上 下
43 / 167

フロンティアの二つの説①

しおりを挟む
◆フロンティアの二つの説

 雰囲気の悪くなった飲み会が終わった。
 色々とあったが、女子の佐山さんに気に入られたのか、それともただの本好きの好奇心なのか「今度、遊びに行きます」と言われた。男は狼ですよ。
 清水さん、佐山さんとは一応、携帯番号とメールアドレスを交換した。快活な清水さんに、少しおっとりした佐山さん。
 そんなことを思いながら、急いでイズミの待つ我が家に帰宅した。
「おい、帰ったぞ」とまるで偉そうな亭主のように勢いよくドアを開けた。

 ところが、イズミは睡眠をとりながら充電をしていた。
 座布団に頭を乗せ横になっている。脇腹からは充電のコードが顔を出し、壁の差し込みに伸びている。
 まるで夫の帰りを待ちわびた妻が先に寝ているような感じだ。
 
 パソコンの置いてあるテーブルにはメモが置いてある。
 イズミだ。ボールペンを使っている。字が書けるとは、やはり高性能だ。
 メモには、
「実さんのお帰りが遅いので、お先に失礼します・・イズミより」と書いてある。
 先に寝ています・・そういうことなのか。
 でも、まあ、アットホームでいいものだ。
 これで夜食の用意なんかがしてあったら最高なんだがな。 
 今日は居酒屋でムカついたせいか、まだ腹が減っている。カップラーメンでも作るか、そう思って、台所に向かう。
 ん?
 そこにはまたイズミのメモが置いてある。
「実さん。温かいお茶をどうぞ・・イズミより」
 見ると、保温用の水筒に日本茶が入れてあった。イズミは茶葉の缶を開け、お茶を作っておいたようだ。口をつけるとなるほどまだ温かい。
 イズミなりに気を使ったつもりなのか。それとも飯を作れないことのお詫びなのか。
 しかし、火を使ったとなれば、危ないな。
 もし家事にでもなったら、家主さんにどんな言い訳をしよう。
 ドールが湯を勝手に沸かしまして・・これは通らないな。

 そんなイズミの一応心のこもったお茶をゆっくり飲もうと居間に戻ると、もう一枚紙があるのに気づいた。宅配便の不在通知だ。
 ちゃんと僕の言うことは聞いたみたいだ。

 僕はパソコンを立ち上げ、「お気に入り」にずらりと並んだフィギュアプリンター関係のアドレスをクリックした。
 お茶を飲みながら、その中で検索した「B型ドール」の項目を読み始める。

「B型ドール・・フィギュアプリンターで制作した汎用型ドールを指す。A型ドールの劣化型ドールとも言う。
 A型よりも価格を大幅に下げ、その分、思考能力、運動能力も予め落としている。
 インプットデータにはその打ち込み箇所はわざと削除されている。
 但し、単純作業や、簡単な事務には圧倒的な力を示す。それはA型以上のものがある。

「フロンティア」については、専門のサイトはないようだ。
 しかし、掲示板の書き込みの中を検索していると、ちらほらと、フロンティアについて語っている者がいる。誰かの質問があったり、その回答がある。

A「B型ドールを調べてたら、たまに『フロンティア』っていうのがあるけど、あれ何? 知ってる人がいたら教えて」
B「聞いたことがない」
C「あれね。知ってるよ。B型ドールの意識がなくなる前によく『フロンティア』って言うらしいよ」
B「それって、B型ドールの・・人間でいうところの天国みたいなものか?」
A「天国ならないから、フロンティもないんじゃないの」

D「フロンティアは、ドールの理想郷」
B「わかんねえよ」
D「すまん!」
 つまらない言い合いが散見する。

 そんな中に気になるのが一つあった。Eの言葉だ。
E「あれさ。聞いたことがあるんだけど、フロンティアはドールの『廃棄場』らしいよ」
 
 廃棄場? ドールを捨てる場所のことか。それがどうしてフロンティアなんだ。
 ちっともそんな感じがしない。
 どうしてB型ドールが、ドールを廃棄している場所を目指して行こうとするんだよ。

 誰かが僕と同じ質問を投げかけると、Eが答える。
 Eはフロンティアについてよく知っているようだ。

E「廃棄場にはドールの意識がたくさん集まっているからだってさ」

 ドールの意識? 廃棄されたドールに意識がたくさん残っているのか。
 考えようによってはそれは有りうるかもしれない。AIドールは人間ではない。
 その思考を司る部品が一つでも残っていたら、体はバラバラになろうとも、その前の意識、人間で言うなら生前の意識が、そこにあるのではないだろうか。

 しかし、そこで疑問だ。
 なぜ、B型ドールはフロンティアの場所を知っているのか?
 場所が分からないと行くにも行けないだろう。
 その答はすぐに見つかった。

E「B型ドール同士・・繋がっているらしいよ」

B型ドール同士が、繋がっている?
A「何がつながっているんですか? わかりやすく教えてください」 
E「意識が繋がっているんだよ。ある意味、B型ドールは複数体でも一個体なもかもしれない」
B型ドールは、複数体でも一個体なのか?
 ・・ということは、通りで目撃した男たちに連れ去られたB型ドールも、今夜見た「芸ができない」と言っていたドールも同じ一つの心だというのか・・
 
G「なんでそうなん?」
E「政策だよ。販売会社の・・というか、お国の政策だな」
 国がそのようにしている。
 その目的は?
E「制御しているんだろうね・・それぞれのAIに個性が生まれると、必ず反乱分子が生まれる。そして、その分子は他の個体に影響を及ぼすことになる。上はそんなトラブルを怖れているんだよ。特にB型にはそうなる可能性が大だ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

鋼月の軌跡

チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル! 未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ゾンビのプロ セイヴィングロード

石井アドリー
SF
東京で営業職に三年勤め、youtuberとしても活動していた『丘口知夏』は地獄の三日間を独りで逃げ延びていた。 その道中で百貨店の屋上に住む集団に救われたものの、安息の日々は長く続かなかった。 梯子を昇れる個体が現れたことで、ついに屋上の中へ地獄が流れ込んでいく。 信頼していた人までもがゾンビとなった。大切な屋上が崩壊していく。彼女は何もかも諦めかけていた。 「俺はゾンビのプロだ」 自らをそう名乗った謎の筋肉男『谷口貴樹』はロックミュージックを流し、アクション映画の如く盛大にゾンビを殲滅した。 知夏はその姿に惹かれ奮い立った。この手で人を救うたいという願いを胸に、百貨店の屋上から小さな一歩を踏み出す。 その一歩が百貨店を盛大に救い出すことになるとは、彼女はまだ考えてもいなかった。 数を増やし成長までするゾンビの群れに挑み、大都会に取り残された人々を救っていく。 ゾンビのプロとその見習いの二人を軸にしたゾンビパンデミック長編。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...