288 / 330
抑制①
しおりを挟む
◆抑制
だが、数秒後、
あれ?
おかしい・・
透明化しない。いつまでたっても何も起こらない。
水沢さんが手を離し、「鈴木くん、ごめんなさい」と言ったが、僕はそれどころではなかった。頭が混乱していた。
本来なら、もう透明化している時間だ。僕の勘違いだったのか?
いや、透明化寸前のいつもの感覚は確かにあった。
透明化せずに治まったのか? もしそうなら、そんな現象は初めてだ。
それならそれでいい気もするが、もう一つ気になるのは、心の暴発だ。
水沢さんに腕を回された僕は、心の暴発どころか、透明化せずに、すぐに元の体に戻った。
まるで、水沢純子という存在が、僕の異常体質を元に修正したように思えた。
それとも、完全に透明化していなかったから、心の暴発が起きなかったのか?
いずれにしろ、分からないことだらけだ!
水沢さんは、「本当にごめんなさい」と重ねて謝った。決して他意はない、と言わんばかりだ。
「本当に鈴木くんが消えてしまいそうな気がしたの」
水沢さんはそう言った。その意味は、僕が「消え入る」ではなく「透明になる」という意味にとれた。
水沢純子は人の心を読む。
どうして、今まで気がつかなかったんだ。
僕は今頃になって、そのことに気づいた。
僕が透明化することを秘密にしていても、水沢さんはとっくの昔に気づいていたんじゃなかったのか。
ただ、透明化については人知を超えた能力だ。心を読み取ったところで、理解し難かったのかもしれない。
なのに、僕は透明化の事だけは、水沢さんには読まれることはない、と勝手に思い込んでいた。
これは速水沙織との二人だけの秘密だ。僕のことが知られると、自動的に速水沙織の透明化も知られてしまう。それだけはいけない。
仮に僕のことは知られるとしても、速水さんのことだけは守らなければいけない。
「あの時・・校庭の幽霊さんも、鈴木くんだったのね」水沢純子は確信したように言った。
その質問に答えられるわけがない。
僕は口を閉ざした。だが、黙っていると、水沢さんの言葉を肯定することになる。
同時に風が強くなった。頬を切るような風だ。冬が近いのが分かる。
そう・・あれは、夏休み前の校庭での出来事だった。あの日は雨が降っていた。
雨の中、校庭を歩く水沢さんが部室から見えた。
水沢さんに僕の想いを伝えようと校庭を走ったけれど、思い留まった僕は自主透明化をしたのだ。そして、その場を立ち去ろうとした。
だが、水沢さんは僕に気づいた。透明化した僕に気づいた。
雨の泥濘を歩く音に気づいたのだろう、と思ったが違った。
・・それは雨だった。
水沢さんは雨を見ていたのだ。雨が僕の体に当たって人型を作っていた。
だが、数秒後、
あれ?
おかしい・・
透明化しない。いつまでたっても何も起こらない。
水沢さんが手を離し、「鈴木くん、ごめんなさい」と言ったが、僕はそれどころではなかった。頭が混乱していた。
本来なら、もう透明化している時間だ。僕の勘違いだったのか?
いや、透明化寸前のいつもの感覚は確かにあった。
透明化せずに治まったのか? もしそうなら、そんな現象は初めてだ。
それならそれでいい気もするが、もう一つ気になるのは、心の暴発だ。
水沢さんに腕を回された僕は、心の暴発どころか、透明化せずに、すぐに元の体に戻った。
まるで、水沢純子という存在が、僕の異常体質を元に修正したように思えた。
それとも、完全に透明化していなかったから、心の暴発が起きなかったのか?
いずれにしろ、分からないことだらけだ!
水沢さんは、「本当にごめんなさい」と重ねて謝った。決して他意はない、と言わんばかりだ。
「本当に鈴木くんが消えてしまいそうな気がしたの」
水沢さんはそう言った。その意味は、僕が「消え入る」ではなく「透明になる」という意味にとれた。
水沢純子は人の心を読む。
どうして、今まで気がつかなかったんだ。
僕は今頃になって、そのことに気づいた。
僕が透明化することを秘密にしていても、水沢さんはとっくの昔に気づいていたんじゃなかったのか。
ただ、透明化については人知を超えた能力だ。心を読み取ったところで、理解し難かったのかもしれない。
なのに、僕は透明化の事だけは、水沢さんには読まれることはない、と勝手に思い込んでいた。
これは速水沙織との二人だけの秘密だ。僕のことが知られると、自動的に速水沙織の透明化も知られてしまう。それだけはいけない。
仮に僕のことは知られるとしても、速水さんのことだけは守らなければいけない。
「あの時・・校庭の幽霊さんも、鈴木くんだったのね」水沢純子は確信したように言った。
その質問に答えられるわけがない。
僕は口を閉ざした。だが、黙っていると、水沢さんの言葉を肯定することになる。
同時に風が強くなった。頬を切るような風だ。冬が近いのが分かる。
そう・・あれは、夏休み前の校庭での出来事だった。あの日は雨が降っていた。
雨の中、校庭を歩く水沢さんが部室から見えた。
水沢さんに僕の想いを伝えようと校庭を走ったけれど、思い留まった僕は自主透明化をしたのだ。そして、その場を立ち去ろうとした。
だが、水沢さんは僕に気づいた。透明化した僕に気づいた。
雨の泥濘を歩く音に気づいたのだろう、と思ったが違った。
・・それは雨だった。
水沢さんは雨を見ていたのだ。雨が僕の体に当たって人型を作っていた。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
バスケ部員のラブストーリー
小説好きカズナリ
青春
主人公高田まさるは高校2年のバスケ部員。
同じく、女子バスケ部の街道みなみも高校2年のバスケ部員。
実は2人は小学からの幼なじみだった。
2人の関係は進展するのか?
※はじめは短編でスタートします。文字が増えたら、長編に変えます。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
微炭酸ロケット
Ahn!Newゐ娘
青春
ある日私達一家を裏切って消えた幼馴染み。
その日から私はアイツをずっと忘れる事なく恨み続けていたのだ。
「私達を裏切った」「すべて嘘だったんだ」「なにもかもあの家族に」「湊君も貴方を“裏切ったの”」
運命は時に残酷 そんな事知ってたつもりだった
だけど
私と湊は また再開する事になる
天文部唯一の部員・湊
月の裏側を見たい・萃
2人はまた出会い幼い時の約束だけを繋がりに また手を取り合い進んでいく
NTRするなら、お姉ちゃんより私の方がいいですよ、先輩?
和泉鷹央
青春
授業のサボリ癖がついてしまった風見抱介は高校二年生。
新学期早々、一年から通っている図書室でさぼっていたら可愛い一年生が話しかけてきた。
「NTRゲームしません?」
「はあ?」
「うち、知ってるんですよ。先輩がお姉ちゃんをNTRされ……」
「わわわわっーお前、何言ってんだよ!」
言い出した相手は、槍塚牧那。
抱介の元カノ、槍塚季美の妹だった。
「お姉ちゃんをNTRし返しませんか?」
などと、牧那はとんでもないことを言い出し抱介を脅しにかかる。
「やらなきゃ、過去をバラすってことですか? なんて奴だよ……!」
「大丈夫です、私が姉ちゃんの彼氏を誘惑するので」
「え? 意味わかんねー」
「そのうち分かりますよ。じゃあ、参加決定で!」
脅されて引き受けたら、それはNTRをどちらかが先にやり遂げるか、ということで。
季美を今の彼氏から抱介がNTRし返す。
季美の今の彼氏を……妹がNTRする。
そんな提案だった。
てっきり姉の彼氏が好きなのかと思ったら、そうじゃなかった。
牧那は重度のシスコンで、さらに中古品が大好きな少女だったのだ。
牧那の姉、槍塚季美は昨年の夏に中古品へとなってしまっていた。
「好きなんですよ、中古。誰かのお古を奪うの。でもうちは新品ですけどね?」
姉を中古品と言いながら自分のモノにしたいと願う牧那は、まだ季美のことを忘れられない抱介を背徳の淵へと引きずり込んでいく。
「新品の妹も、欲しくないですか、セ・ン・パ・イ?」
勝利者には妹の愛も付いてくるよ、と牧那はそっとささやいた。
他の投稿サイトでも掲載しています。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる