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そして、僕の心は・・②

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「あの時のこと?」水沢さんはそう言って思い出すような表情で、
「鈴木くんが、私のことを思ってくれていた」とさらっと言った。
「えっ?」
 ドキッとした。
「最初、そう思ったのだけど、違ったわ。さっきと同じだったわ」
「同じって?」
「・・こんな僕なんて、この世界から消えてしまえばいい、って」そう水沢さんは言った。
 花火大会の時も、今日も余程強く念じたのだろう。同じなのは、どっちも透明化が失敗したことだ。
僕の頭から溢れ出る心は・・水沢さんに伝わる心は、それだけになってしまった。なんと滑稽なことだ。僕の想いは伝わっていなかった。

「私、鈴木くんの本当の心が知りたい」
 水沢さんは気持ちを切り替えるように言った。
「えっ、この世界から消えてしまいたい、って、ちゃんと伝わっているよ」
「その心の向こうにあることが知りたい」
 水沢さんの表情は、僕に悩みを打ち明けたことで、吹っ切れたのか、楽しんでいるかのように見えた。

「こんな風に、人の心を読むのは初めて」
 水沢さんは心を読む仕草のように、すっと目を閉じた。
 えっ、
「ちょっと待って! 人の心を勝手に読むなんて」と言う暇もなかった。
 慌てた僕は、必死で如何わしいこと、イヤらしいことを考えないように努めた。
 だが、それよりも、
 あの水沢純子が、目の前でその瞳を閉じている。
 心を読むのに、目を閉じる必要があるのかどうか知らないが、余計に変なことを考えてしまいそうだ。
 無心になるんだ! 何も考えてはいけない。
 ダメだ、そんなのできるわけがない!
 男として無理だ。何かを考えずにいるなんて絶対に無理だ。
 時間が止まった。心臓がドクンドクンと鳴った。
 水沢純子の閉じた瞳にも、当然目が行くし、その薄い唇にも目が釘付けになった。
 僕と水沢さんの間には、冷たい空気しかない。間を遮るものがない。 

 僕は、一学期の間、ずっと水沢純子を見ていた。初恋の女の子の面影を重ねてはいたが、水沢純子は、別箇の女の子だった。決して、あの冷たい石山純子ではなかった。
 その女の子が目の前で目を閉じている。
 だが、それは望んでそうなったのではない。

 緊張の時間はものの数秒で終わりを告げた。水沢さんの大きな瞳が開いた。
 そして、ニコリと微笑んだ。
「ごめんね、いきなり、こんなことをして」
「び、びっくりしたよ。突然だったから」
 驚きよりも、今、変なことを考えていなかったか、如何わしい妄想を抱いてはいなかったか、そればかりが気になる。
「いつも勝手に心が入り込んできたから、一度、自分から心を読んでみたかったの」水沢さんは、はにかみながら微笑んだ。自ら人の心を読んだことはない、ということだ。
 何か気恥ずかしい気もした。僕は水沢さんに選ばれたということだ。
 喜んでいいのか分からないが、
 今度こそは、僕の気持ちが正確に伝わったのだろうか?

 水沢さんは、少し微笑んで、
「鈴木くん、さっき、『水沢さんに触るなっ』って、言ってくれたのね」と言った。
 それは、さっき自主透明化しようとした時の言葉だ。
 僕は、あいつらが水沢さんの制服を掴んだ時、心の中で叫んだ。口にはしていないはずだ。強く心の中で叫んだから、残っていたのか? まるで残留思念のようだな。
 よりによって、あの時の心を読まれるとは・・恥ずかしい。

「格好良かったわよ、さっきの鈴木くん」水沢さんは優しく微笑んだ。
「え・・」
 どこが、格好よかったんだ?
「だって、あの不良娘たちに向かって、『水沢さんの制服を掴んだのはどっちだ!』なんて訊くんですもの」
「つい、弾みで言っただけなんだ。水沢さんが二人の心を読まなかったら、あいつらに何をされていたか分からなかった」
 僕がそう言うと、水沢さん「うふっ」と笑って「そうかも」と言った。
 そして、
「でも、こういう時の心の言葉は、鈴木くんの表向きの心」水沢さんはそう言った。
「僕の表向きの心?」
「鈴木くんだけではなく、人には、ふだん口にする言葉と変わらない心とは別に、自分では把握し切れない深い心があると思うの」
 水沢さんはそう説明した。
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