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それは僕なんだ②
しおりを挟むすると、水沢さんは遠くを見るような目で、「でもね・・」と言った。
「一度、本当に私を好き・・っていう心が届いたことがあったの」
「え?」
それは、いつ? そして、誰なんだ。どんな奴だよ!
激しい嫉妬や、好奇心で心が騒ぐ。けれど、そんな心も水沢さんには見えていないようだ。
「そ、それは、誰だったの?」と、僕は尋ねた。
怖い。どんな返事が返ってくるのか。
そもそも、そんな質問をしていいのかどうかも分からない。でも、知りたい。イヤな奴の名前が出ないことを祈る。
知りたい心が全面に押し出されたような僕に、
「その人・・姿が見えなかったの」
水沢さんは、静かにそう言った。その目は何かを思うような目だった。
「えっ・・」
僕は言葉を失った。
それは・・加藤が言っていた話、そのままじゃないか。
加藤は、「純子の目、あれは恋をしている目だよ」と言った。「純子は、透明人間に恋をしているんだよ」確かに加藤はそう言っていた。
水沢さんが言っているのは、あの雨の日の運動場、僕が体を透明化して水沢さんを追いかけた時のことだ。
あの時、水沢さんは見えないはずの僕に傘を差し出した。そして、その時、
なぜか水沢さんに「鈴木くん?」と声をかけられた。
そうなんだよ。
「それは、僕なんだ」そう言いたいのをぐっと堪える。
同時に花火会場の海岸にアナウンスが流れた。あと10分で始まるらしい。
だが僕はそうとは言わずに、
「姿が見えなかった、って。どういうこと?」と尋ねた。
「雨のせいかもしれないけれど、その人の心・・体が、水の形になって見えたの」
水の形・・それは、降りしきる雨が透明の僕の体に撥ね、人型を作っていたからだ。
やはり、透明化していた時、僕の片恋の気持ちは伝わっていたんだ。
水沢さんの特殊な能力、
そして、僕の透明化能力の不思議な交錯で、想いは届いていた。
更に水沢純子は、こう言った。
「私、あんなに、思われたの初めてだったから、ちょっと驚いちゃった」
「み、見えなかったんだよね?」
知らない振りをして僕は訊いた。
「うん」と水沢さんは返事をして。
「だから、あれは私の不思議な体験、ゆかりにも話したけど、あまり信じていなかったみたい」と言った。
そう言った水沢さんに僕は「幽霊体験みたいなもの?」と言った。
「そんなんじゃないわ。幽霊なんかじゃない。あの人は、確かに、そこにいたのよ」
水沢さんの口調が激しくなった。それは何の感情なのだろう?
その疑問に答えるように水沢純子は言った。
「あの人は、私のことを純粋に好き・・そう思ったの。他の男の子とは違うって」
「お、男の子って、どうして同い年くらいって分かったの?」
「分かるのよ」
そう強く水沢純子は言った。「私は、人の心がわかる」そして、同じ高校生だってこともわかる。そう言いたげだった。
だったら、どうして、それが僕だと・・
いや、待て。
あの時、水沢さんは、透明化した僕を「鈴木くん?」と呼んでいたではないか?
ひょっとすると、半分は僕だと気づいていたのではないだろうか?
「私は、それが誰だったのか、知りたいの」
その言葉は水沢さんの叫びのように聞こえた。
その時、僕は、思った。
ちゃんと水沢純子に、僕の思いを伝えなければならない、と。
その結果、振られてもいい。いや、たぶん振られることになるだろう。
その後、僕に訪れる気持ちよりも、水沢さんの気持ちを大事にしてあげなければならない。そう思った。
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