32 / 167
お母さん、いってきます!①
しおりを挟む
◆お母さん、いってきます!
島本さんの部屋の呼び鈴を鳴らすのは初めてだったが、これもイズミの外出のためだ。
玄関口に出た島本さんに一連の事情を説明した。
夕方だったので、島本さんは勤め先から帰ってきたばかりのようだった。忙しいのに申しわけない。
島本さんは僕の説明に、
「へえっ・・イズミちゃんが外出するのに、そんなことをしなくちゃいけないの?」と島本さんは少し驚いていた。
島本さんは外出の許可は快く承諾してくれたけれど、保留状態の「関係性」についてはまだ考えたいということだった。
「・・というわけなんで・・イズミに、外出の許可を出してもらえますか?」
そう僕が言うと島本さんは、
「それって、書類にハンコとかついたりするのかしら?」と言った。
ハンコ?
「許可と言っても、たいした話じゃなくて、イズミに言うだけでいいみたいです」
島本さんは「ふーん・・不思議な許可ねえ」と感心したように言った。
不思議も不思議・・
国産ドールを遥かに凌駕するイズミ1000型は不思議なことだらけだ。
高性能なのか、ポンコツなのかさえも、今のところ不明だ。
「わかったわ。あとで井村くんの部屋に行くわ」
島本さんは快く承諾してくれた。なんていい人なんだ。
隣の部屋なので、そのまま僕の部屋に来てくれればいいのに、とも思ったが・・まあいい。
僕が部屋に戻ると、イズミは帽子をかぶってすっかり外出の気分だ。落ち着かないのか、部屋の中をうろうろしている。
鏡に映る自分の姿を何度も眺めたり、台所と居間を行ったり来たりしている。
そんなイズミに僕が「すぐに島本さんが来るよ」と言うと、
「ハイ・・島本オバサンが、もうすぐここに来ます」
と、復唱なのか、普通に僕に言っているのかわからない返事をした。
程なくして呼び鈴が鳴り、ドアを開けると、島本さんが立っていた。
島本さんの服装は・・何故か、よそ行きの服装だった。
何て表現していいのかわからないが、それは・・入学式などで子供に付き添う母親のような服に見えた。
「島本さん、これからどこかにお出かけですか?」と僕は訊ねた。
島本さんは後ろ手に何か箱のようなものを隠し持っている。
島本さんは「えっ」と少し戸惑ったような様子を見せ、「おかしいいわよね。この格好、今日はお仕事お休みなのに」と笑った。
イズミの外出許可も、島本さんにとっては何かの儀式のように思える。
僕の横に立ったイズミに島本さんは、
「こんにちわ・・イズミちゃん」と優しく声をかけた。
島本さんのかけた挨拶に対してイズミは、
「おはようございます・・島本のおばさん」と応えた。
おい、「おばさん」は絶対につけるんだな。
島本さんは「おばさん」と呼ばれることにもう慣れたのか、気にする素振りも見せずに、
「イズミちゃん、その帽子、使ってくれてるのね」と笑顔を見せた。
その時、一抹の不安が・・
イズミ、お願いだ・・決して「安物」と言わないでくれ!
そんな心配は無用だったのか、イズミは別の話を語りだした。
「おばさん・・このおボウシは・・ミノルさんが、たいそうお気に入りのようです」
イズミは頭の帽子に手をかけ、くいと横に回しながらそう言った。
今の発言は照れ隠しか?
島本さんは、
「あら、井村くんも気に入ってくれたの? 嬉しいわ」と更に笑顔を重ねた。
僕は慌てて「違うんですよ。気に入っているのは、イズミの方で、僕は特には・・」と言わなくてもいいようなことを言った。
そんな僕を見上げてイズミは、
「ニンゲン・・というのは・・どうでもいいことにこだわり・・」とこの前に訊いたようなセリフを語りだした。
僕は間髪入れず「おいっ、人間、って・・それに、どうでもいい事とはなんだよ!」と言った。
島本さんはそんな僕たちを眺め見て、
「あなたたち、いいコンビねえ」と笑った。
そして、
「はいっ、これ、イズミちゃんの外出祝いよ」
島本さんは後ろ手に隠していた箱を差し出した。
「これ・・靴よ・・買っておいていたの」
島本さんは玄関とイズミの足元を見ながら、
「うふっ、井村くん、イズミちゃんに靴も履かせず、どうやって外を歩かせるつもりだったの?」と言った。
しまった、考え及ばずだ。
島本さんの部屋の呼び鈴を鳴らすのは初めてだったが、これもイズミの外出のためだ。
玄関口に出た島本さんに一連の事情を説明した。
夕方だったので、島本さんは勤め先から帰ってきたばかりのようだった。忙しいのに申しわけない。
島本さんは僕の説明に、
「へえっ・・イズミちゃんが外出するのに、そんなことをしなくちゃいけないの?」と島本さんは少し驚いていた。
島本さんは外出の許可は快く承諾してくれたけれど、保留状態の「関係性」についてはまだ考えたいということだった。
「・・というわけなんで・・イズミに、外出の許可を出してもらえますか?」
そう僕が言うと島本さんは、
「それって、書類にハンコとかついたりするのかしら?」と言った。
ハンコ?
「許可と言っても、たいした話じゃなくて、イズミに言うだけでいいみたいです」
島本さんは「ふーん・・不思議な許可ねえ」と感心したように言った。
不思議も不思議・・
国産ドールを遥かに凌駕するイズミ1000型は不思議なことだらけだ。
高性能なのか、ポンコツなのかさえも、今のところ不明だ。
「わかったわ。あとで井村くんの部屋に行くわ」
島本さんは快く承諾してくれた。なんていい人なんだ。
隣の部屋なので、そのまま僕の部屋に来てくれればいいのに、とも思ったが・・まあいい。
僕が部屋に戻ると、イズミは帽子をかぶってすっかり外出の気分だ。落ち着かないのか、部屋の中をうろうろしている。
鏡に映る自分の姿を何度も眺めたり、台所と居間を行ったり来たりしている。
そんなイズミに僕が「すぐに島本さんが来るよ」と言うと、
「ハイ・・島本オバサンが、もうすぐここに来ます」
と、復唱なのか、普通に僕に言っているのかわからない返事をした。
程なくして呼び鈴が鳴り、ドアを開けると、島本さんが立っていた。
島本さんの服装は・・何故か、よそ行きの服装だった。
何て表現していいのかわからないが、それは・・入学式などで子供に付き添う母親のような服に見えた。
「島本さん、これからどこかにお出かけですか?」と僕は訊ねた。
島本さんは後ろ手に何か箱のようなものを隠し持っている。
島本さんは「えっ」と少し戸惑ったような様子を見せ、「おかしいいわよね。この格好、今日はお仕事お休みなのに」と笑った。
イズミの外出許可も、島本さんにとっては何かの儀式のように思える。
僕の横に立ったイズミに島本さんは、
「こんにちわ・・イズミちゃん」と優しく声をかけた。
島本さんのかけた挨拶に対してイズミは、
「おはようございます・・島本のおばさん」と応えた。
おい、「おばさん」は絶対につけるんだな。
島本さんは「おばさん」と呼ばれることにもう慣れたのか、気にする素振りも見せずに、
「イズミちゃん、その帽子、使ってくれてるのね」と笑顔を見せた。
その時、一抹の不安が・・
イズミ、お願いだ・・決して「安物」と言わないでくれ!
そんな心配は無用だったのか、イズミは別の話を語りだした。
「おばさん・・このおボウシは・・ミノルさんが、たいそうお気に入りのようです」
イズミは頭の帽子に手をかけ、くいと横に回しながらそう言った。
今の発言は照れ隠しか?
島本さんは、
「あら、井村くんも気に入ってくれたの? 嬉しいわ」と更に笑顔を重ねた。
僕は慌てて「違うんですよ。気に入っているのは、イズミの方で、僕は特には・・」と言わなくてもいいようなことを言った。
そんな僕を見上げてイズミは、
「ニンゲン・・というのは・・どうでもいいことにこだわり・・」とこの前に訊いたようなセリフを語りだした。
僕は間髪入れず「おいっ、人間、って・・それに、どうでもいい事とはなんだよ!」と言った。
島本さんはそんな僕たちを眺め見て、
「あなたたち、いいコンビねえ」と笑った。
そして、
「はいっ、これ、イズミちゃんの外出祝いよ」
島本さんは後ろ手に隠していた箱を差し出した。
「これ・・靴よ・・買っておいていたの」
島本さんは玄関とイズミの足元を見ながら、
「うふっ、井村くん、イズミちゃんに靴も履かせず、どうやって外を歩かせるつもりだったの?」と言った。
しまった、考え及ばずだ。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
鋼月の軌跡
チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル!
未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ゾンビのプロ セイヴィングロード
石井アドリー
SF
東京で営業職に三年勤め、youtuberとしても活動していた『丘口知夏』は地獄の三日間を独りで逃げ延びていた。
その道中で百貨店の屋上に住む集団に救われたものの、安息の日々は長く続かなかった。
梯子を昇れる個体が現れたことで、ついに屋上の中へ地獄が流れ込んでいく。
信頼していた人までもがゾンビとなった。大切な屋上が崩壊していく。彼女は何もかも諦めかけていた。
「俺はゾンビのプロだ」
自らをそう名乗った謎の筋肉男『谷口貴樹』はロックミュージックを流し、アクション映画の如く盛大にゾンビを殲滅した。
知夏はその姿に惹かれ奮い立った。この手で人を救うたいという願いを胸に、百貨店の屋上から小さな一歩を踏み出す。
その一歩が百貨店を盛大に救い出すことになるとは、彼女はまだ考えてもいなかった。
数を増やし成長までするゾンビの群れに挑み、大都会に取り残された人々を救っていく。
ゾンビのプロとその見習いの二人を軸にしたゾンビパンデミック長編。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる