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木枯らし①
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◆木枯らし
彼女たちの様子を見ていた水沢純子は、
「鈴木くん、二人は放っておいて行きましょう」と呆れた様子で言った。
水沢さんとは何かの約束をしているわけでもないが、この場は去った方がいいし、僕は部室に戻らなければいけない。速水部長、それに部員たちが待っている。
ひとまず裏庭を散策するように歩き出した。浜田たちは追い駆けてこない。大声で互いを怒鳴り合っている。
少し歩くと、周りには誰もいなくなった。
「鈴木くん、ありがとう」と水沢さんは言った。そして、優しく微笑んだ。さっきまでの水沢さんらしからぬ怖い顔はどこに行ったのだろう。
改めて向き合うと透き通るような瞳が心を刺すようだ。
「僕は別に何もしていないよ」と僕が言うと、
「鈴木くんは、私の変な能力のこと、知ってるわよね」と前置きして、
「私、また人の心の中を読んじゃった」珍しい口調で言った。
水沢純子の場合、心を読むだけではない。その心を、本人に言ってしまうところがある。あの花火大会の時がそうだった。水沢さんは速水沙織の心をダイレクトに言った。
それがどれだけ相手を傷つけるか・・おそらく分かってはいるだろうが、自分の中に抱え切れないのかもしれない。
心が溢れ出すように相手に告げてしまう。
「私、あの人たちがあまり好きじゃないから、丁度よかったわ」
まるで気に入らない悪人を成敗したかのように言った。
「でも、あいつらのことだ。水沢さんに仕返しをするかもしれない」
僕が大仰に言うと、「そんな子供みたいなことはしないでしょう」と笑った。
そして、「それより鈴木くん」と呼びかけ、
「どうして、私がここに居るって分かったの?」と訊いた。
それは、速水さんに教えてもらったから・・
「速水さんに教えてもらったのね?」
「えっ、今、僕の心を読んだの?」
そう尋ねると、水沢さんは頭を振って、「違うわ。何となくそう思っただけよ」と言った。
水沢純子には嘘もつけない。
「実は、速水部長に教えてもらったんだ。水沢さんがピンチだって」
そう本当のことを言った。
「やっぱり、そうだったのね。この旧校舎の二階、文芸部の部室があるものね」
水沢さんは旧校舎を見上げて、
「でも、速水さん・・どうしてそんなことを鈴木くんに言ったのかしら?」と小さく言った。
旧校舎の窓・・そこに速水沙織が立っているような気がした。
速水さんは、僕たちを・・いや、僕を見ている。
速水沙織は、いつも僕の傍にいる。
彼女たちの様子を見ていた水沢純子は、
「鈴木くん、二人は放っておいて行きましょう」と呆れた様子で言った。
水沢さんとは何かの約束をしているわけでもないが、この場は去った方がいいし、僕は部室に戻らなければいけない。速水部長、それに部員たちが待っている。
ひとまず裏庭を散策するように歩き出した。浜田たちは追い駆けてこない。大声で互いを怒鳴り合っている。
少し歩くと、周りには誰もいなくなった。
「鈴木くん、ありがとう」と水沢さんは言った。そして、優しく微笑んだ。さっきまでの水沢さんらしからぬ怖い顔はどこに行ったのだろう。
改めて向き合うと透き通るような瞳が心を刺すようだ。
「僕は別に何もしていないよ」と僕が言うと、
「鈴木くんは、私の変な能力のこと、知ってるわよね」と前置きして、
「私、また人の心の中を読んじゃった」珍しい口調で言った。
水沢純子の場合、心を読むだけではない。その心を、本人に言ってしまうところがある。あの花火大会の時がそうだった。水沢さんは速水沙織の心をダイレクトに言った。
それがどれだけ相手を傷つけるか・・おそらく分かってはいるだろうが、自分の中に抱え切れないのかもしれない。
心が溢れ出すように相手に告げてしまう。
「私、あの人たちがあまり好きじゃないから、丁度よかったわ」
まるで気に入らない悪人を成敗したかのように言った。
「でも、あいつらのことだ。水沢さんに仕返しをするかもしれない」
僕が大仰に言うと、「そんな子供みたいなことはしないでしょう」と笑った。
そして、「それより鈴木くん」と呼びかけ、
「どうして、私がここに居るって分かったの?」と訊いた。
それは、速水さんに教えてもらったから・・
「速水さんに教えてもらったのね?」
「えっ、今、僕の心を読んだの?」
そう尋ねると、水沢さんは頭を振って、「違うわ。何となくそう思っただけよ」と言った。
水沢純子には嘘もつけない。
「実は、速水部長に教えてもらったんだ。水沢さんがピンチだって」
そう本当のことを言った。
「やっぱり、そうだったのね。この旧校舎の二階、文芸部の部室があるものね」
水沢さんは旧校舎を見上げて、
「でも、速水さん・・どうしてそんなことを鈴木くんに言ったのかしら?」と小さく言った。
旧校舎の窓・・そこに速水沙織が立っているような気がした。
速水さんは、僕たちを・・いや、僕を見ている。
速水沙織は、いつも僕の傍にいる。
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