78 / 167
イズミの危機
しおりを挟む
◆イズミの危機
ドールは目を見開き続けていても疲れない。
カオリさんの目が疲れ知らずの瞳で僕を凝視している。
何を考えているのか全く掴めない。このようなドールと日々を過ごしている山田課長の気がしれない。
それに、このカオリさんの醸し出す雰囲気は何だ?
ドールは本来は無機物的なものだ。
生物の生命とは一線を画するものだ。しかし、カオリさんを見ていると、はっきりとした目的意識があるように見えてならない。
その目的は、決して山田課長の下位的なものではない。そんな気がする。
「・・井村くん。話を元に戻すが、私のカオリを紹介したんだから、君も、自慢のドールを見せてくれ」
自慢の観葉植物、又は盆栽を見せたのだから、僕のも見せてくれ、というわけか。
「自慢・・じゃないですけど、僕のドールは料理とかできないんですよ。特に何ができるというわけでもないですし」
とても相手には通じなさそうな言い訳を並べた。
「・・料理?」
山田課長が呆れたように、あんぐりと口を開ける。
それはそうだろう。山田課長は妻帯者だ。僕のようにドールに料理を作らせる必要はない。
そう思っていると山田課長は、とんでもないことを言った。
「君は、観葉植物に、料理を作らせるのかね?」
僕が吹き出しそうになるのを堪えていると、
カオリさんの顔に、冷笑が浮かんでいるのが見て取れた。
それは、山田課長が面白いことを言ったから笑っているのではない。
・・カオリさんは、山田課長を・・自分の主人を あざけ笑っているのだ。
僕には彼女の笑みが、こう言っているように思えた。
「ワタシの主人・・バカでしょう?」
ただそれは、僕が感じただけのことで、真意のほどは不明だ。
「そんな話は、どうでもいい。井村くん、君のドールを見せてくれ。ここに連れて来てくれ」煮えを切らしたように山田課長は言った。
連れて来てくれ?
イズミ一人を電車に乗らせてここまで来い・・そういう意味か?
山田課長は、人のドールにそんなに興味があるのか。
「あの・・山田課長、僕のドールは中○製で、カオリさんのようには自立できないんですよ」と返した。
「買い物に言っているじゃないか?」
「あれは・・僕が同伴だからできるんですよ」
それに盗難の可能性もある。
「僕のドールは、僕がいないと一人でどこにも行けないし、できることと言えば、自分で充電したり、水を飲んだりすることぐらいなんですよ」
「それじゃ、君が連れてくればいいじゃないか」
畳み込むように山田課長が言う。
その言葉に少し言い澱んだが、「僕のドールは、近所を歩くのが精一杯なんです」と返し、
「それに比べて、そちらのカオリさんはすごいですよ。電話に応対して、すぐに来るんですから
僕はカオリさんを称賛し、イズミの価値を下げた。
言葉通りのような気もするが、イズミに申し訳ない気もする。
これだけ、イズミの評価を下げたのだから、もう勘弁されるだろうと思っていると、
カオリさんが割り込み、
「イムラさん。ドールが一人で来られないようなら、ワタシが、イムラさんのお家の方にお伺いしましょうか?」と提案した。
カオリさんが僕の家に来るだと?
そして、山田課長の元へと連れて行くっていうのかよ。その後、どうするんだ?
イズミを見て何をしようっていうんだ! ただの鑑賞か?
自分のドールだけで満足できないのかよ! こんな立派なドールがいるのに・・イズミなんて幼児体型だぞ!
山田課長もカオリさん提案を褒め「それはいい・・カオリ、是非そうしてくれ」と指示した。
これは、やり過ぎだ・・会社関係のおつき合いと言えども、それは断らねばならない。
しかし、無下に断るのもダメだ。これからのこともある。
どうすりゃいいんだよ!
山田課長から、わが会社の上司に苦情が来そうだ。それがサラリーマンというものだ。
イズミ曰く、「ミノルさんは、サラリーを受け取る人なのですね」だ。
そして、僕の出した決断は、
「いいでしょう。カオリさんが、僕の家に来るのなら」
そう僕は承諾した。
僕は考えていた。
山田課長に僕の所有するイズミを鑑賞させることは、僕にとって不快な出来事には違いない。
子供の頃、自慢の自転車を友達に見せたいが、いじられたくはない、遠くで見るだけにして欲しい・・そんな相反する気持ちと同じなのかもしれない。
少し違うのは、山田課長は、鑑賞するだけでは飽き足らず、確実にイズミに触りそうなことだ。あの厭らしい手で、幼児体型の清純なイズミを・・
それは、不快極まりない。自転車どころではない。
だからといって、山田課長の手を払いのけ、「やめてください」と断るのもダメだ。
僕だけの力ではどうすることもできない。
僕は非力だ。
しかし、イズミは、僕の子供の頃の自転車とは違う。自転車は話すことはできないし、アイデアも出せない。
イズミはAIだ。しかも高性能の、イズミ1000型だ。
僕は、高性能AIのイズミ1000型の思考の意見を聞いてみることにした。
・・ひどく情けない。
だが、それが人間・・いや、サラリーマンというものだ。
ドールは目を見開き続けていても疲れない。
カオリさんの目が疲れ知らずの瞳で僕を凝視している。
何を考えているのか全く掴めない。このようなドールと日々を過ごしている山田課長の気がしれない。
それに、このカオリさんの醸し出す雰囲気は何だ?
ドールは本来は無機物的なものだ。
生物の生命とは一線を画するものだ。しかし、カオリさんを見ていると、はっきりとした目的意識があるように見えてならない。
その目的は、決して山田課長の下位的なものではない。そんな気がする。
「・・井村くん。話を元に戻すが、私のカオリを紹介したんだから、君も、自慢のドールを見せてくれ」
自慢の観葉植物、又は盆栽を見せたのだから、僕のも見せてくれ、というわけか。
「自慢・・じゃないですけど、僕のドールは料理とかできないんですよ。特に何ができるというわけでもないですし」
とても相手には通じなさそうな言い訳を並べた。
「・・料理?」
山田課長が呆れたように、あんぐりと口を開ける。
それはそうだろう。山田課長は妻帯者だ。僕のようにドールに料理を作らせる必要はない。
そう思っていると山田課長は、とんでもないことを言った。
「君は、観葉植物に、料理を作らせるのかね?」
僕が吹き出しそうになるのを堪えていると、
カオリさんの顔に、冷笑が浮かんでいるのが見て取れた。
それは、山田課長が面白いことを言ったから笑っているのではない。
・・カオリさんは、山田課長を・・自分の主人を あざけ笑っているのだ。
僕には彼女の笑みが、こう言っているように思えた。
「ワタシの主人・・バカでしょう?」
ただそれは、僕が感じただけのことで、真意のほどは不明だ。
「そんな話は、どうでもいい。井村くん、君のドールを見せてくれ。ここに連れて来てくれ」煮えを切らしたように山田課長は言った。
連れて来てくれ?
イズミ一人を電車に乗らせてここまで来い・・そういう意味か?
山田課長は、人のドールにそんなに興味があるのか。
「あの・・山田課長、僕のドールは中○製で、カオリさんのようには自立できないんですよ」と返した。
「買い物に言っているじゃないか?」
「あれは・・僕が同伴だからできるんですよ」
それに盗難の可能性もある。
「僕のドールは、僕がいないと一人でどこにも行けないし、できることと言えば、自分で充電したり、水を飲んだりすることぐらいなんですよ」
「それじゃ、君が連れてくればいいじゃないか」
畳み込むように山田課長が言う。
その言葉に少し言い澱んだが、「僕のドールは、近所を歩くのが精一杯なんです」と返し、
「それに比べて、そちらのカオリさんはすごいですよ。電話に応対して、すぐに来るんですから
僕はカオリさんを称賛し、イズミの価値を下げた。
言葉通りのような気もするが、イズミに申し訳ない気もする。
これだけ、イズミの評価を下げたのだから、もう勘弁されるだろうと思っていると、
カオリさんが割り込み、
「イムラさん。ドールが一人で来られないようなら、ワタシが、イムラさんのお家の方にお伺いしましょうか?」と提案した。
カオリさんが僕の家に来るだと?
そして、山田課長の元へと連れて行くっていうのかよ。その後、どうするんだ?
イズミを見て何をしようっていうんだ! ただの鑑賞か?
自分のドールだけで満足できないのかよ! こんな立派なドールがいるのに・・イズミなんて幼児体型だぞ!
山田課長もカオリさん提案を褒め「それはいい・・カオリ、是非そうしてくれ」と指示した。
これは、やり過ぎだ・・会社関係のおつき合いと言えども、それは断らねばならない。
しかし、無下に断るのもダメだ。これからのこともある。
どうすりゃいいんだよ!
山田課長から、わが会社の上司に苦情が来そうだ。それがサラリーマンというものだ。
イズミ曰く、「ミノルさんは、サラリーを受け取る人なのですね」だ。
そして、僕の出した決断は、
「いいでしょう。カオリさんが、僕の家に来るのなら」
そう僕は承諾した。
僕は考えていた。
山田課長に僕の所有するイズミを鑑賞させることは、僕にとって不快な出来事には違いない。
子供の頃、自慢の自転車を友達に見せたいが、いじられたくはない、遠くで見るだけにして欲しい・・そんな相反する気持ちと同じなのかもしれない。
少し違うのは、山田課長は、鑑賞するだけでは飽き足らず、確実にイズミに触りそうなことだ。あの厭らしい手で、幼児体型の清純なイズミを・・
それは、不快極まりない。自転車どころではない。
だからといって、山田課長の手を払いのけ、「やめてください」と断るのもダメだ。
僕だけの力ではどうすることもできない。
僕は非力だ。
しかし、イズミは、僕の子供の頃の自転車とは違う。自転車は話すことはできないし、アイデアも出せない。
イズミはAIだ。しかも高性能の、イズミ1000型だ。
僕は、高性能AIのイズミ1000型の思考の意見を聞いてみることにした。
・・ひどく情けない。
だが、それが人間・・いや、サラリーマンというものだ。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる