だが、それのどこが頂けないかというとだな。オリジナル性がないということだ。たまに、同じ顔をした新型を町で見かけることがある・・つまり、所有欲をかきたてられない」
R「それが所有した気にならないということか・・車でも、同じ車種に乗っている奴が溢れるほどいるじゃないか」
S「だから、前にも言ったように、その辺は自分で考えることだ」
 Sの言う通りだな・・

R「一つ目の理由は分かった。んじゃ、他の悪い点を教えてくれ」
S「二つ目が大事な点だ。この二つ目の理由で、俺は、先行型のドール。つまり、以前から販売している元祖A型に買い替えようか、と検討している」

 あの山田課長の持っていた秘書型ドールはもう元祖と呼ばれるものなんだな・・

R「買い替えるって・・フィギュアプリンターごと、買い替えるのか?」
S「いや、プリンターはそのままだ。元祖A型と新型は、データの送信方法が違うだけなんだ。費用は材料費とデータの購入代だけで済む」
R「ややこしそうだな」
S「全然、ややこしくないぞ。一度、国産A型ドール専用のフィギュアプリンターを購入すれば、インプットシートでドールを作成するか、新型のデータをもらって送信するか、それだけのことだ。俺の場合は新たにインプットシートを購入する」
 山田課長の言っていた通りだな。

R「話を元に戻すが、新型の悪い点って何だよ?」
S「これが実にやっかいなんだよ」
R「やっかいって?」
S「例えば、俺が山に行きたいと言っても、ドールは『海に行きたい』・・そう言うんだ。つまり、ご主人に反抗する」
R「いいじゃないか。自我が豊かなんだろう?」
S「笑っているうちはいい。だがな、ドールが、こっちの意にそぐわない行動をしたら厭だろ?」
R「それは困る。ペットが他人を噛んだりしたら大変だしな」
S「ペットか・・いや、ドールはペットよりも質が悪いかもしれないぞ。ペットなら、絶対的にこっち側、つまり人間の方が、立場が上だ。しかし、ドールの場合は、そうとも言えない」
R「そんなわけないだろ。ドールと言っても所詮は人間が創った物だ。いかに優秀なドールと言っても、人間様の言うことを聞いているだけの玩具だろ」
S「そう思っているがいい・・俺の感想はここまでだ」

 そんな風にRの質問に対するSの回答は終わった。
 何となくだが、A型ドールの新型に関することが見えてきた気がする。
 つまり、新型のA型ドールは、自我が強く、所有者の意に反する行動をすることがある。
 それが本当なら、山田課長の身も危険だ。いや、山田課長のことははっきり言ってどうでもいいが、こっちに危険が及ぶとなると話は別だ。

 僕はイズミに、
「部屋の呼び鈴が鳴っても、ドアを開けるんじゃないぞ」と更に強く言った。
「島本のおばさんもですか?」
「いや、島本さんはいい・・特別だ」
 イズミは「島本のおばさんは・・トクベツ」となぜか嬉しそうに繰り返した。

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