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お母さん、いってきます!②
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僕は「す、すみません。気ばっかり遣わせて・・」と謝り倒した。
「ほら、イズミからもお礼を言うんだ」僕がイズミに言うと、
イズミはペコリと頭を下げ「島本のおばさん。どうもアリガトウございました」ときっちりお礼を述べた。
僕は受け取った箱の包みを開けながら、島本さんに、
「いいんですか? こんなもの頂いて」と訊いた。
「気にしないで・・乗りかかった船みたいなものだから」と島本さんは答えた。
乗りかかった船?・・島本さんは、何の船に乗りかかっているのだ。
ぼんやりそんなことを考えていると、
傍らのイズミが、
「乗りかかったフネ・・いったん関わった以上は、トチュウでヤメルわけにはいかないということですね。乗りかかった馬ともいいます」
馬? そうなのか? 初めて聞いた。
「あらあ・・イズミちゃん、物知りなのねえ」と島本さんが褒め称える。
僕が「イズミの頭の中に変な辞書があるみたいで」と説明すると、
「イズミちゃんは、ちっとも変じゃないわよ」と島本さんはそう擁護した。
イズミは照れているのか、帽子を目深に整え、
「ワタシは変ではありませんが、ヤスモノです」と言った。
いや、どっちも言える・・というか「安物」と何度も言うのはやめて欲しい。
そして、島本さんは、
「井村くん。イズミちゃんに『外に出ていいのよ』って言えばいいのね?」と言った。
僕が「お願いします」と言うと、
イズミの方から先に言葉を出した。
「・・・、行ってきていいですか?」
ん?・・「イズミ、今、何て言ったんだ?」
イズミは島本さんに何と言って呼びかけたんだ?
「うまく言うことができません」
イズミは僕を見上げ困ったように言った。
「島本のおばさんを呼ぼうとすると、私の思考回路がおかしくなります」
僕は「島本さん・・イズミはまだ・・」と島本さんにイズミと島本さんの関係性の設定が住んでいない話や、未設定が原因でイズミが分離しかけていることを説明した。
そう僕が説明した後、島本さんは、「井村くん、ごめんなさい」と言って、
「私・・イズミちゃんの『お母さん』では・・ダメかしら?」と小さく言った。
島本さんがイズミの母親・・
年齢的にも全然問題はない。
前回の「友達」よりは自然だ。
僕は「島本さんがイズミのお母さんですか?」と念を押した。
島本さんは少し恥ずかしげに「ええ、おかしいかしら?」と訊ねた。
「全然、おかしくないですよ・・むしろ、友達よりは合っている」と答えた。
言葉とは不思議なものだ。
母と娘・・そんな言葉を与えられると、二人の姿がそう見えてくる。
「他に・・関係が思いつかなかったのよ」
そう島本さんは言ったが、それはたぶん嘘だ。島本さんの顔を見れば、それくらい僕でもわかる。
僕はイズミに向かって、
「島本さんとイズミは、母と娘ということでいいか?」と言った。
イズミは頭の中の思考回路と相談でもしているのか、無表情のまま固まっている。
イズミは、何度か瞬きを繰り返した後、
「登録を受け付けしました」と変な日本語で言った後、
「ソウイウことだったのですか・・」とひとり納得したように小さく言った。
僕は島本さんに、「イズミが島本さんとの関係性を『親子』に登録したようですよ」と言った。
これで僕とイズミの「友達」に加えて、イズミと島本さんは「母娘」。
イズミには二つの関係性が出来たことになる。
なぜか、黙っている島本さんに僕は、
「一つ、訊いていいですか?」と言った。
僕に向き直った島本さんに、
「島本さんはお子さんはおられないのですか?」と訊ねた。
もし島本さんに娘さんとかがいたのなら、もう結婚して親元を離れているのだろうか?
それくらいの年頃の娘さんがいてもおかしくはない。
いや、そもそも島本さんにご主人とかいるのか? そんな存在の人がいるようには見えない。
島本さんは僕の問いに小さく微笑み、首をわずかに横に振って、
「いないわよ・・それに私は、独り身よ」と答えた。
その言葉が不自然に思えた。
こんな綺麗な人が・・
言い方は悪いが、こんな古いアパートにいること自体が更に不自然に思えた。
島本さんは「私の話なんてどうでもいいから」という風に、話を切り上げ、
「イズミちゃん、行っておいで」と言った。
そして、島本さんはイズミに靴を履かせてあげた。
右の靴を穿かせてあげると、
イズミは「ワタシにさせてください」と言って左の靴は自分で穿いた。
この日のためのような靴だ。島本さんセレクトの可愛い靴だ。
サイズもピッタリのようだ。イズミは穿き心地を確かめるように何度か脚をくいくいとひねった。
そして、
「おかあさん・・イズミは、今からお外に行ってきます」
相変わらずの無表情の淡々声だが、その声は、「元気」というものを具現化しているような声だった。
お母さん、私は元気です・・
子供が親に自分の元気な姿を見せるために出すような声。
無表情でも、イズミはそんな意味の言葉を伝える声が出せるのだ。
「いってらっしゃい」と島本さんの声。
アパートの階段に着くまでの僅かな距離・・
島本さんは手を振ってイズミを送り出し、イズミは振り返りながら島本さんの方を見ていた。
「ほら、イズミからもお礼を言うんだ」僕がイズミに言うと、
イズミはペコリと頭を下げ「島本のおばさん。どうもアリガトウございました」ときっちりお礼を述べた。
僕は受け取った箱の包みを開けながら、島本さんに、
「いいんですか? こんなもの頂いて」と訊いた。
「気にしないで・・乗りかかった船みたいなものだから」と島本さんは答えた。
乗りかかった船?・・島本さんは、何の船に乗りかかっているのだ。
ぼんやりそんなことを考えていると、
傍らのイズミが、
「乗りかかったフネ・・いったん関わった以上は、トチュウでヤメルわけにはいかないということですね。乗りかかった馬ともいいます」
馬? そうなのか? 初めて聞いた。
「あらあ・・イズミちゃん、物知りなのねえ」と島本さんが褒め称える。
僕が「イズミの頭の中に変な辞書があるみたいで」と説明すると、
「イズミちゃんは、ちっとも変じゃないわよ」と島本さんはそう擁護した。
イズミは照れているのか、帽子を目深に整え、
「ワタシは変ではありませんが、ヤスモノです」と言った。
いや、どっちも言える・・というか「安物」と何度も言うのはやめて欲しい。
そして、島本さんは、
「井村くん。イズミちゃんに『外に出ていいのよ』って言えばいいのね?」と言った。
僕が「お願いします」と言うと、
イズミの方から先に言葉を出した。
「・・・、行ってきていいですか?」
ん?・・「イズミ、今、何て言ったんだ?」
イズミは島本さんに何と言って呼びかけたんだ?
「うまく言うことができません」
イズミは僕を見上げ困ったように言った。
「島本のおばさんを呼ぼうとすると、私の思考回路がおかしくなります」
僕は「島本さん・・イズミはまだ・・」と島本さんにイズミと島本さんの関係性の設定が住んでいない話や、未設定が原因でイズミが分離しかけていることを説明した。
そう僕が説明した後、島本さんは、「井村くん、ごめんなさい」と言って、
「私・・イズミちゃんの『お母さん』では・・ダメかしら?」と小さく言った。
島本さんがイズミの母親・・
年齢的にも全然問題はない。
前回の「友達」よりは自然だ。
僕は「島本さんがイズミのお母さんですか?」と念を押した。
島本さんは少し恥ずかしげに「ええ、おかしいかしら?」と訊ねた。
「全然、おかしくないですよ・・むしろ、友達よりは合っている」と答えた。
言葉とは不思議なものだ。
母と娘・・そんな言葉を与えられると、二人の姿がそう見えてくる。
「他に・・関係が思いつかなかったのよ」
そう島本さんは言ったが、それはたぶん嘘だ。島本さんの顔を見れば、それくらい僕でもわかる。
僕はイズミに向かって、
「島本さんとイズミは、母と娘ということでいいか?」と言った。
イズミは頭の中の思考回路と相談でもしているのか、無表情のまま固まっている。
イズミは、何度か瞬きを繰り返した後、
「登録を受け付けしました」と変な日本語で言った後、
「ソウイウことだったのですか・・」とひとり納得したように小さく言った。
僕は島本さんに、「イズミが島本さんとの関係性を『親子』に登録したようですよ」と言った。
これで僕とイズミの「友達」に加えて、イズミと島本さんは「母娘」。
イズミには二つの関係性が出来たことになる。
なぜか、黙っている島本さんに僕は、
「一つ、訊いていいですか?」と言った。
僕に向き直った島本さんに、
「島本さんはお子さんはおられないのですか?」と訊ねた。
もし島本さんに娘さんとかがいたのなら、もう結婚して親元を離れているのだろうか?
それくらいの年頃の娘さんがいてもおかしくはない。
いや、そもそも島本さんにご主人とかいるのか? そんな存在の人がいるようには見えない。
島本さんは僕の問いに小さく微笑み、首をわずかに横に振って、
「いないわよ・・それに私は、独り身よ」と答えた。
その言葉が不自然に思えた。
こんな綺麗な人が・・
言い方は悪いが、こんな古いアパートにいること自体が更に不自然に思えた。
島本さんは「私の話なんてどうでもいいから」という風に、話を切り上げ、
「イズミちゃん、行っておいで」と言った。
そして、島本さんはイズミに靴を履かせてあげた。
右の靴を穿かせてあげると、
イズミは「ワタシにさせてください」と言って左の靴は自分で穿いた。
この日のためのような靴だ。島本さんセレクトの可愛い靴だ。
サイズもピッタリのようだ。イズミは穿き心地を確かめるように何度か脚をくいくいとひねった。
そして、
「おかあさん・・イズミは、今からお外に行ってきます」
相変わらずの無表情の淡々声だが、その声は、「元気」というものを具現化しているような声だった。
お母さん、私は元気です・・
子供が親に自分の元気な姿を見せるために出すような声。
無表情でも、イズミはそんな意味の言葉を伝える声が出せるのだ。
「いってらっしゃい」と島本さんの声。
アパートの階段に着くまでの僅かな距離・・
島本さんは手を振ってイズミを送り出し、イズミは振り返りながら島本さんの方を見ていた。
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