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孤独②

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「私は、同じ部員として、速水部長のことをもっと知りたいです」
 小清水さんはきっぱりと言った。
「速水部長。いつもこの部室に遅くまで残っていて、何かあるのかな? 家に帰りたくないのかな? 何か事情があるのかな? いつもそう思っていました。訊いても、部長は何も答えてくれなかったし、日に日に、その表情が悲しくなっていくように見えました。それに、二学期が始まってからは、特に沈んでいるように見えるし・・」
 小清水さんは一気に話すと、
「以前の速水部長に戻って欲しいです!」
 そして、
「速水部長、辛いなら辛いと、私たちに言ってください!」と大きく言った。「仲間じゃないですか!」
「沙希さん・・」速水さんが反応した。
 和田くんが、「僕もその方がいいと思う」と意味も分からず同調した。

 不思議な光景だった。
 小清水沙希という女の子の中に、別人格のミズキがいるような気がした。
 元は同じ女の子なのだから、それは当たり前なのかもしれない。
 だが、そんなことじゃなく、小清水さんの内気な人格をミズキが背中を押している。そんな感じに見えた。

「沙織・・みんな、仲間だ。二人ともそう言っているじゃないか」
 青山先輩はそう言った。だが速水沙織の性質上、皆に頼ることはしない。それは僕がよく知っている。
 速水沙織は孤高の存在だ。
 この春・・僕は速水沙織の姿を須磨の海岸で見かけたことがある。
 水沢さんや加藤と水族館に行った帰りだ。彼女は海岸に立って、一人、海を見ていた。
 あの時、速水沙織の姿から流れてきたのは、強烈な孤独だった。

 それ故に、速水沙織を孤高の位置から降ろすのは無理だ。皆の誘いに乗ることは決してない。
 それは分かっている。分かってはいるが、僕は言わなければならない。
「速水部長、いや、速水さん。ここにいる皆なら、あのことを言ってもいいと思う」
 僕はそう言った。速水沙織の家の現状。それを皆に伝えた方がいい。そうした方が、これからも皆とうまく・・
 そう思った時、
 速水沙織の顔がくしゃくしゃに泣き崩れたように見えた。
 僕には速水沙織の表情の意味が痛いほどよく分かった。
「鈴木くんまで、皆と同じようなことを言うのね」速水沙織の顔はそう言っていた。

 そして、速水さんは今日一番の大きな声を上げた。
「私のことは・・放っといてちょうだい!」
 皆が驚くほどの声だった。彼女のこんな大きな声を聞いたことは今までになかった。
 その言葉は、青山先輩はもちろんのこと、僕に対しても放たれていた。
 速水さんは自分のことにかまわないで欲しいと言ったのだ。
 だが、そんな反応を見せれば、何かあったと思われても仕方ない。

 速水さんは、「私、先に失礼するわ」と静かに部室を立ち去った。青山先輩が「沙織、待つんだ!」と言ったような気がしたが、多分、耳に届いていなかっただろう。
 速水さん・・
 一体、君はどこに帰るというのだ?
 そして、僕は寂しそうな彼女の後姿に心の中で言った。
「放っておけるわけがないだろ!」
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