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「加藤」と「鈴木」①

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◆「加藤」と「鈴木」

「加藤」「鈴木」と、
 お互いにそう呼び合うようになったのは、ほんの些細なきっかけだった。

 加藤ゆかりという存在は、僕にとって最も縁のない遠い存在だった。
というのは、加藤は僕のような文系とは違って、つい最近までだがバリバリのスポーツ女子系だったからだ。
 こんな言い方は悪いかもしれないが、小清水さんや、和田くんたちが僕とこちら側の人間で、加藤はあちら側だった。
 ただ、文系と体育会系の仕切りだけではない。
 僕が影が薄いことを最も意識する人間たち。いや、僕をいない者扱いする生徒たち。
 例えばそれは、中学の時、教室で、「鈴木くんて、姿が見えないよね」と陰口を叩いていた連中が大勢いた。  あの類の連中・・
 加藤は、どちらかと言うと、あちら側に属する女の子だ。
 そのはずだった。
 だが、加藤は少し違った。
 どこが違うのか? 速水さんもそうだが、加藤は僕の目の前で、「影が薄い」と言った。他の連中は陰で言ったり、ワザと聞こえるように言ったりした。

 一学期、加藤の席は僕の左横だった。
 一度、加藤が国語の教科書を忘れてきて、僕が教科書を見せるのに机をくっ付けたことがあった。
「ありがとね、鈴木」
 教科書を二人で共有することなんて、大したことじゃないけど、そう言われると悪い気はしなかった。次の日も、
「鈴木、昨日はありがとね」とニコリと微笑んだ。
 思えば、それが高校に入学してからの女子から受けた初めての笑顔だった気がする。
 爽やかな春の風のような笑顔だった。
 だが、その時の僕は、加藤の前に座っている水沢純子という女の子に目を奪われていたのだ。正確には、水沢さんの後姿に中学時代の初恋の女の子を重ねていた。

 あれはいつだったろう。
 高校に入学して間もない頃の昼休み。
 旧校舎の裏庭の薄汚れたベンチで文庫本に目を落としていた時だ。別に本を読んでいるわけではなかった。その時は今ほど読書家ではなかった。
 何も持たずに座っていることがおかしいと思われたくなかったからだ。

「あれえっ、鈴木じゃん」
 たまたま、僕の前を通りかかった加藤はそう声をかけてきた。どこかへ行く途中なのか、加藤は一人だ。
 最初、妹のナミみたいなしゃべり方だな、と思った。妹と同じようにスカートも短めだ。
 僕が顔を上げると、「一人で、何しているの?」と訊いた。
 こんな所で何をしているの? しかも、一人きりで・・いつもの被害妄想で相手の心を探った。
 僕は、「本を読んでいるんだよ」と撥ねつけるように言った。「見りゃ、分かるだろ!」そんな言い方をした。
 けれど、加藤の大きな目と合うと、それまでの歪んだ被害妄想とか、一人きりの孤独とか、そんな気持ちがどこかへ消えていた。不思議な感覚だった。

「へえっ、鈴木って、読書家だったんだね」加藤は僕がつっけんどんに言ったにも関わらず、感心するように言った。
 そんな加藤を見ていると、騙しているような気がして申し訳ない気がした。
 僕が「それほどでもない」とあやふやに返すと、
「鈴木ってさ、教室では影が薄くて、何を考えているか、分かんないところがあるけど、意外と何かを考えているんだね」と言った。
「当り前だ。何も考えていない奴はいない」と僕は断言して、
「僕はそんなに、影が薄いか?」と小さく訊いた。
「うん、薄い!」
 キッパリと返された。
 聞いた時はいつもの如くショックだったが、陰で言われるよりはマシだったし、その言い方は悪意が感じられず、むしろ爽やかだった。
 それは、僕にとっては何かの励まし・・「エール」のように感じたのだ。
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