上 下
318 / 330

合同読書会①ー3

しおりを挟む
 横から和田くんが顔を寄せ、囁くように「匂うね」と言った。僕はすかさず、彼の脇を小突いて制した。少なくとも和田くんのタイプではないだろう。和田くんなら、その隣の大人しそうな小清水さん似の子だろうか?
 和田くんの声が聞こえたのか、青山先輩が咳払いを一つした。
 その青山先輩の前には、銀行員のような真面目一本に見える男が座っている。青山先輩と同じく三年生のようだ。 名前は森山と言う。
 香水も気になるが、退屈なのか、さっきから欠伸を連発している髪がばさばさの阿部という男子も気になった。失礼極まりない彼を見かねてか、今度は速水部長が強い咳払いをした。
 僕は咳払いはしないが、こんな催しって果たして必要なのかな? と思ったりした。
 だが、それは、青山先輩が言ったように「それを言ったらお終いだよ」かもしれない。
 それに加えて、小清水さんが指摘したように、
この後、神戸高校の文芸部も我が校の学祭を見学するのだろう。もしかしたらこの行事は他校に来るための都合の良い口実なのかもしれない。

 目の前の現実を見ながら、僕の心はこの場に関係のない夢想に走ったりもした。
 例えば、この神戸高校の部員たちと、初恋の石山純子と何がしかの繋がりがあったりするのだろうか? とか考えたりもした。彼女と一緒にいた男はさすがにこの中にはいないが、二年生であれば彼女と同じクラスだったり、友だちだったりするかもしれない。可能性は無きにしも非ずだ。
 自己紹介の後、雑談することもなく、合同読書会は淡々と始まった。
 読書会は、本を選んだ人が司会をすることになっているが、今回は特別に神戸高校側の部長が司会をするようだ。

「冬の夢」はゴルフのキャディをしている若い主人公が、ゴルフ場で富豪の娘ジュディに出会ったところから物語が始まる。
 ジュディは美少女だ。
 周囲の年嵩の男たちが、「あの少女は、将来、男たちを振り回すようになるぞ」と称えるほどの美しさだったということだ。
 主人公は仕事に成功すると、人生の目標であったかのようなジュディと再会し二人の交際が始まる。
 けれど社交界の花形のジュディの周りには、十人以上もの男たちが取り巻いていた。
 そして、結局二人の気持ちはすれ違い、別れることになる。
 主人公の男はやがて、アイリーンという女性と結婚する。
 そして、何年か後、ある知人から、ジュディは結婚したが、夫と上手くいかず、まだ二十代なのに昔の輝きを失っていることを知らされる。
「彼女が綺麗じゃないって? そんなはずはない・・あのジュディが、あんなに輝いていた女性が・・」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

微炭酸ロケット

Ahn!Newゐ娘
青春
ある日私達一家を裏切って消えた幼馴染み。 その日から私はアイツをずっと忘れる事なく恨み続けていたのだ。 「私達を裏切った」「すべて嘘だったんだ」「なにもかもあの家族に」「湊君も貴方を“裏切ったの”」 運命は時に残酷 そんな事知ってたつもりだった だけど 私と湊は また再開する事になる 天文部唯一の部員・湊 月の裏側を見たい・萃 2人はまた出会い幼い時の約束だけを繋がりに また手を取り合い進んでいく

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話

フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談! 隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。 30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。 そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。 刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!? 子供ならば許してくれるとでも思ったのか。 「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」 大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。 余りに情けない親子の末路を描く実話。 ※一部、演出を含んでいます。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...