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お母さん、いってきます!①
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◆お母さん、いってきます!
島本さんの部屋の呼び鈴を鳴らすのは初めてだったが、これもイズミの外出のためだ。
玄関口に出た島本さんに一連の事情を説明した。
夕方だったので、島本さんは勤め先から帰ってきたばかりのようだった。忙しいのに申しわけない。
島本さんは僕の説明に、
「へえっ・・イズミちゃんが外出するのに、そんなことをしなくちゃいけないの?」と島本さんは少し驚いていた。
島本さんは外出の許可は快く承諾してくれたけれど、保留状態の「関係性」についてはまだ考えたいということだった。
「・・というわけなんで・・イズミに、外出の許可を出してもらえますか?」
そう僕が言うと島本さんは、
「それって、書類にハンコとかついたりするのかしら?」と言った。
ハンコ?
「許可と言っても、たいした話じゃなくて、イズミに言うだけでいいみたいです」
島本さんは「ふーん・・不思議な許可ねえ」と感心したように言った。
不思議も不思議・・
国産ドールを遥かに凌駕するイズミ1000型は不思議なことだらけだ。
高性能なのか、ポンコツなのかさえも、今のところ不明だ。
「わかったわ。あとで井村くんの部屋に行くわ」
島本さんは快く承諾してくれた。なんていい人なんだ。
隣の部屋なので、そのまま僕の部屋に来てくれればいいのに、とも思ったが・・まあいい。
僕が部屋に戻ると、イズミは帽子をかぶってすっかり外出の気分だ。落ち着かないのか、部屋の中をうろうろしている。
鏡に映る自分の姿を何度も眺めたり、台所と居間を行ったり来たりしている。
そんなイズミに僕が「すぐに島本さんが来るよ」と言うと、
「ハイ・・島本オバサンが、もうすぐここに来ます」
と、復唱なのか、普通に僕に言っているのかわからない返事をした。
程なくして呼び鈴が鳴り、ドアを開けると、島本さんが立っていた。
島本さんの服装は・・何故か、よそ行きの服装だった。
何て表現していいのかわからないが、それは・・入学式などで子供に付き添う母親のような服に見えた。
「島本さん、これからどこかにお出かけですか?」と僕は訊ねた。
島本さんは後ろ手に何か箱のようなものを隠し持っている。
島本さんは「えっ」と少し戸惑ったような様子を見せ、「おかしいいわよね。この格好、今日はお仕事お休みなのに」と笑った。
イズミの外出許可も、島本さんにとっては何かの儀式のように思える。
僕の横に立ったイズミに島本さんは、
「こんにちわ・・イズミちゃん」と優しく声をかけた。
島本さんのかけた挨拶に対してイズミは、
「おはようございます・・島本のおばさん」と応えた。
おい、「おばさん」は絶対につけるんだな。
島本さんは「おばさん」と呼ばれることにもう慣れたのか、気にする素振りも見せずに、
「イズミちゃん、その帽子、使ってくれてるのね」と笑顔を見せた。
その時、一抹の不安が・・
イズミ、お願いだ・・決して「安物」と言わないでくれ!
そんな心配は無用だったのか、イズミは別の話を語りだした。
「おばさん・・このおボウシは・・ミノルさんが、たいそうお気に入りのようです」
イズミは頭の帽子に手をかけ、くいと横に回しながらそう言った。
今の発言は照れ隠しか?
島本さんは、
「あら、井村くんも気に入ってくれたの? 嬉しいわ」と更に笑顔を重ねた。
僕は慌てて「違うんですよ。気に入っているのは、イズミの方で、僕は特には・・」と言わなくてもいいようなことを言った。
そんな僕を見上げてイズミは、
「ニンゲン・・というのは・・どうでもいいことにこだわり・・」とこの前に訊いたようなセリフを語りだした。
僕は間髪入れず「おいっ、人間、って・・それに、どうでもいい事とはなんだよ!」と言った。
島本さんはそんな僕たちを眺め見て、
「あなたたち、いいコンビねえ」と笑った。
そして、
「はいっ、これ、イズミちゃんの外出祝いよ」
島本さんは後ろ手に隠していた箱を差し出した。
「これ・・靴よ・・買っておいていたの」
島本さんは玄関とイズミの足元を見ながら、
「うふっ、井村くん、イズミちゃんに靴も履かせず、どうやって外を歩かせるつもりだったの?」と言った。
しまった、考え及ばずだ。
島本さんの部屋の呼び鈴を鳴らすのは初めてだったが、これもイズミの外出のためだ。
玄関口に出た島本さんに一連の事情を説明した。
夕方だったので、島本さんは勤め先から帰ってきたばかりのようだった。忙しいのに申しわけない。
島本さんは僕の説明に、
「へえっ・・イズミちゃんが外出するのに、そんなことをしなくちゃいけないの?」と島本さんは少し驚いていた。
島本さんは外出の許可は快く承諾してくれたけれど、保留状態の「関係性」についてはまだ考えたいということだった。
「・・というわけなんで・・イズミに、外出の許可を出してもらえますか?」
そう僕が言うと島本さんは、
「それって、書類にハンコとかついたりするのかしら?」と言った。
ハンコ?
「許可と言っても、たいした話じゃなくて、イズミに言うだけでいいみたいです」
島本さんは「ふーん・・不思議な許可ねえ」と感心したように言った。
不思議も不思議・・
国産ドールを遥かに凌駕するイズミ1000型は不思議なことだらけだ。
高性能なのか、ポンコツなのかさえも、今のところ不明だ。
「わかったわ。あとで井村くんの部屋に行くわ」
島本さんは快く承諾してくれた。なんていい人なんだ。
隣の部屋なので、そのまま僕の部屋に来てくれればいいのに、とも思ったが・・まあいい。
僕が部屋に戻ると、イズミは帽子をかぶってすっかり外出の気分だ。落ち着かないのか、部屋の中をうろうろしている。
鏡に映る自分の姿を何度も眺めたり、台所と居間を行ったり来たりしている。
そんなイズミに僕が「すぐに島本さんが来るよ」と言うと、
「ハイ・・島本オバサンが、もうすぐここに来ます」
と、復唱なのか、普通に僕に言っているのかわからない返事をした。
程なくして呼び鈴が鳴り、ドアを開けると、島本さんが立っていた。
島本さんの服装は・・何故か、よそ行きの服装だった。
何て表現していいのかわからないが、それは・・入学式などで子供に付き添う母親のような服に見えた。
「島本さん、これからどこかにお出かけですか?」と僕は訊ねた。
島本さんは後ろ手に何か箱のようなものを隠し持っている。
島本さんは「えっ」と少し戸惑ったような様子を見せ、「おかしいいわよね。この格好、今日はお仕事お休みなのに」と笑った。
イズミの外出許可も、島本さんにとっては何かの儀式のように思える。
僕の横に立ったイズミに島本さんは、
「こんにちわ・・イズミちゃん」と優しく声をかけた。
島本さんのかけた挨拶に対してイズミは、
「おはようございます・・島本のおばさん」と応えた。
おい、「おばさん」は絶対につけるんだな。
島本さんは「おばさん」と呼ばれることにもう慣れたのか、気にする素振りも見せずに、
「イズミちゃん、その帽子、使ってくれてるのね」と笑顔を見せた。
その時、一抹の不安が・・
イズミ、お願いだ・・決して「安物」と言わないでくれ!
そんな心配は無用だったのか、イズミは別の話を語りだした。
「おばさん・・このおボウシは・・ミノルさんが、たいそうお気に入りのようです」
イズミは頭の帽子に手をかけ、くいと横に回しながらそう言った。
今の発言は照れ隠しか?
島本さんは、
「あら、井村くんも気に入ってくれたの? 嬉しいわ」と更に笑顔を重ねた。
僕は慌てて「違うんですよ。気に入っているのは、イズミの方で、僕は特には・・」と言わなくてもいいようなことを言った。
そんな僕を見上げてイズミは、
「ニンゲン・・というのは・・どうでもいいことにこだわり・・」とこの前に訊いたようなセリフを語りだした。
僕は間髪入れず「おいっ、人間、って・・それに、どうでもいい事とはなんだよ!」と言った。
島本さんはそんな僕たちを眺め見て、
「あなたたち、いいコンビねえ」と笑った。
そして、
「はいっ、これ、イズミちゃんの外出祝いよ」
島本さんは後ろ手に隠していた箱を差し出した。
「これ・・靴よ・・買っておいていたの」
島本さんは玄関とイズミの足元を見ながら、
「うふっ、井村くん、イズミちゃんに靴も履かせず、どうやって外を歩かせるつもりだったの?」と言った。
しまった、考え及ばずだ。
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