上 下
230 / 330

放課後の出来事①

しおりを挟む
◆放課後の出来事

 長く感じた夏休みが終わりを告げ、二学期が始まった。
 夢の世界から現実の空間に投げ出されたような感じだった。

 秋の席替えで、水沢さんは僕から見えない位置に変わった。
 窓際は窓際だが、後ろの方だ。前よりの僕の席からは見えない。速水さんが僕の真後ろから真ん前に変更になり、小清水さんは、一番前で先生から目立つ席になった。
 そして、加藤が元水沢さんの席になった。

 それが、僕の秋の始まりだ。
 僕は速水さんの後姿を見て、午後の陽が差す窓を背景に加藤ゆかりの姿を見ている。
 あれほど、二学期も水沢さんの姿が見える位置を願っていたのに、今では、水沢さんが見えないことに何かの救いを感じている。
 心とは、勝手なものだ。
 かといって、加藤の後姿に、かつての初恋の女の子、石山純子のイメージがかぶることはない。
 加藤と石山純子とは、あまりにもタイプが違い過ぎる。
 石山純子は掴みどころがない女の子だったが、加藤はすごく身近に感じる女の子だ。重なる部分が少しもない。

 速水さんと小清水さんとは、サークルが同じなので世間話はするけれど、誰も水沢さんのことには触れない。
 速水さんは小清水さんには言っていない。いや、言うはずがない。
「最近、肩が凝って仕方ないのよ」
 速水さんが首を回しながら言うと、小清水さんが、
「ええっ、速水部長。肩こりなんて、まだ早すぎますよおぉ」
「誰かさんのせいなのよ。背中に強い視線を感じるのよ」
「それ、僕のことだろ!」
 速水さんは僕の前の席なので、そのことを嫌味で言っている。
「鈴木くんは、影は薄いけれど、目の力は人並み以上のようね」

 すると、小清水さんが、
「ええっ・・でも、いいじゃないですか。鈴木くんの視線が背中に刺さるなんて」と羨ましそうに言った。
「あら、沙希さん。私が羨ましいのかしら?」
 小清水さんは「そ、そういう意味じゃないですよ」と慌てて言って、
「私なんて、一番前ですから、先生の視線が刺さるんですよ。それに比べたら、鈴木くんの視線なんて、遥かにマシじゃないですか」と弁解した。
 速水さんは眼鏡の位置を整えると、
「そうね、とくに美術の時間。あのイヤらしい早川講師の時は、沙希さんも大変ね」
「そうですよ。他の先生はそうも思わないんですけど、早川先生。ちょっと目がいやらしいですよ」
 そう、あの美術の講師の早川は、青山先輩の監視役を降ろされただけで、まだこの高校にしがみ付いている。 青山先輩の母親、青山麗華の力で、いずれ解雇にはなるだろうが、それまでは居座るつもりのようだ。

「沙希さんも気をつけた方がいいわよ。沙希さん、胸が大きいから、あの早川の視線が釘付けになっているわよ」
 速水さんの言葉に小清水さんは「ええっ」と驚きの表情を見せると、急に自分の胸を気にし出した。
 確かに言われてみれば、小清水さんの胸は大きく見える。少なくとも速水さんよりは。
「ほら、鈴木くんも、沙希さんの胸を見はじめたわよ」と言って「男なんて、みんな早川と同じね」と論じた。
 速水さんと僕は同じ理由で早川講師を嫌っている。
 僕は、偏見的な美術の点数をつける早川が嫌いだし、速水さんは性暴力をする男全般を憎んでいる。それは養父のキリヤマのせいだ。
「おいっ! 速水さん、さっきから言いたい放題だな」と僕は抗議の声を上げた。
 小清水さんは笑って「鈴木くんは、そんな人じゃありませんよ」と僕を擁護した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

俺のメインヒロインは妹であってはならない

増月ヒラナ
青春
 4月になって、やっと同じ高校に通えると大喜びの葵と樹。  周囲の幼馴染たちを巻き込んで、遊んだり遊んだり遊んだり勉強したりしなかったりの学園ラブコメ 小説家になろう https://ncode.syosetu.com/n4645ep/ カクヨム https://kakuyomu.jp/works/1177354054885272299/episodes/1177354054885296354

幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪
青春
「よわよわ」「泣いちゃう?」「情けない」「ざーこ」と幼馴染に言われ続けた尾崎太一は、いつか彼女を泣かすという一心で己を鍛えていた。しかし中学生になった日、可愛くなった彼女を見て気持ちが変化する。その後の彼は、自分を認めさせて告白するために勝負を続けるのだった。  一方、彼の幼馴染である穂村芽依は、三歳の時に交わした結婚の約束が生きていると思っていた。しかし友人から「尾崎くんに対して酷過ぎない?」と言われ太一に恨まれていると錯覚する。だが勝負に勝ち続ける限りは彼と一緒に遊べることに気が付いた。そして思った。いつか負けてしまう前に、彼をメロメロにして告らせれば良いのだ。  かくして、実は両想いだと気が付かない二人は、互いの魅力をわからせるための勝負を続けているのだった。  芽衣は少しだけ他人よりも性欲が強いせいで空回りをして、太一は「愛してるゲーム」「脱衣チェス」「乳首当てゲーム」などの意味不明な勝負に惨敗して自信を喪失してしまう。  乳首当てゲームの後、泣きながら廊下を歩いていた太一は、アニメが大好きな先輩、白柳楓と出会った。彼女は太一の話を聞いて「両想い」に気が付き、アドバイスをする。また二人は会話の波長が合うことから、気が付けば毎日会話するようになっていた。  その関係を芽依が知った時、幼馴染の関係が大きく変わり始めるのだった。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

処理中です...