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佐山さんとファミレスにて①

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◆佐山さんとファミレスにて

 それから数日が経った。
 仕事中・・外回りの最中に、僕の携帯に経理の清水さんからのメールが入った。
 何かのお誘いか、と思いながら浮ついた心で「清水美穂」のメールを開くと、全く色気のない内容だった。
 しかもメールの宛先が僕以外にもあって、佐山さん、そして、植村の計三人宛てだ。

「井村くん、植村くん、佐山さん・・
 お仕事中なのにごめんなさい。この前は飲み会、楽しかったわ。
 その飲み会の時のことなんだけど、ひどいことがあったでしょ。憶えてる? もちろん憶えてるわよね。
 あのドールを乱暴に扱っていた人達の会社がわかったの。幹事の人の顔を覚えていたから、調べたのよ。そしたら、うちの会社の取引先の飯山商事だったわ」

 飯山商事(株)と言うのは、あの山田課長がいる会社だ。
 すると、あのA型ドールは山田課長以外の人間が所持するドールで、B型ドールは機械作業に従事しているドールということだな。

 清水さんは更にメールに続けて、
「なんか、いやよねえ・・・私は経理だから、あの会社と接することはまずないけれど、佐山さんは営業で飯山商事に行くこともあるものね。井村くんも植村くんもだよね」と綴って、最後に「一応、報告でした・・また誘ってね!」と締め括られていた。

 また飲み会に清水さんたちと!
 嬉しく、心が躍りそうな反面、僕の元来の性格「面倒くさい」が顔を出す。イズミに指摘された通り、僕という人間はやはり人付き合いは苦手なのだ。
 しかし、それにしてもそんな僕の性格をAIドールであるイズミに指摘されるとは、人間として情けなくはないか?

 それから30分ほどして、メールの着信を知らせるバイブ音。
 今度は佐山さんからだ。
「井村先輩、相談があります!」と題名があった。
 僕に相談? 仕事又はプライベート? それに「先輩」っていう呼称、高校の時の部活を思い出す。
 佐山さんには、この前の飲み会で「先輩の家に遊びに行ってもいいですか」とか大胆なことを言われたな。そんなことが一瞬で頭をよぎる。
 佐山瑞樹さんからの受信メールを開くと、
「井村先輩、ご相談があります!」ともう一度書かれてあり、
「今日の午後、外回りの時、時間が作れないですか? どこかで落ち合って、お茶でもできたら、と思います。厚かましいお願いですが、よろしくお願いします」
 メールはそこで終わっている。
 今日の午後の時間。数社の打ち合わせの間に時間は30分・・上手くいけば一時間は作れる。
 僕は返事に「今日の3時に神戸駅北側のロイホでなら」とファミリーレストランの「ロイヤルホスト」を指定した。
 佐山さんからの返信がすぐに着いた。「ありがとうございます! 先輩!」とあった。
 先輩・・何度読んでも心地よい響きだ。
 それにしても、相談って・・仕事の相談なのか? 仕事しかないよな。

 僕は午前、午後の営業のスケジュールを調整しながら、全てを午後三時に向かって合わせた。
 営業は電車を使ったり、そのケースに合わせて社有車を使ったりもする。今日は車を使ってお得意さんを回った。渋滞に遭わなければ3時には間に合う。
 と、思ってはいても予定は狂うものだ。
 例の山田課長に引きとめられ、またA型ドールの自慢を聞かされた。
 10分遅刻してしまった!
 と思いながら、車をロイヤルホストの屋外の駐車場に入れた。
 駐車場に入る際、店の窓際に佐山さんの横顔が見えた。その奥にもう一人の女性がいるようだ。清水さんではないだろう。彼女は事務職なので、この時間に外に出ることはない。
 なんだ、佐山さんだけじゃないのか。そう思いながら車を停め店内に入った。
 窓際の席で佐山さんが「こっちよ」という風に手を振っているのが見えた。

 佐山さんはうちの会社の制服姿、外で見ると新鮮だ。もう一人は・・
 あれ? 飯山商事の女性社員の制服だ。山田課長の会社の。
 二人のテーブルに近づくと、もう一人のOLがAIドールだと認識できた。おそらく、彼女は国産B型のドールだ。
「井村先輩。驚かせちゃって、ごめんなさい」
 佐山さんは顔を合わせるなり、そう謝った。
 僕は席に着くなり「佐山さん、いったい、どうしたんだ?」と訊いた。B型ドールなんて連れて来て・・
 B型ドールの無表情な顔が僕を見ている。
 佐山さんは「これには色々と訳があるんですよ」と言って、B型ドールがここにいる理由を説明しだした。
 佐山さんの話によれば、
 サツキさんは、飯山商事に勤務していたB型ドールだということだ。それは彼女の制服で何となく推測はできたが、問題はその先だ。

 話の途中、オーダーを訊きに来たウェイトレスが、「B型のドールさんですね」と言ってニコリと微笑んだ。
 B型ドールはウェイトレスに「サツキです・・よろしくお願いします」と言って会釈をした。
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