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大暴露読書会③-2
しおりを挟むミズキは今度は皆の顔を見ながら、
「それに、一読しただけでは、なんということのない小説に思えちゃうのだけど、読み手によっては、読めば読むほどに様々な捉え方ができるようになるのよ。まるで万華鏡のような小説ね」
ミズキは感想を吐き出すように語った。部員全員が呆気にとられている。
そして、最初、このミズキという少女に出会った時、小清水さんを更に大人しくした少女だと思っていたが、その生き生きとした瞳を見ていると、彼女もそれなりに成長している・・そう思った。
「かなり、読み込んでいるのだな」と感心したように青山先輩は言った。
「ええ、この短編小説、大好きよ。沙希が読んでいる時も読んでいたし、私が表に出た時も、よくこの本を読んでいたわ。他にも夏目漱石の『三四郎』もよく読んでいるわ。あなたたちが夏の合宿の読書会で『三四郎』について語り合っていたのも聞いていたわよ」
ミズキが話しているのを静かに聞いていた青山先輩は、意を決したように言った。
「どうやら、沙希ちゃんは『二重人格』のようだ」
「青山先輩!」思わず僕が声を上げた。青山先輩、はっきり言い過ぎ!
それは分かってるけど、言っちゃダメだ。それに、二重じゃなくて、多重人格なんだけど。
速水部長が、「しっ!」と、子供を叱りつけるように青山先輩を睨みつけた。
青山先輩は、まともに速水部長の怒りの眼差しを受けたらしく、
「いや、訂正するよ。沙希ちゃんは・・時々、博学な子になる」と意味不明のことを言った。
和田くんが手を上げ「あのお。どう見ても、小清水さんは、二重人格に見えるんですけど」とミズキを見ながら言った。
その様子を見ながら、ミズキは微笑んだ。その表情は、同じ人間でも全く違うものだった。やはり、人格が異なると、表情も異なって見えるのだろうか。
「みんな、気にしなくていいわ」とミズキが皆を安心させるように言った。
「でも、またすぐに自分の元いた場所に戻るから」
そう言ったミズキの言葉を受けて、青山先輩がポツリと「やはり・・」と言って、速水さんがホッとしたような表情を浮かべた。
そして、和田くんは「ええっ、そんなっ」と残念がる表情となった。
「でも、私が現れたことは、沙希には言わないでちょうだい」
青山先輩が「どうしてだい?」と訊ねると、
「沙希は傷つきやすい子だから」ミズキはそう答えた。
「君はご主人思いの子なんだな」青山先輩はミズキをそう評価した、
「当り前よ。沙希が悲しむようなことがあったら、私も気持ちが沈んでしまうわ」
人格同士の感情の起伏はリンクしているということだ。
すると突然、ミズキはカクンと首を前後に揺らした。そして「あっ」と声を漏らし、
「沙希が出たがっているわ」と言った。
そろそろ、ミズキとはお別れのようだ。
ミズキは、その体を小清水さんに返す。そして、元の小清水沙希になる。
和田くんが、「ええっ、ミズキさん、いなくなるの?」と落胆の声を上げると、速水部長が「和田くん!」と戒め、「第三者が好き勝手に言うことではないわ」と戒めた。
ミズキは少し寂しそうな顔をしたが、
「でも・・とても、楽しかったわ」ミズキはそう言って微笑んだ。
その顔を見て青山先輩が、
「ミズキさん、楽しかったよ。また君が参加してくれたら・・」と言って、言葉を詰まらせた。ミズキが現れるということは、同時に小清水さんが消えるということだ。青山先輩はとっさに気づいて言い淀んだのだろう。
「私、この部屋を出ていくわ」とミズキが言った。そして、
「沙希がこの部屋に戻ってきた時、何も言わないであげてちょうだい」
ミズキは、この部屋で小清水さんに戻った時の彼女の反応を気遣ったのだろうか。それとも人格が入れ替わる時の顔を皆に見られたくないのだろうか?
ミズキは腰を上げながら、
「最後に一つだけ、いいかしら?」
青山先輩が「なんだい?」と受けると、
「そちらの、さっきから黙っている人」と速水部長を指した。
彼女に向き直った速水さんを見て、ミズキが、
「あなたの中に、いろんな苛立ちや悲しみが見えるわ」
そして、「それは、どんな思いなのかしら?」と言った。
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