時々、僕は透明になる

小原ききょう

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そして、僕の心は・・③

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「よく分からないよ。自分でも分からない心なんて」と僕は言った。
「気づいていても、自分では認めずにいたり・・そんなこと、鈴木くんにはない?」
「あると言えば、あるような・・」僕はあやふやに答えた。

 水沢さんは、改めて僕の顔をじーっと見つめた。
 目を逸らしたいけれど、逸らすことのできない、そんな強さのある瞳だった。
「鈴木くんの心って・・」水沢さんは意味ありげに言った。
「僕の心?」
「何か変・・」
「変?」
「変」と言った言葉が自分でもおかしいのか、水沢さんは笑って、
「変じゃなくて、混乱している、と言った方がいいのかな」と言い替えた。まるで、占い師が人の心を分析するような言い方だった。
 確かに今は混乱しているかもしれない。水沢さんの悲しい話も聞いたし、透明化も益々分からなくなった。
 それに、水沢さんという素敵な女性が目の前で目を瞑ったりしたら、混乱しない方がどうかしている。

「鈴木くん」
 水沢さんは僕の目を見た。真っ直ぐな瞳だ。外すことのできない強さがある。
「鈴木くん、迷っている?」
「迷う?」
 それは、僕の恋心のことだろうか。
 僕は水沢純子という女性がずっと好きだった。初恋を重ねてはいたが、ずっと考えていた。
 だが決して、水沢さんとは交際はできない。それはあの花火大会の日、痛切に感じた。
 人の心を読んでしまう人と、対等に付き合えるとはどうしても思えないし、その先の進展も全く見えない。
 だが、そんな風に水沢さんの存在を拒絶してしまうことは、果たして本当に正しいことなのだろうか。
 あまりにも悲しい。水沢さんはこの先、誰にも愛されないのかもしれない。
 水沢さんは親にだって、「薄気味悪い」と思われたりした。
 もちろん、この先、彼女を好きだという男子はいくらでも現れるだろう。だが、仮につき合うことになったら、必ず水沢さんの能力に気づくはずだ。気づかなくても、水沢さんなら、自ら明かすだろう。
 そして、その男はこう思うだろう。
 こんな女とは、薄気味悪くてつき合えない、と。
 僕は、そんな男たちと同じなのか? 僕の想いはその程度のものだったのか。

 そう思った瞬間、
「私、鈴木くんに嫌われているのかな」水沢さんはポツリと言った。
「えっ・・」
 もしかして水沢さんは、
「水沢純子という女性が好きだ」という心は読まずに、
「水沢さんとは、つき合えない」という心を読んだのか? 

 僕が、「それは違うんだ!」と言おうとすると、
「ごめんね。変な事ばかり言って」
 水沢さんは僕の言葉を遮るように言って、
「でも、私、鈴木くんといると安心するの」と言った。
「安心?」
 水沢さんは「うん」と頷き、「他の人みたいに変な心も入って来ないし」と小さく言った。
 誉められているのか、どうかは分からないが、「安心」という言葉の響きが良かった。
 水沢さんはそれだけ言って、
「そろそろ帰るわね・・鈴木くん、今日は本当にありがとう。部活動、頑張ってね」と微笑み、校門へと歩いていった。

 水沢さんの後姿を見送りながら、僕は思っていた。
 ・・君は、こんな悲しい能力を持ちながら、これからも生きていくのか。
 水沢さんの去った跡には、幾枚もの枯葉がサラサラと地面を舞っていて、まるで水沢さんの寂しさを象徴しているように思えた。そして、
 その向こうに本当に加藤がいたのかどうかも分からなかった。

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