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青山先輩と③

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 兄貴のような人!
 おいっ! それは残酷な言葉なんだよ。さっきから気にしているのに!
 男子たちに比較されるのも落ち込むが、こうして目の前で、実の妹に異性との比較を持ち出されると更に落ち込むというものだ。

 だが青山先輩はニコリと微笑み、
「君のお兄さんは実に素敵なんだよ」と言った。
「ええっ、そうですかぁ?」ナミは納得できない声を上げる。
 続けて青山先輩は、
「鈴木くんはね、私にとっての『檸檬(れもん)』のような人なんだよ」と言った。
 その顔は素敵な笑顔だ。
「れもん?」とナミは言った。
 おそらく、青山先輩は青山邸で、僕たちが交際宣言のような嘘の芝居をした事を言ったつもりなのだろう。
 確かにあの時の僕は、格式高い青山邸に投げ込んだ一個のレモンのようなものだったのかもしれない。
 ナミたちは「へえぇ」と適当に相づちを打っているが、多分、絶対に意味が分からないし、わが文芸部員の中でも意味不明の言葉だ。

 ナミたちはきれいに完食すると、「ごちそうさまでした!」と声を揃えて言って、「じゃあ、兄貴、講堂の方に行ってみるね」と言って立ち上がった。
 そして、僕の耳元に顔を寄せ、「兄貴、頑張んなよ。応援してるからさっ!」と言った。
「おいっ!」青山先輩とはそんなんじゃないんだ。
後でナミに言っとかないとな。いつまでもからかわれる可能性がある。

 青山先輩は、ナミたちを目で見送りながら優しい笑みを浮かべている。そして、振り返ると、「妹さん・・ナミちゃん、可愛いじゃないか!」と絶賛した。
「ありがとうございます」と言うのも恥ずかしいので、苦笑だけに留めた。
 その後、青山先輩とコーラス部の合唱を見に行ったり、続いて軽音楽部の演奏を聴いたりした。どこも人で一杯だ。
 再び、賑やかな校庭に戻ると、
 小清水さんと仲良く歩いている和田くんがいた。
 和田くんは僕を見つけると、小清水さんをその場に置くようにして寄ってきた。
 小清水さんは僕たちを見つけると、戸惑いの表情を浮かべながら小さく手を振った。
「鈴木くん、ちょっといいかな?」
 和田くんが青山先輩そっちのけで言った。
「どうしたんだ?」
 何か相談事なのか? 和田くんは念願の小清水さんと二人きりで言うことなしじゃないのか? 一緒に学祭を楽しむのは、デートとまではいかないが、同じような状況だ。
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