時々、僕は透明になる

小原ききょう

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光②-1

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◆光②

 てっきり、加藤は頭に血が上ったまま、この場を去っていくものだと思っていた。
 けれど、加藤は顔を真っ赤にしながらも、僕をじっと見ている。
 加藤は怒ったのに違いない。絶交されるかもしれない。学校で会っても口をきいてもらえないかもしれない。
 だが、このままじゃダメだ。

「どうかしたの? 鈴木」
 加藤はそう訊いた。
「え? どうかしたって?・・」
「鈴木、今、すごい顔をしているよ」加藤は心配そうに言った。
 女性として恥ずかしい思いをした後なのに、加藤は、僕を気づかっているように見えた。

「なんかあるんだね?」
 僕はとりあえず頷いた。
 確かに何かある。さっきの行動には意味がある。いい加減な気持ちでしたわけではない。僕なりの判断だった。
 けれど、それは言えないんだ。たとえ、加藤でも。透明化とか、心の暴発の話とか、言えないんだよ。

 加藤はじーっと僕の顔を見つめて、
「鈴木・・まさか、女性恐怖症・・とか?」
 えっ、女性恐怖症? 確かに女性もそうだが、人間全般が怖いような気もするが。
 僕が返さないでいると、
 加藤は、「ははっ」と大きく笑って、
「それはないか」加藤はそう言って、
「私、あんまり女っぽくないもんね」と笑った。
「そ、そんなことはないっ!」僕は必死で加藤の言葉を否定した。
「冗談だよ。そんなにムキにならなくても」
「ご、ごめん」
「もう謝らなくてもいいよ」
 加藤は、何かの感情を押し殺したような顔をした後、優しい表情を見せ、
「あの時のことを思い出したんだよ」と切り出した。
「あ、あの時って?」
「前に言ったじゃん」
「前に、って?」
「ほら、プールで鈴木に会った時のことだよ。あの時、私、幽霊に体を触られた、って言ったよね」
「ああ、透明人間に水着を掴まれたって、言ってたことか?」

 あいつら、岡部と小西と波の出るプールに行った時、加藤に出会った。
 その状況・・僕は透明化していた。運悪く、その場に加藤がいて、波が押し寄せて来た時、加藤と体が触れ合う結果となった。
 考えてみれば、さっきの状況と同じじゃないか!
 僕と加藤は、そんな運命にあるのか? そうとしか思えない。
 それは喜ぶべきことなのか?
 楽しいと言えばそうかもしれないが、ドキドキする。

 僕が「思い出したよ。あの時、加藤は怖がってたよな」と言うと、
「そうそう。怖かった。あんな経験、初めてなんだもん」と加藤は言って、「あれ? やっぱり透明人間だったのかな?」と呟き、
「まあ、どっちでもいいんだけど、透明人間に触られた時のことを少し思い出したんだよ」と言った。
 一瞬だったが、肌が触れ合った。
「あの時は、正体が分からなくて怖かったけど、今日のは、鈴木だって分かってるから、別にいいかな・・て」
 加藤はそう言った後、顔の前で手をブンブンと振って、
「べ、別によくなんかないよね」と慌てて訂正した。
 そして少し俯き、小さく「純子に悪いし・・」と言った。

 水沢純子に悪い・・加藤はそう言った。
 さっきも、「鈴木は純子のことが好きなんでしょ?」と言っていた。
「加藤、僕は・・」
 僕が強く呼びかけた時、
 加藤は他へ目をやっていた。向こうから大人の女性が歩いてくるのが認められたからだ。

「あれえっ、鈴木くんに、加藤ちゃんじゃない?」
 薄暗がりの川辺に現れたのは、池永かおり先生だった。その出で立ちは、まだ真夏モード全開だ。秋なのに派手なショートパンツに薄手のTシャツ。先生の中ではまだ夏は終わっていないようだ。
「池永先生」
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