上 下
284 / 330

水沢純子の能力①

しおりを挟む
◆水沢純子の能力

「おいっ、鈴木。私たちに何か用があるのか?」
 そう言ったのは、不良めいた女子の浜田だ。話し方が乱暴だし、髪も校則に反して染めている。浜田の横には似たタイプの安藤がいる。二人とも悪い話しか聞かない女子だ。
 少なくとも、水沢純子という可憐な女の子の雰囲気とはそぐわないし、縁もないはずだ。
 足が少し震えた。
 あまりこの手の女子とはまともに話を交わしたことがないからだ。最近、女性に慣れはしたが、やはり不良の類いは苦手というか、嫌いだ。

 こんな時、何て切り出せばいいんだ!
 僕は、「話し中のところ、ごめん」と言って一呼吸つき、
「僕、水沢さんに用があるんだ」と強く言った。
 すると浜田が、
「鈴木みたいな影が薄いのが、クラス一の美人さんに用って・・」と笑うと、
 安藤が、
「ウソだろ、鈴木の顔、話を誤魔化してます、って顔だ。本当は違うんだろ?」と決めつけるように言った。
 確かにその通りだ。
 僕はただ水沢さんが素行の悪い女子に囲まれているのがイヤなだけだ。水沢さんが困っている場面は見たくない。

「悪いけど、水沢さんと二人きりにさせてくれないか?」
 僕は言い方を変えた。
「まさか、鈴木も水沢に告白するってか?」そう言って浜田は「ぷっ」と噴き出すように笑い出した。つられるように安藤も笑った。
 水沢さんは笑っていない。それに不良娘に囲まれても全く動じた様子もない。凛として佇んている。

「僕が告白したら、おかしいか?」と僕は強く言った。
 どの道、変な噂が立っているんだ。これ以上は悪く展開しないだろう。
「お前みたいなモテない男は、関係ないんだよ」浜田がそう言うと、
 安藤が、「水沢は、あの正木くんも振ったんだ。その女がどうして、鈴木なんかの申し出を受けるって言うんだ」と強く言った。
 正木には「くん」を付け、僕は「鈴木」
 そんな違いより、水沢さんの「その女」という言い方の方が許せない。

 だんだん腹が立ってきた。
 透明化の失敗で、一旦は治まっていた怒りが突き上げてきた。
「どっちだ?」と僕は静かに訊いた。
「あん? どっちって何のことだよ?」安藤がふてぶてしく言った。
「さっき、水沢さんの制服を掴んでいたのはどっちだ? 浜田か、安藤か!」
 自分でも信じられないくらい大きな声が出ていた。どこにこんなエネルギーがあったのだろう。
 僕の声に、浜田が「ちっ」と舌打ちして、
「それ、私だけど、何か文句あるのか?」と凄みを利かせて言った。
「許さない!」
 僕が叫ぶように言うと安藤が、
「こいつ、教室では全然目立たなくて影が薄いのに、何を張り切ってやがるんだ?」と言った。
「いっちょう、懲らしめてやるか。誰も見てないことだしな」と、浜田がぐいと詰め寄った。

 すると、それまで黙っていた水沢さんが耐えかねたように、
「浜田さん」と声を上げた。
「何だよ? 水沢」浜田が水沢さんと向き合うと、
 水沢さんはこう言った。
「浜田さんは、正木くんに振られたのね?」
 一瞬で、浜田の顔が険しくなるのが分かった。
 同時に、安藤が「えっ」と小さく言って、浜田の顔を見た。

 水沢さんは、今度は安藤の方を見て、
「そして、安藤さん、あなたは自分が男子に人気がないのをひがんでいるのね」と言った。
 安藤が言い返す暇も与えず、水沢さんは続けた。
「それに、安藤さんはこうも思っているわね・・『水沢の奴、デカいマンションに住みやがって、お陰で私の家は日当たりが悪くなったじゃないか』・・と」と安藤の心を見透かすように言って、
「安藤さんにそう思われても、私のマンションの後に、安藤さんの家が建ったのよ。文句を言うのは筋違いよ」と続けた。
 水沢さんにしては珍しく強い口調だ。それに顔が少し怖い。
 言われた安藤は、混乱して思考がまとまらないようだ。言葉を失っている。心の中身を知られることはあり得ないからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

微炭酸ロケット

Ahn!Newゐ娘
青春
ある日私達一家を裏切って消えた幼馴染み。 その日から私はアイツをずっと忘れる事なく恨み続けていたのだ。 「私達を裏切った」「すべて嘘だったんだ」「なにもかもあの家族に」「湊君も貴方を“裏切ったの”」 運命は時に残酷 そんな事知ってたつもりだった だけど 私と湊は また再開する事になる 天文部唯一の部員・湊 月の裏側を見たい・萃 2人はまた出会い幼い時の約束だけを繋がりに また手を取り合い進んでいく

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話

フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談! 隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。 30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。 そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。 刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!? 子供ならば許してくれるとでも思ったのか。 「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」 大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。 余りに情けない親子の末路を描く実話。 ※一部、演出を含んでいます。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

どうして、その子なの?

冴月希衣@商業BL販売中
青春
都築鮎佳(つづき あゆか)・高1。 真面目でお堅くて、自分に厳しいぶん他人にも厳しい。責任感は強いけど、融通は利かないし口を開けば辛辣な台詞ばかりが出てくる、キツい子。 それが、他人から見た私、らしい。 「友だちになりたくない女子の筆頭。ただのクラスメートで充分」 こんな陰口言われてるのも知ってる。 うん。私、ちゃんとわかってる。そんな私が、あの人の恋愛対象に入れるわけもないってこと。 でも、ずっと好きだった。ずっとずっと、十年もずっと好きだったのに。 「どうして、その子なの?」 ——ずっと好きだった幼なじみに、とうとう彼女ができました—— ☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆ 『花霞にたゆたう君に』のスピンオフ作品。本編未読でもお読みいただけます。 表紙絵:香咲まりさん ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...