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君のためにできること①
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◆君のためにできること
その後、早川講師は学校を去った。僕が起こした騒ぎが直接的な原因であるかどうかは分からない。
何か問題が起こった時には、青山家が登場すると思っていたが、それはなかったようだ。
事態は静かに収束されていった。
あそこまでやる必要があったのか、やり過ぎではなかったか? 僕なりに何度も考えた。
成績を人によって、えこひいきしていることくらいなら、まだいい。だが、青山先輩に言い寄ったり、小清水さんに性的暴力をしようとしたことは絶対に許せなかった。
僕の中に後悔はなかった、
後味は悪かったが、速水さんも僕を非難はしなかったし、小清水さんにも次第に笑顔が戻るようになった。青山先輩から何かを言ってくることはなかった。
もし、本当に小清水さんの笑顔が本当のものならば、僕の透明化能力が初めて人の役に立ったのではないだろうか。
この春、体が時々透明になることに気づいてから、ろくな事がなかった。
小清水さんと二人きりの時に透明になったり、スポーツテストで透明化したり、半透明の僕を妹や青山先輩に見られたり。
つい先日の花火大会でも、透明化することはなかったが、とんだ事態を招いてしまった。
けど、こんな迷惑極まる能力でも、使い方によっては人助けになるということだ。
そう思うと、少し嬉しくなった。
ん? 待てよ・・
僕は人助けをしたい、この透明化で誰かの役に立ちたい、っていうのか?
僕は本来そういう性格だったのか?
いや、違う。
この春までの僕は、誰からも認められることのない影が薄い存在だった。そして、それに甘んじるように人との接触を避けてきた。
中学時代の初恋の身代わりの女性・・そう位置づけた水沢純子を眺める日々だけでよかったはずだ。
それがどうだ。何かの乗り物に乗っているかのように、周囲の環境がどんどん変わっていった。その全てが文芸サークルに入ってからだ。
そして、その中心にいた人・・それは速水沙織だ。
彼女が、僕の環境や人間関係を変えていった。
僕がそれを望んでいたのか? それとも、彼女が僕の環境を変えようとしていたのか、それは分からない。
だが、それを少しでも恩と感じるのならば、僕は速水沙織の為にできることがあるのなら、僕の透明化の力で、速水沙織の人生の障壁となるものを取り除いてあげたい。
速水さんの人生の障壁はあいつしかいない。
合宿の帰り、須磨の海岸で出会った人物。
それは、養父の「キリヤマ」だ。
キリヤマには、それよりもっと以前、僕が初恋の人、石山純子に公衆電話から電話をかけ、見事に振られた夜に出会っている。
キリヤマは、透明化する速水沙織を逃げないように手錠で繋ぎ留めていた。そんなことを平気でする非情な男だ。
あの男を速水さんから取り除かないと、速水さんに平穏な日々は訪れない。
速水さんはこう言っていた。
「私、もう眠くなることはないのよ・・」
その言葉が意味すること、それは、常にキリヤマの陰に怯えて暮らしているということだ。
その証拠のように、速水さんは眠くなって透明化したことはない。
常に、自主透明化だった。
私なんて、いなくなればいい。そう願って初めて透明化した。
そんな辛い人生、僕だったら耐えられない。
だが、彼女はその中で生きている。
更に、悲しいことに、
速水さんの実の母親は、このキリヤマという男に身も心も流れていった。つまり、実の娘よりも屈強な男を選んだのだ。
その証のように、母親は透明化した娘の姿が見えない。そればかりか、キリヤマと一緒になって、娘のことを「化け物」呼ばわりをした。
速水さん曰く「母の心は崩壊している」だ。或いは、母は精神を病んでいる、そう言っていた。
速水沙織の母親は、夫が事業の失敗で首をくくり、亡くなった後、ライバル会社であった青山家、つまり、青山先輩の父親との恋に走った。
僕から見れば、信じられないほどの身勝手な女性だ。
その後に一緒になったのが、柄の悪いキリヤマだ。
速水さんは、養父となった桐山から、暴力を受けていた。その証も見たことがある。
これは勝手な想像だが、速水さんは性的な暴力も受けていたのではないか? そう思える節もあった。
今は、須磨の叔父さんの家から学校に通っているが、速水さんは常にキリヤマの陰に怯えて暮らしている。
そう思っていた。だが・・
その後、早川講師は学校を去った。僕が起こした騒ぎが直接的な原因であるかどうかは分からない。
何か問題が起こった時には、青山家が登場すると思っていたが、それはなかったようだ。
事態は静かに収束されていった。
あそこまでやる必要があったのか、やり過ぎではなかったか? 僕なりに何度も考えた。
成績を人によって、えこひいきしていることくらいなら、まだいい。だが、青山先輩に言い寄ったり、小清水さんに性的暴力をしようとしたことは絶対に許せなかった。
僕の中に後悔はなかった、
後味は悪かったが、速水さんも僕を非難はしなかったし、小清水さんにも次第に笑顔が戻るようになった。青山先輩から何かを言ってくることはなかった。
もし、本当に小清水さんの笑顔が本当のものならば、僕の透明化能力が初めて人の役に立ったのではないだろうか。
この春、体が時々透明になることに気づいてから、ろくな事がなかった。
小清水さんと二人きりの時に透明になったり、スポーツテストで透明化したり、半透明の僕を妹や青山先輩に見られたり。
つい先日の花火大会でも、透明化することはなかったが、とんだ事態を招いてしまった。
けど、こんな迷惑極まる能力でも、使い方によっては人助けになるということだ。
そう思うと、少し嬉しくなった。
ん? 待てよ・・
僕は人助けをしたい、この透明化で誰かの役に立ちたい、っていうのか?
僕は本来そういう性格だったのか?
いや、違う。
この春までの僕は、誰からも認められることのない影が薄い存在だった。そして、それに甘んじるように人との接触を避けてきた。
中学時代の初恋の身代わりの女性・・そう位置づけた水沢純子を眺める日々だけでよかったはずだ。
それがどうだ。何かの乗り物に乗っているかのように、周囲の環境がどんどん変わっていった。その全てが文芸サークルに入ってからだ。
そして、その中心にいた人・・それは速水沙織だ。
彼女が、僕の環境や人間関係を変えていった。
僕がそれを望んでいたのか? それとも、彼女が僕の環境を変えようとしていたのか、それは分からない。
だが、それを少しでも恩と感じるのならば、僕は速水沙織の為にできることがあるのなら、僕の透明化の力で、速水沙織の人生の障壁となるものを取り除いてあげたい。
速水さんの人生の障壁はあいつしかいない。
合宿の帰り、須磨の海岸で出会った人物。
それは、養父の「キリヤマ」だ。
キリヤマには、それよりもっと以前、僕が初恋の人、石山純子に公衆電話から電話をかけ、見事に振られた夜に出会っている。
キリヤマは、透明化する速水沙織を逃げないように手錠で繋ぎ留めていた。そんなことを平気でする非情な男だ。
あの男を速水さんから取り除かないと、速水さんに平穏な日々は訪れない。
速水さんはこう言っていた。
「私、もう眠くなることはないのよ・・」
その言葉が意味すること、それは、常にキリヤマの陰に怯えて暮らしているということだ。
その証拠のように、速水さんは眠くなって透明化したことはない。
常に、自主透明化だった。
私なんて、いなくなればいい。そう願って初めて透明化した。
そんな辛い人生、僕だったら耐えられない。
だが、彼女はその中で生きている。
更に、悲しいことに、
速水さんの実の母親は、このキリヤマという男に身も心も流れていった。つまり、実の娘よりも屈強な男を選んだのだ。
その証のように、母親は透明化した娘の姿が見えない。そればかりか、キリヤマと一緒になって、娘のことを「化け物」呼ばわりをした。
速水さん曰く「母の心は崩壊している」だ。或いは、母は精神を病んでいる、そう言っていた。
速水沙織の母親は、夫が事業の失敗で首をくくり、亡くなった後、ライバル会社であった青山家、つまり、青山先輩の父親との恋に走った。
僕から見れば、信じられないほどの身勝手な女性だ。
その後に一緒になったのが、柄の悪いキリヤマだ。
速水さんは、養父となった桐山から、暴力を受けていた。その証も見たことがある。
これは勝手な想像だが、速水さんは性的な暴力も受けていたのではないか? そう思える節もあった。
今は、須磨の叔父さんの家から学校に通っているが、速水さんは常にキリヤマの陰に怯えて暮らしている。
そう思っていた。だが・・
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