221 / 330
驟雨①
しおりを挟む
◆驟雨
雨が強くなってきた。雨がぬかるんだ地面を撥ね、ズボンを汚していく。
人の姿はかなり減っていた。花火の終わりまで待てない人たちが帰路につき始めている。
けれど、中止にはなっていない。雷も鳴っていない。ただの通り雨だといいのだが。
林の向こうに水沢さんの横顔が見えた。
水沢さんは、近くの木陰で雨をしのぎながら待ってくれている。でも約束した加藤を連れ戻してきていない。
水沢さんに向かっていくと、見覚えのある声がした。声の方を見ると、
よく知っている人たちの姿があった。
それは文芸サークルの顧問の池永先生、それに、わが文芸サークルの速水部長だ。
池永先生は、お約束通りのショートパンツのムッチリした脚が剥き出しのセクシー姿。速水さんは白のTシャツにタイトジーンズ。
なぜか、小清水さんがいない。小清水さんがいないから、当然、和田くんもいない。
池永先生と速水沙織だけだ。
そんなグラマーな池永先生にまとわりついている男たちがいる。
「もうっ、いつも、どうしてこうなるのよっ」
先生は、そんな文句を言っているが、お目付け役のような速水さんがいなければ、男どもにほいほいとついていくのだろう。合宿の夜のように、男たちを追い払わなければならないのかもしれないが、今はかまってはいられない。
早歩きで、その場を抜けようとすると、
「あれえっ、鈴木くん?」
池永先生が声をかける。見つかってしまった。眼鏡の速水さんの鋭い視線も感じた。
僕は「ちょっと急いでいるから」と適当に流して、水沢さんの方に急いだ。
こんなチャンスはない。水沢さんに告白するチャンスだ。今、言えなくて一体いつ言えるというのだ。
僕は透明化して、水沢さんに想いを伝える。
そして、その場を去ればいい。
水沢さんの心に、僕の心が届けば、それでいい。
それが僕なりの告白なんだ。
彼女に面と向かって「好きだ」と言っても、水沢純子という女性には、決して届かない。
水沢さんは、僕の心を勘違いして読んでしまう。
以前もそうだった。図書館のラウンジでも、「鈴木くんだけが、私を好きじゃない」と言っていた。
その原因はわからない。だが、透明化している時だけ、なぜか僕の思いは届く。
水沢さんの言葉・・
「一度、本当に私を好き、っていう心が届いたことがあったの」
「その人・・姿が見えなかったの」
僕はそんな言葉を思い出していた。
同時に、水沢さんに出会った頃のことも思い起こした。
中学の初恋の女の子、石山純子に振られ、傷ついた心を癒すように、君と出会った。
教室の席、いつもの位置、その向こうに見える青空。僕はずっと君の横顔を見ていた。君だけを思っていた。
僕は自主透明化をするべく、近くの松の木の間に身を潜めた。
自主透明化・・これまで失敗したことはない。
「鈴木くん」
その時、僕の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。
速水沙織だった。10メートルほど先、人の往来の中を見え隠れしながら、速水さんは立っていた。僕が何かに焦っている様子を見て、変に思っているのだろうか?
僕に声をかけようとして、ためらっている風にも見えた。
かまうもんか。
僕が透明化しても、速水さんにはそのことがわからない。
速水さんは、僕の母と同じように、完全に僕の体が見える。妹や小清水さんには半透明にしか見えなくても、速水さんは見える。
なぜなら、速水さんは、僕のことを・・
えっ?
いつも距離が近すぎて、考えていなかった。
速水さんは、いつも僕の近くにいた。教室や部室でも、合宿の時も、温泉でも・・神社でも。
ずっと、君は僕の近くにいた。
雨が強くなってきた。雨がぬかるんだ地面を撥ね、ズボンを汚していく。
人の姿はかなり減っていた。花火の終わりまで待てない人たちが帰路につき始めている。
けれど、中止にはなっていない。雷も鳴っていない。ただの通り雨だといいのだが。
林の向こうに水沢さんの横顔が見えた。
水沢さんは、近くの木陰で雨をしのぎながら待ってくれている。でも約束した加藤を連れ戻してきていない。
水沢さんに向かっていくと、見覚えのある声がした。声の方を見ると、
よく知っている人たちの姿があった。
それは文芸サークルの顧問の池永先生、それに、わが文芸サークルの速水部長だ。
池永先生は、お約束通りのショートパンツのムッチリした脚が剥き出しのセクシー姿。速水さんは白のTシャツにタイトジーンズ。
なぜか、小清水さんがいない。小清水さんがいないから、当然、和田くんもいない。
池永先生と速水沙織だけだ。
そんなグラマーな池永先生にまとわりついている男たちがいる。
「もうっ、いつも、どうしてこうなるのよっ」
先生は、そんな文句を言っているが、お目付け役のような速水さんがいなければ、男どもにほいほいとついていくのだろう。合宿の夜のように、男たちを追い払わなければならないのかもしれないが、今はかまってはいられない。
早歩きで、その場を抜けようとすると、
「あれえっ、鈴木くん?」
池永先生が声をかける。見つかってしまった。眼鏡の速水さんの鋭い視線も感じた。
僕は「ちょっと急いでいるから」と適当に流して、水沢さんの方に急いだ。
こんなチャンスはない。水沢さんに告白するチャンスだ。今、言えなくて一体いつ言えるというのだ。
僕は透明化して、水沢さんに想いを伝える。
そして、その場を去ればいい。
水沢さんの心に、僕の心が届けば、それでいい。
それが僕なりの告白なんだ。
彼女に面と向かって「好きだ」と言っても、水沢純子という女性には、決して届かない。
水沢さんは、僕の心を勘違いして読んでしまう。
以前もそうだった。図書館のラウンジでも、「鈴木くんだけが、私を好きじゃない」と言っていた。
その原因はわからない。だが、透明化している時だけ、なぜか僕の思いは届く。
水沢さんの言葉・・
「一度、本当に私を好き、っていう心が届いたことがあったの」
「その人・・姿が見えなかったの」
僕はそんな言葉を思い出していた。
同時に、水沢さんに出会った頃のことも思い起こした。
中学の初恋の女の子、石山純子に振られ、傷ついた心を癒すように、君と出会った。
教室の席、いつもの位置、その向こうに見える青空。僕はずっと君の横顔を見ていた。君だけを思っていた。
僕は自主透明化をするべく、近くの松の木の間に身を潜めた。
自主透明化・・これまで失敗したことはない。
「鈴木くん」
その時、僕の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。
速水沙織だった。10メートルほど先、人の往来の中を見え隠れしながら、速水さんは立っていた。僕が何かに焦っている様子を見て、変に思っているのだろうか?
僕に声をかけようとして、ためらっている風にも見えた。
かまうもんか。
僕が透明化しても、速水さんにはそのことがわからない。
速水さんは、僕の母と同じように、完全に僕の体が見える。妹や小清水さんには半透明にしか見えなくても、速水さんは見える。
なぜなら、速水さんは、僕のことを・・
えっ?
いつも距離が近すぎて、考えていなかった。
速水さんは、いつも僕の近くにいた。教室や部室でも、合宿の時も、温泉でも・・神社でも。
ずっと、君は僕の近くにいた。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
微炭酸ロケット
Ahn!Newゐ娘
青春
ある日私達一家を裏切って消えた幼馴染み。
その日から私はアイツをずっと忘れる事なく恨み続けていたのだ。
「私達を裏切った」「すべて嘘だったんだ」「なにもかもあの家族に」「湊君も貴方を“裏切ったの”」
運命は時に残酷 そんな事知ってたつもりだった
だけど
私と湊は また再開する事になる
天文部唯一の部員・湊
月の裏側を見たい・萃
2人はまた出会い幼い時の約束だけを繋がりに また手を取り合い進んでいく
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
NTRするなら、お姉ちゃんより私の方がいいですよ、先輩?
和泉鷹央
青春
授業のサボリ癖がついてしまった風見抱介は高校二年生。
新学期早々、一年から通っている図書室でさぼっていたら可愛い一年生が話しかけてきた。
「NTRゲームしません?」
「はあ?」
「うち、知ってるんですよ。先輩がお姉ちゃんをNTRされ……」
「わわわわっーお前、何言ってんだよ!」
言い出した相手は、槍塚牧那。
抱介の元カノ、槍塚季美の妹だった。
「お姉ちゃんをNTRし返しませんか?」
などと、牧那はとんでもないことを言い出し抱介を脅しにかかる。
「やらなきゃ、過去をバラすってことですか? なんて奴だよ……!」
「大丈夫です、私が姉ちゃんの彼氏を誘惑するので」
「え? 意味わかんねー」
「そのうち分かりますよ。じゃあ、参加決定で!」
脅されて引き受けたら、それはNTRをどちらかが先にやり遂げるか、ということで。
季美を今の彼氏から抱介がNTRし返す。
季美の今の彼氏を……妹がNTRする。
そんな提案だった。
てっきり姉の彼氏が好きなのかと思ったら、そうじゃなかった。
牧那は重度のシスコンで、さらに中古品が大好きな少女だったのだ。
牧那の姉、槍塚季美は昨年の夏に中古品へとなってしまっていた。
「好きなんですよ、中古。誰かのお古を奪うの。でもうちは新品ですけどね?」
姉を中古品と言いながら自分のモノにしたいと願う牧那は、まだ季美のことを忘れられない抱介を背徳の淵へと引きずり込んでいく。
「新品の妹も、欲しくないですか、セ・ン・パ・イ?」
勝利者には妹の愛も付いてくるよ、と牧那はそっとささやいた。
他の投稿サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる