時々、僕は透明になる

小原ききょう

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大暴露読書会①-1

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◆大暴露読書会①

 青山先輩の言葉のどこが感に触ったのか分からないが、速水部長は、檸檬の本をパタリと閉じ、
「あら、青山さん。長い間、休部されていたのに、ずいぶんと言われるのね」と皮肉交じりに言った。そこまで言う必要があるのか、と思ったが。
 青山先輩は「休部の件はすまない。前に言ったかどうか忘れたが、この部室に幽霊が出て・・そ、それが怖かったのだよ」と言った。
 青山先輩が見た幽霊というのは、放課後の部室で、透明化していた速水さんだ。

 青山先輩は「あの幽霊は、沙織の心のような気がする」と言っていた。
 寂しい速水沙織の心。不倫のことで自分を恨んでいる速水沙織。だが、不倫の件は青山先輩は全く悪くない。 二人はすれ違いで関係が遠のいていった。

「あら、青山さんは、そんなに怖がりだったかしら?」
 そこで僕が「そうだよ。青山先輩は、ああ見えて怖がりなんだ」と言った。
 だが、「鈴木くんに聞いていないわ」と、速攻で跳ね返された。

 すると、青山先輩が「沙織、そんな言い方はないよ」と戒め、「彼の言う通り、私は怖がりなんだ。沙織とは長い付き合いだ。それくらいのこと知っているだろう?」と言った。
「純真な子供の頃のことよ。忘れたわ」と速水さんは言い放った。
 和田くんは、話についていけない顔をしているし、小清水さんは困った表情で僕を見ている。
 速水部長と青山先輩は幼馴染だが、因縁の関係でもある。速水さんの母親が青山先輩の父親と不倫関係にあった。だが、それは他の人とは何の関係もない。
 あ、もしかすると、
 青山先輩は、この読書会を通じて、あの頃に戻ろうとしているのか?
 幼馴染だった速水さんと仲が良かった頃に。
 そして、青山先輩は本気で速水さんのことを心配している。まるで妹のように。
 そう思ったのも束の間、
 速水さんの話はそこで終わらず、「それに、鈴木くんが、青山先輩の怖がりなところを知っているなんて、お二人はそんなにご親密な関係なのかしら?」といつもの皮肉口調で言った。
「沙織! 鈴木くんに失礼だろ」素早く青山先輩が戒める。

 そこで終わればいいものを、和田くんが、
「速水部長・・それって、焼きもちですか」と更に火を点けた。和田くんにすれば素直な感想を言ったつもりなのなのだろうが、
「焼きもち!」ダイレクトに反応した速水さんが大きな声を上げた。
「沙織、今は読書会中だ。大きな声は禁物だよ」
 青山先輩が強く制したにも関わらず、
 速水さんは和田くんに向かって、
「いつまでも煮え切らない人が、焼きもちなんて、よく言えるわね」と言った。
煮え切らない・・それは和田くんが小清水さんに恋する気持ちのことを言っているのだろう。
 速水さんの攻撃に和田くんが何か反論すると思ったが、しゅんとしてしまっている。可哀相に。
「速水部長。和田くんの内面を暴露してはいけないんじゃないか?」と強く言った。
 僕は和田くんを擁護するつもりで言ったのだが、
 和田くんは、「す、鈴木くん。それだと、まるで僕が煮え切らないみたいじゃないか」と反論した。なるほど、そうもとられる。だが、そう思うのだったら、小清水さんに早く告白すればいいじゃないか。

 すると、小清水さんが、
「あのお、速水部長。どうして、和田くんが煮え切らないんですか?」と素朴な疑問を呈した。
 すると速水さんは眼鏡くい上げをして、
「沙希さん・・あなたも鈍感ね」と言った。
「ええっ 私、鈍感なんですか?」
 まるで話が分からない小清水さんが声を上げた。同時に和田くんが俯いてしまった。
「全く、人の色恋沙汰にはうんざりさせられるわね」速水さんはそう言って、「鈍感なのは、鈴木くんもだけど」と更に言った。

「沙織、沙希ちゃんのことは大体想像がつくが、どうして、鈴木くんまで鈍感なんだ?」
 最もな疑問だ。
「あら、鈍感で言えば、青山さん。あなたも同じね」
「私が?」
 青山先輩のどこが鈍感なのか分からないが、青山先輩は、
「沙織の方こそ、鈍感だろう。私が・・これほど・・」
 青山先輩は、「これほど、私は沙織のことを心配しているのに」そう言いたいのだろう。
 だが、今はそんなことよりも、
「その話、読書会とは関係ないと思う」
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