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僕の考え方
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◆僕の考え方
「これって・・産業廃棄物の不法投棄が多くて有名な場所じゃないか」
そう植村は言った。
植村・・そして、経理の清水さん。営業の佐山さん。
みんなにはB型ドールが目指す「フロンティア」のことを説明してある。
ネットを流し読みしただけの不確かな情報だが、フロンティアには二つの説がある。
その一つは、フロンティアが、国産B型ドールの廃棄場だということ、
二つ目は、フロンティアは、文字通り、B型ドールの新天地、「天国」であるということ。
どちらが正しいのかわからない。
僕たちは、その場所に行ったことがないから、わかりっこないのだ、
わからない・・けれど、
パソコンの画面には、
「B型ドール~全国フロンティアMAP」という地図が大きく映っている。
僕たちが拡大して見ているのは、その中の兵庫県北部のある場所だ。
会社のデスクトップパソコンの画面を繰りながら、僕は皆にフロンティアについて説明した。
佐山さんと清水さんがディスプレイに顔を寄せて見入っている。
「結局、フロンティアって・・ないんだね」と清水さんが肩を落として言った。
がっかりしたような清水さんを見て植村が、
「でも、B型ドールの思念伝達の声が・・『フロンティアはある』と、言ってたじゃないか」と言った。
この3人には、予め例の共有思念のボイスデータを聴いてもらっている。
「・・・ワタシたちはフロンティアで幸福を得ることになる」
その音声は全てのB型ドールが共有している。
それは、同じB型ドールのサツキさんも同様だ。
それにしても、おかしい・・
全く相反する話がネットで交わされているのはどういうことだ?
まさか・・反すると思われるものが・・実は同じだったり・・
・・そんなわけはないだろうな。
「フロンティアに行くしかないわよ」そう清水さんが言った。
清水さんに好意を寄せる植村が「そうだな」と強く同調した。
「その場所が、廃棄場・・だったとしてもか?」
強く確認するように僕は言った。
「だって、サツキさんは、そこに行きたい・・そう思っているんじゃないの?」と佐山さんが僕に言った。
僕は頷いて、
「サツキさんに関わらず、B型ドールは皆フロンティアを目指しているらしい」と言った。
「じゃあ、私たちもフロンティアを目指しましょう!」と清水さんが言った。
皆の意見はここでも同調された。
このメンバーは、飲み会でB型ドールの過酷な境遇を垣間見た4人だ。
だが、フロンティアにこの四人で行くわけにはいかない。
その理由は・・
その主な理由は僕にある。
僕はイズミなしでサツキさんとフロンティアに行くことはできない。
別に、何かの理由でイズミを頼っているわけではないが、同じAIドールとして、行動を共にさせたい・・そう考えるからだ。
そして、イズミの存在を知らない女性二人にイズミを紹介することは・・僕の会社員・・男としてのステータスを失う危険性も孕んでいる。
「ええっ、井村くん・・こんな趣味があったの?」
「ロリコンじゃない? それに、この子って・・幼女に近いわよ」
そんな僕を蔑む二人の会話の想像がつく。
「僕・・下見・・に行ってみるよ」
清水さんと佐山さん二人の士気を損ねるように僕は言った。
「下見?」清水さんが疑問を投げかける。
「ああ・・取り敢えず、僕がフロンティアとおぼしき場所に行ってみる」
そう言った僕に佐山さんが、「どうして、井村くん、一人で?」と尋ねた。
「だって・・もし危険な場所だったりしたら・・」
そう言った僕に植村が、
「そうだよ・・女の子に危険な目に合わせるわけにはいかないよ。変な人たちがいたりしたら大変だ」と僕に合わせた。
植村も僕がイズミを連れて行く、そう思っているのだろう。
「そういう植村くんは、井村くんとフロンティアに行かないの?」
そう訊かれた植村は「俺は・・」と言い澱んだ。
ああ・・そうか、植村は家にお母さんドールがいるからな。
僕が植村を庇うように、
「植村は・・確か、日曜はゴルフコンペがあったよな?」と言うと、「そうそう。そうなんんだ。悪いな、井村」と応えた。
そんな僕たちを見て清水さんが、
「ええっ、井村くん、あれだけ、フロンティアの解説をしておいて、一人で行くなんて、ずるくない?」とむくれた。
ごめん。清水さん。佐山さん。
そんな寄り合い話を終え、更に業務時間も終えると、僕は真っ直ぐ寄り道もせずに帰宅した。
会社よりも自宅の方が・・つまり、プライベートの方が忙しい。
そんなわけでもないが、家で過ごす時間もそれなりに楽しくなってきている。
そう・・僕はこの独身生活を二人のドールと共に過ごしているのだ。
なんて贅沢な独身貴族的生活! とは思わないが、
それなりに、心が温かくなるような生活だ。
しかし、それは近いうちに幕を引く予定だ。B型ドールのサツキさんの寿命が尽きるからだ。
それは宿命のようなものだ。仕方ない。
・・仕方ない。
だが、それは本当に仕方のないことなのだろうか? それはフロンティアをこの目で見るまでは決定事項ではない・・が、しかし・・
サツキさんの過酷な運命も変えられる・・僕はそう思うようになってきている。
人間の場合は死ねば、それで終わりだ。いくら他者の記憶に残っていると言っても、当人はもうこの世に生命を維持させることはできない。
しかし、AIドールの場合は、どうだろう?
人間とAIドールは全く違う。似て非なるものだ。
ドールは寿命が尽きても・・・「終わり」ではないような気がするのだ。
それは、僕がイズミと暮らし、また、植村のお母さんドールの深く刻まれていた記憶に接し、そして、B型ドールのサツキさんと出会ったことで生まれた僕の新たな考え方だ。
B型ドール間の、平行・・並列思考・・それを利用し、限られた寿命、定められた運命を変える。
それが、僕の考え方だ・・それが正しいか、間違っているか、
確かめなければならない。
それには、どうしてもイズミの力が必要だ。
5000円のケーブルを使って、他のドールと交信できるイズミの力が。
「これって・・産業廃棄物の不法投棄が多くて有名な場所じゃないか」
そう植村は言った。
植村・・そして、経理の清水さん。営業の佐山さん。
みんなにはB型ドールが目指す「フロンティア」のことを説明してある。
ネットを流し読みしただけの不確かな情報だが、フロンティアには二つの説がある。
その一つは、フロンティアが、国産B型ドールの廃棄場だということ、
二つ目は、フロンティアは、文字通り、B型ドールの新天地、「天国」であるということ。
どちらが正しいのかわからない。
僕たちは、その場所に行ったことがないから、わかりっこないのだ、
わからない・・けれど、
パソコンの画面には、
「B型ドール~全国フロンティアMAP」という地図が大きく映っている。
僕たちが拡大して見ているのは、その中の兵庫県北部のある場所だ。
会社のデスクトップパソコンの画面を繰りながら、僕は皆にフロンティアについて説明した。
佐山さんと清水さんがディスプレイに顔を寄せて見入っている。
「結局、フロンティアって・・ないんだね」と清水さんが肩を落として言った。
がっかりしたような清水さんを見て植村が、
「でも、B型ドールの思念伝達の声が・・『フロンティアはある』と、言ってたじゃないか」と言った。
この3人には、予め例の共有思念のボイスデータを聴いてもらっている。
「・・・ワタシたちはフロンティアで幸福を得ることになる」
その音声は全てのB型ドールが共有している。
それは、同じB型ドールのサツキさんも同様だ。
それにしても、おかしい・・
全く相反する話がネットで交わされているのはどういうことだ?
まさか・・反すると思われるものが・・実は同じだったり・・
・・そんなわけはないだろうな。
「フロンティアに行くしかないわよ」そう清水さんが言った。
清水さんに好意を寄せる植村が「そうだな」と強く同調した。
「その場所が、廃棄場・・だったとしてもか?」
強く確認するように僕は言った。
「だって、サツキさんは、そこに行きたい・・そう思っているんじゃないの?」と佐山さんが僕に言った。
僕は頷いて、
「サツキさんに関わらず、B型ドールは皆フロンティアを目指しているらしい」と言った。
「じゃあ、私たちもフロンティアを目指しましょう!」と清水さんが言った。
皆の意見はここでも同調された。
このメンバーは、飲み会でB型ドールの過酷な境遇を垣間見た4人だ。
だが、フロンティアにこの四人で行くわけにはいかない。
その理由は・・
その主な理由は僕にある。
僕はイズミなしでサツキさんとフロンティアに行くことはできない。
別に、何かの理由でイズミを頼っているわけではないが、同じAIドールとして、行動を共にさせたい・・そう考えるからだ。
そして、イズミの存在を知らない女性二人にイズミを紹介することは・・僕の会社員・・男としてのステータスを失う危険性も孕んでいる。
「ええっ、井村くん・・こんな趣味があったの?」
「ロリコンじゃない? それに、この子って・・幼女に近いわよ」
そんな僕を蔑む二人の会話の想像がつく。
「僕・・下見・・に行ってみるよ」
清水さんと佐山さん二人の士気を損ねるように僕は言った。
「下見?」清水さんが疑問を投げかける。
「ああ・・取り敢えず、僕がフロンティアとおぼしき場所に行ってみる」
そう言った僕に佐山さんが、「どうして、井村くん、一人で?」と尋ねた。
「だって・・もし危険な場所だったりしたら・・」
そう言った僕に植村が、
「そうだよ・・女の子に危険な目に合わせるわけにはいかないよ。変な人たちがいたりしたら大変だ」と僕に合わせた。
植村も僕がイズミを連れて行く、そう思っているのだろう。
「そういう植村くんは、井村くんとフロンティアに行かないの?」
そう訊かれた植村は「俺は・・」と言い澱んだ。
ああ・・そうか、植村は家にお母さんドールがいるからな。
僕が植村を庇うように、
「植村は・・確か、日曜はゴルフコンペがあったよな?」と言うと、「そうそう。そうなんんだ。悪いな、井村」と応えた。
そんな僕たちを見て清水さんが、
「ええっ、井村くん、あれだけ、フロンティアの解説をしておいて、一人で行くなんて、ずるくない?」とむくれた。
ごめん。清水さん。佐山さん。
そんな寄り合い話を終え、更に業務時間も終えると、僕は真っ直ぐ寄り道もせずに帰宅した。
会社よりも自宅の方が・・つまり、プライベートの方が忙しい。
そんなわけでもないが、家で過ごす時間もそれなりに楽しくなってきている。
そう・・僕はこの独身生活を二人のドールと共に過ごしているのだ。
なんて贅沢な独身貴族的生活! とは思わないが、
それなりに、心が温かくなるような生活だ。
しかし、それは近いうちに幕を引く予定だ。B型ドールのサツキさんの寿命が尽きるからだ。
それは宿命のようなものだ。仕方ない。
・・仕方ない。
だが、それは本当に仕方のないことなのだろうか? それはフロンティアをこの目で見るまでは決定事項ではない・・が、しかし・・
サツキさんの過酷な運命も変えられる・・僕はそう思うようになってきている。
人間の場合は死ねば、それで終わりだ。いくら他者の記憶に残っていると言っても、当人はもうこの世に生命を維持させることはできない。
しかし、AIドールの場合は、どうだろう?
人間とAIドールは全く違う。似て非なるものだ。
ドールは寿命が尽きても・・・「終わり」ではないような気がするのだ。
それは、僕がイズミと暮らし、また、植村のお母さんドールの深く刻まれていた記憶に接し、そして、B型ドールのサツキさんと出会ったことで生まれた僕の新たな考え方だ。
B型ドール間の、平行・・並列思考・・それを利用し、限られた寿命、定められた運命を変える。
それが、僕の考え方だ・・それが正しいか、間違っているか、
確かめなければならない。
それには、どうしてもイズミの力が必要だ。
5000円のケーブルを使って、他のドールと交信できるイズミの力が。
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