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フィギュアドール作成
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◆フィギュアドール作成
「井村さん・・お届けものっす!」
フィギュアプリンターを自宅に届けてくれた運送屋の若いドライバーは「重いっすね」と言って笑った。顔が汗だくだ。
確かに重く、大きな箱だ。
運送屋に中身まではわからないけれど、少し気恥ずかしい思いで、受け取りの判を押した。
今日は休日、時間はたっぷりある。休日と言っても、一人の僕には特に何もすることがない。
映画鑑賞・・それも僕の場合はない。人ごみが嫌いだからだ。
大きな箱を丁寧に開梱していく。宅配の人のように汗だくになる。
そして、中から出てきたのはフィギュアプリンターセット一式だ。
中の物は大きく三つに分かれる。
メインのフィギュアプリンター・・ボックス状なので、中が見えないようになっている。
おそらく位置的に顔である所は見えるようになっている。
バカでかく、しかも黒い。
開けることができない。取説によると、出来上がったフィギュアドールが自らプリンターの箱を開けて中から出てくる・・ということだ。
そんなこと・・まだ信じられない。
それに怪しげなヘッドホン・・これを頭に付けるらしい。
そして、高額な音楽プレイヤーのような装置。そして、こんな大きな商品に似つかわしくない薄っぺらな取扱い説明書。
電気の長いコードのようなものが数本ビニールに入っている。
あれから、僕はこのフィギュアプリンターについてネットで調べた。
だから、ある程度は知っているつもりだ。
発売当初は高額なもので、僕の安月給ではとても手が出せない代物ものだったらしいが、今では価格も下がり、通販で翌日に届けてくれる。
高額ではないと言っても、20万円はそれなりのお金だ。ボーナス後払いにした。
一週間、使用してみて、思っていたのと違っていたら返品可能ということだ。
返す人はどんな人だろう?
いずれにせよ、価格税込20万円・・およそ、一か月分の僕の給料・・出来上がった物が、がっかりするようなものでないことを祈る。
一応、購入対象者は20歳以上に限られている。
・・が、決してアダルトグッズではない。
そのような目的で使おうにもフィギュアなので不可能だ。人によっては抱きしめるかもしれないが、所詮その程度にしか使えない。
けれど、成人限定だ。
AIの倫理規定によるものらしい。
どんな倫理規定だ?・・あとで調べてみよう。
現在、販売されているフィギュアプリンターは、一時期あったような3Dプリンターなどとは一線を画するものらしい。
3Dプリンターや後に発売された4Dプリンターなどは、データに基づきプリントアウトしていた。
このフィギュアプリンターは人の脳・・つまり人の思考からデータを作り上げ、実在の女性としてプリントアウトする。
出来上がったフィギュアドールは、もちろん立体的であり、この世に存在する人間とほぼ同じ「物」として、この世に生を受ける。
そして、驚くべきことに、
フィギュアドールは、「思考するAI」となってこの世界に誕生する。
自分の意思で動くことはもちろん。会話もできる。
人の脳から作られたフィギュアは、その人の理想のドールとなる、ということだ。
ただ、この出来上がったフィギュアには法規制が厳しく、プリントアウトしたフィギュアドールは、決して屋外に出してはいけないらしい。
これはプリンターで作られたフィギュアが「物」である以上、人間社会に入れてはいけない。そういうことだ。
つまり、玩具の車が車道を走ってはいけないのと同じ理屈だ。
僕は付属のヘッドホンのような器具を頭部に装着した
ヘッドホンは巨大なプリンター装置に無線で繋がっている。
僕の思考がフィギュアのAIを創り上げる・・
ヘッドホンを装着した僕は目を瞑った。
「あなたの理想」・・
僕は説明書通りに10分間、その女の子のことだけを考えた。
随分と前だから、記憶も曖昧になっているが、それは現在の僕の理想であることに変わりはない。
フィギュアとしてこの世に生を受ける女の子は、
身長、体つき、その心まで、
創造主・・フィギュアドールは僕の思った通りに作成される。
取説の注意書き
*思念の伝達は必ず一人きりですること。
フィギュアドールはヘッドホンを装着した者以外にも、
近くにいる者の思念を伝えることがあるので注意したらいいと思います。
・・とおかしな日本語で書かれている。これどう読んでも中○人が書いているだろ!
でも・・大丈夫だ。
この部屋には僕以外に誰もいない。フィギュアドールは僕だけの思念で作成される。
更に説明書を読んでいくと、こう書いてあった。
*思念の読み取り装置は高性能なので、ヘッドホンを装着せずとも、あなたの思念を十分に読み取ります。
何だよ、そりゃ!
高性能なのはいいけど、それだと、この部屋に僕以外の人間がいれば、複数の思念を読み取ってしまうじゃないか!
5分ほど経つと、プリンターが稼働し始めたらしく、頭部の出窓のような箇所が光り出した。
音もする。グワングワンと何かが回転し、振動するような音だ。けれど近所迷惑になるような大きな音でもない。
「コンプリート!」という女性の電子音が聞こえた。
出来上がったということなのだろうか? 早い!
いや、違った・・
女性の案内音によると、僕の思考の伝達が完了したということで、今から僕の思考データに基づいたフィギュアを作り始めるようだ。
大きな黒いボックスがブーンとうなり、さっきのような振動音が再び聞こえた。
取説をよく読んでみると、フィギュアの完成には3時間と書かれてある。
なんだ・・と思い、僕はヘッドホンを外して、コーヒーを飲むための湯を沸かし始めたた。
コーヒーを飲み、それでも待つ間、退屈なので、本を読んだ。
あのボックスの中には何があるのだろう・・どんな形が作られていっているのだろう・・気になる。
気になって本になど集中できない。
まだかまだか、多少苛立ちを交えながら待つ。
考えてみれば、これほど、何かを待ちわびるなんて、久々の経験だ。
おそらく、子供の頃、親が買ってくれるクリスマスプレゼントを待っていた時の気持ち以来だ。
・・そうか、これは・・今からできるフィギュアは、僕にとって玩具みたいなものなんだな。
孤独な僕に玩具が手に入る。
それは、書物や、携帯、パソコン・・等々のようなものだ。
ただ、値段が高く、大きい・・それだけのことだ。
いや、けれど、それは思考するAI・・
フィギュアドールが出来上がる間。そんな様々なことを考えていた。
そして、睡魔が襲ってきた。
僕は睡魔に誘われるまま、深い眠りの中に沈んだ。
深い眠りの中、僕は夢を見ていた。
遠い日の・・君の思い出だ。
突然、僕は深い眠りから呼び起こされた。
「オキテください!」
女性の声だ。機械音に近い。
僕はびっくりして飛び起きた。
どうやら、声はボックスの中から聞こえてきたようだ。
フィギュアドールが出来上がったのか?
えっ、ちょっと待て・・
僕が寝ていることがフィギュアにどうしてわかったんだ?
フィギュアドールはまだ箱の中・・
僕は眠気眼でボックスを改めて見た。
ボックスから霧のような白いモヤが漏れ出ていた。
そう・・ボックスは開きかけているのだ。
さっきまでのグワングワンやブーンという音ではなく、シュンシュンという音がしている。
大丈夫か? これ、火事とかならないだろうな。このボロアパート、燃えやすそうだぞ。
すると、
女性の声はまた聞こえた。女性と言ってもかなり若い声だ。少女?
「ミノルサン」
そう僕の下の名を呼んだ。井村実のミノルを・・
僕の名前は既にAIに組み込まれてているのか。あのヘッドホンの装着で、そんなことまで伝わっているのか。
これ、夢じゃないだろうな。
「井村さん・・お届けものっす!」
フィギュアプリンターを自宅に届けてくれた運送屋の若いドライバーは「重いっすね」と言って笑った。顔が汗だくだ。
確かに重く、大きな箱だ。
運送屋に中身まではわからないけれど、少し気恥ずかしい思いで、受け取りの判を押した。
今日は休日、時間はたっぷりある。休日と言っても、一人の僕には特に何もすることがない。
映画鑑賞・・それも僕の場合はない。人ごみが嫌いだからだ。
大きな箱を丁寧に開梱していく。宅配の人のように汗だくになる。
そして、中から出てきたのはフィギュアプリンターセット一式だ。
中の物は大きく三つに分かれる。
メインのフィギュアプリンター・・ボックス状なので、中が見えないようになっている。
おそらく位置的に顔である所は見えるようになっている。
バカでかく、しかも黒い。
開けることができない。取説によると、出来上がったフィギュアドールが自らプリンターの箱を開けて中から出てくる・・ということだ。
そんなこと・・まだ信じられない。
それに怪しげなヘッドホン・・これを頭に付けるらしい。
そして、高額な音楽プレイヤーのような装置。そして、こんな大きな商品に似つかわしくない薄っぺらな取扱い説明書。
電気の長いコードのようなものが数本ビニールに入っている。
あれから、僕はこのフィギュアプリンターについてネットで調べた。
だから、ある程度は知っているつもりだ。
発売当初は高額なもので、僕の安月給ではとても手が出せない代物ものだったらしいが、今では価格も下がり、通販で翌日に届けてくれる。
高額ではないと言っても、20万円はそれなりのお金だ。ボーナス後払いにした。
一週間、使用してみて、思っていたのと違っていたら返品可能ということだ。
返す人はどんな人だろう?
いずれにせよ、価格税込20万円・・およそ、一か月分の僕の給料・・出来上がった物が、がっかりするようなものでないことを祈る。
一応、購入対象者は20歳以上に限られている。
・・が、決してアダルトグッズではない。
そのような目的で使おうにもフィギュアなので不可能だ。人によっては抱きしめるかもしれないが、所詮その程度にしか使えない。
けれど、成人限定だ。
AIの倫理規定によるものらしい。
どんな倫理規定だ?・・あとで調べてみよう。
現在、販売されているフィギュアプリンターは、一時期あったような3Dプリンターなどとは一線を画するものらしい。
3Dプリンターや後に発売された4Dプリンターなどは、データに基づきプリントアウトしていた。
このフィギュアプリンターは人の脳・・つまり人の思考からデータを作り上げ、実在の女性としてプリントアウトする。
出来上がったフィギュアドールは、もちろん立体的であり、この世に存在する人間とほぼ同じ「物」として、この世に生を受ける。
そして、驚くべきことに、
フィギュアドールは、「思考するAI」となってこの世界に誕生する。
自分の意思で動くことはもちろん。会話もできる。
人の脳から作られたフィギュアは、その人の理想のドールとなる、ということだ。
ただ、この出来上がったフィギュアには法規制が厳しく、プリントアウトしたフィギュアドールは、決して屋外に出してはいけないらしい。
これはプリンターで作られたフィギュアが「物」である以上、人間社会に入れてはいけない。そういうことだ。
つまり、玩具の車が車道を走ってはいけないのと同じ理屈だ。
僕は付属のヘッドホンのような器具を頭部に装着した
ヘッドホンは巨大なプリンター装置に無線で繋がっている。
僕の思考がフィギュアのAIを創り上げる・・
ヘッドホンを装着した僕は目を瞑った。
「あなたの理想」・・
僕は説明書通りに10分間、その女の子のことだけを考えた。
随分と前だから、記憶も曖昧になっているが、それは現在の僕の理想であることに変わりはない。
フィギュアとしてこの世に生を受ける女の子は、
身長、体つき、その心まで、
創造主・・フィギュアドールは僕の思った通りに作成される。
取説の注意書き
*思念の伝達は必ず一人きりですること。
フィギュアドールはヘッドホンを装着した者以外にも、
近くにいる者の思念を伝えることがあるので注意したらいいと思います。
・・とおかしな日本語で書かれている。これどう読んでも中○人が書いているだろ!
でも・・大丈夫だ。
この部屋には僕以外に誰もいない。フィギュアドールは僕だけの思念で作成される。
更に説明書を読んでいくと、こう書いてあった。
*思念の読み取り装置は高性能なので、ヘッドホンを装着せずとも、あなたの思念を十分に読み取ります。
何だよ、そりゃ!
高性能なのはいいけど、それだと、この部屋に僕以外の人間がいれば、複数の思念を読み取ってしまうじゃないか!
5分ほど経つと、プリンターが稼働し始めたらしく、頭部の出窓のような箇所が光り出した。
音もする。グワングワンと何かが回転し、振動するような音だ。けれど近所迷惑になるような大きな音でもない。
「コンプリート!」という女性の電子音が聞こえた。
出来上がったということなのだろうか? 早い!
いや、違った・・
女性の案内音によると、僕の思考の伝達が完了したということで、今から僕の思考データに基づいたフィギュアを作り始めるようだ。
大きな黒いボックスがブーンとうなり、さっきのような振動音が再び聞こえた。
取説をよく読んでみると、フィギュアの完成には3時間と書かれてある。
なんだ・・と思い、僕はヘッドホンを外して、コーヒーを飲むための湯を沸かし始めたた。
コーヒーを飲み、それでも待つ間、退屈なので、本を読んだ。
あのボックスの中には何があるのだろう・・どんな形が作られていっているのだろう・・気になる。
気になって本になど集中できない。
まだかまだか、多少苛立ちを交えながら待つ。
考えてみれば、これほど、何かを待ちわびるなんて、久々の経験だ。
おそらく、子供の頃、親が買ってくれるクリスマスプレゼントを待っていた時の気持ち以来だ。
・・そうか、これは・・今からできるフィギュアは、僕にとって玩具みたいなものなんだな。
孤独な僕に玩具が手に入る。
それは、書物や、携帯、パソコン・・等々のようなものだ。
ただ、値段が高く、大きい・・それだけのことだ。
いや、けれど、それは思考するAI・・
フィギュアドールが出来上がる間。そんな様々なことを考えていた。
そして、睡魔が襲ってきた。
僕は睡魔に誘われるまま、深い眠りの中に沈んだ。
深い眠りの中、僕は夢を見ていた。
遠い日の・・君の思い出だ。
突然、僕は深い眠りから呼び起こされた。
「オキテください!」
女性の声だ。機械音に近い。
僕はびっくりして飛び起きた。
どうやら、声はボックスの中から聞こえてきたようだ。
フィギュアドールが出来上がったのか?
えっ、ちょっと待て・・
僕が寝ていることがフィギュアにどうしてわかったんだ?
フィギュアドールはまだ箱の中・・
僕は眠気眼でボックスを改めて見た。
ボックスから霧のような白いモヤが漏れ出ていた。
そう・・ボックスは開きかけているのだ。
さっきまでのグワングワンやブーンという音ではなく、シュンシュンという音がしている。
大丈夫か? これ、火事とかならないだろうな。このボロアパート、燃えやすそうだぞ。
すると、
女性の声はまた聞こえた。女性と言ってもかなり若い声だ。少女?
「ミノルサン」
そう僕の下の名を呼んだ。井村実のミノルを・・
僕の名前は既にAIに組み込まれてているのか。あのヘッドホンの装着で、そんなことまで伝わっているのか。
これ、夢じゃないだろうな。
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