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ヒカルと沙希①
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◆ヒカルと沙希
静かな時間が流れた。二人の息遣いと校庭の運動部の声だけが聞こえた。
そして、その静寂を僕は破った。
「それは、ダメだ」僕はキッパリと言った。
「えっ、どうして?」
ヒカルの疑問に僕はこう答えた。
「まず第一に、小清水さんの気持ちも考えずに、そんなお願いを聞くわけにはいかない」
僕がそう言うと、ヒカルは「それは分かっているんだけどなあ・・沙希はあんたのことが好きみたいなんだけどなあ」とブツブツ言った。
「でも、それはヒカルの考えだ・・それに・・」
「それに、なんだよ」
ヒカルは問い詰めるように訊いた。
その質問に僕はこう答えた。
「僕には、好きな人がいる・・」
ヒカルは暫く沈思した後、
「そうなのかよ・・でも、ミズキの話じゃ、鈴木は誰が好きなのか、迷っているっていうことだったぜ」
ヒカルは悲しそうな顔をした。
だが、ヒカルが悲しんでいても、それだけは受け入れられない。
「確かに、あの時は、そうだった・・でも今は違うんだ」
「だったら、別にいいよ」ヒカルはそう言った。
納得してくれたのか?
と思っていると、ヒカルは顔を上げ、僕を真顔で見つめた。
そして、ぐいぐいと詰め寄ってきた。
「な、なんだよ?」僕が尋ねると、ヒカルは、
「だったら、オレとキスしてくれよ」と言った。
ヒカルとキス?
「同じじゃないか?」
小清水さんとキスするのとヒカルにキスするのは同じだ。同じ唇だ。
「オレとも、ダメなのか?」とヒカルは訊いた。
「ああ、ダメだ。同じだから」
僕には多重人格のことはわからない。だが、僕から見れば、小清水さんもヒカルも同じ人間だ。第一、もし二人の人格がまるっきし異なっていても、ヒカルとキスする理由が見当たらない。
「そっか・・」
ヒカルは「そっか」と言ったが、その表情を見るに、まだ諦め切っていない様子だ。
すると、ヒカルは、
「オレ、まだキスとかしたことないんだよ」と言った。
ヒカルの言っていることがよくわからない。小清水さんがまだなんだから、ヒカルもまだなんだろ。違うのか?
僕がそう言うと、
「オレ、時々、沙希の体を借りて、街をぶらついたりするんだけどさ」と話し始めた。
僕は出会っている。素行のよくない男子と街を闊歩しているヒカルと。
そんなヒカルとゲームセンターで会った和田くんは、彼女に恋をした。小清水さんではないヒカルに恋をした。
「ああ、一度、街を歩いているのを見たことがあるよ」
僕がそう言うとヒカルは「見られてたか」と笑って、
「でも、なんか違うんだよなあ」と宙を見上げた。
そして、
「やっぱり、オレも沙希と同じで、あんたのことが・・」
ヒカルは、そう言いかけ、言葉の最後を切った。
そして、話を変えるように、
「あんた、最初に会った透明の時より、ずいぶんとしっかりしてきたじゃんか」と言った。
「そうかあ?」
そうは思わない。僕はいつまでも優柔不断な男だ。
けれど、ヒカルは「ああ、そうだよ」と言って笑った。
そして、
「オレはさ、時々、こうやって、沙希の代わりに出てきたりするけど・・」
「けど?」
「けれど、沙希のように恋をすることはできないんだよ。だから、鈴木や、沙希の気持ちもあんまりわからないんだ」
ヒカルは自分の気持ちを正直に語った。
それはそうだろうけど・・それも不憫な気がする。
静かな時間が流れた。二人の息遣いと校庭の運動部の声だけが聞こえた。
そして、その静寂を僕は破った。
「それは、ダメだ」僕はキッパリと言った。
「えっ、どうして?」
ヒカルの疑問に僕はこう答えた。
「まず第一に、小清水さんの気持ちも考えずに、そんなお願いを聞くわけにはいかない」
僕がそう言うと、ヒカルは「それは分かっているんだけどなあ・・沙希はあんたのことが好きみたいなんだけどなあ」とブツブツ言った。
「でも、それはヒカルの考えだ・・それに・・」
「それに、なんだよ」
ヒカルは問い詰めるように訊いた。
その質問に僕はこう答えた。
「僕には、好きな人がいる・・」
ヒカルは暫く沈思した後、
「そうなのかよ・・でも、ミズキの話じゃ、鈴木は誰が好きなのか、迷っているっていうことだったぜ」
ヒカルは悲しそうな顔をした。
だが、ヒカルが悲しんでいても、それだけは受け入れられない。
「確かに、あの時は、そうだった・・でも今は違うんだ」
「だったら、別にいいよ」ヒカルはそう言った。
納得してくれたのか?
と思っていると、ヒカルは顔を上げ、僕を真顔で見つめた。
そして、ぐいぐいと詰め寄ってきた。
「な、なんだよ?」僕が尋ねると、ヒカルは、
「だったら、オレとキスしてくれよ」と言った。
ヒカルとキス?
「同じじゃないか?」
小清水さんとキスするのとヒカルにキスするのは同じだ。同じ唇だ。
「オレとも、ダメなのか?」とヒカルは訊いた。
「ああ、ダメだ。同じだから」
僕には多重人格のことはわからない。だが、僕から見れば、小清水さんもヒカルも同じ人間だ。第一、もし二人の人格がまるっきし異なっていても、ヒカルとキスする理由が見当たらない。
「そっか・・」
ヒカルは「そっか」と言ったが、その表情を見るに、まだ諦め切っていない様子だ。
すると、ヒカルは、
「オレ、まだキスとかしたことないんだよ」と言った。
ヒカルの言っていることがよくわからない。小清水さんがまだなんだから、ヒカルもまだなんだろ。違うのか?
僕がそう言うと、
「オレ、時々、沙希の体を借りて、街をぶらついたりするんだけどさ」と話し始めた。
僕は出会っている。素行のよくない男子と街を闊歩しているヒカルと。
そんなヒカルとゲームセンターで会った和田くんは、彼女に恋をした。小清水さんではないヒカルに恋をした。
「ああ、一度、街を歩いているのを見たことがあるよ」
僕がそう言うとヒカルは「見られてたか」と笑って、
「でも、なんか違うんだよなあ」と宙を見上げた。
そして、
「やっぱり、オレも沙希と同じで、あんたのことが・・」
ヒカルは、そう言いかけ、言葉の最後を切った。
そして、話を変えるように、
「あんた、最初に会った透明の時より、ずいぶんとしっかりしてきたじゃんか」と言った。
「そうかあ?」
そうは思わない。僕はいつまでも優柔不断な男だ。
けれど、ヒカルは「ああ、そうだよ」と言って笑った。
そして、
「オレはさ、時々、こうやって、沙希の代わりに出てきたりするけど・・」
「けど?」
「けれど、沙希のように恋をすることはできないんだよ。だから、鈴木や、沙希の気持ちもあんまりわからないんだ」
ヒカルは自分の気持ちを正直に語った。
それはそうだろうけど・・それも不憫な気がする。
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