上 下
215 / 330

それは僕なんだ①

しおりを挟む
◆それは僕なんだ

 この場の沈黙を破るように、水沢さんは話を切り出した。
「鈴木くん、さっきの話の続きだけど」
「さっきの話?」
「うん、私のおかしな能力の話」
 人の心が頭に入ってくる話のことだ。
「変じゃないよ」と僕は言って「確かに、人とは違うと思うけど」と続けた。
 どう説明していいのか分からない。
 僕は水沢さんを傷つけたくない、ただそれだけだ。
 そう言った僕を見て水沢さんは少し笑い「やっぱり、変だって思ってるのね」と続けた。
「えっ、僕がそう考えていると思ったの?」
 心が読まれた? でも僕はそんなことは考えていない。
 なぜなら、体が透明化できる僕の方がよっぽど変だからだ。
 けれど、水沢さんは「ううん」と首を振り、「そうじゃないわ。今のは、当てずっぽう」と笑った。そう言った水沢さんの微笑みが可愛い。
 よかった・・やはり僕は水沢さんの理解者でありたい。そう思っている。

「でも、やっぱりイヤでしょ。こんな私・・」
「イヤじゃないよ」懸命に僕は否定する。そんなわけがない。
 僕は「それで、その話の続き、って何?」と促した。
 水沢さんは「うん」と頷き、
「私の頭に入ってくる人の心の話・・」と言って少し言い澱んだ。
「人の心が、どうしたの?」
 僕はその先の言葉が知りたい。水沢純子のことなら何でも知りたい。それが僕にとって不都合なことでも、知る必要がある。
 僕は水沢さんの目を見て、聞く姿勢を見せる。
 同時に周囲が少しざわつき始めた。もうすぐ一発目の花火が打ち上がるようだ。
 そんな喧噪に水沢さんは少し声を上げた。
「私、ずっと考えていたの」
「ずっと・・」
「ええ、今までに私の中に入ってきた人の心を振り返っていたの」
「昔から?」
「うん。するとね、少しわかったことがあるの」
 水沢純子は、心を読み取ってしまう自分の不思議な力で分かったことを言った。
 それは、
「頭に入ってくる心は、イヤなことばっかり・・自分にとって聞きたくないことばかりなの」
 聞きたくない、知りたくない心。聞く度に辛くなる。

 そう言えば、初めてこの話を聞いた時もそうだった。
 近所の男の子の「水沢さんを好きだ」という心が飛び込んできたこと以外は、イヤな心ばかりだった。両親の心、クラスメイトの嫉妬。そして、
 水沢純子という魅力的な女性を見る男の下心。
 それは、どれもイヤらしい心だった。水沢さんによると、打算的だったり、体を見ていたりだった。加えて驚いたことにクラスの男子のほとんどが水沢さんをそんな目で見ていたということだ。

 だが、肝心の僕の恋心。
 それは・・間違って届けられていた。
「水沢さんは前に言っていたよね・・『鈴木くんだけが、私を好きじゃない』って」
 そして、水沢さんは、「鈴木くんは、私以外の人を見ている。ずっと遠いところを見ている」と言っていた。
「うん、そうよ。鈴木くんだけが、ただのお友達として、私を純粋に見てくれていることがわかったの」
 水沢さんはそう言った。だが・・
「水沢さんは・・本当に僕の心が見えたの?」
 僕はそう訊いた。確かに水沢さんは僕の心を読んだのだろうか? ずっと疑問だった。やっぱりおかしい。
「うん・・」水沢純子は曖昧な返事をして、
「純粋に私を見ている・・というよりも、私のことを何とも思っていない。そんな感じだったかな? でもそれはいい意味で言っているのよ。変なことを考えている男子より、よっぽどいいわ」と言った。
 ええっ! それじゃ、まるでダメだよ。
 僕は、高校二年になった時から、ずっと君を、教室の窓際の水沢純子を見てきたんだ。
 何とも思っていないことなんて決してない。
  
 こんなに溢れ出るような僕の感情を前にしても、水沢さんは僕の心を読んでくれないのか。
 ダメだ。このままだと、僕は水沢さんにとって、ただのいい人になってしまう。
 いい人・・それもいい気がするが、
 ああっ、やっぱり、それじゃダメなんだよ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

微炭酸ロケット

Ahn!Newゐ娘
青春
ある日私達一家を裏切って消えた幼馴染み。 その日から私はアイツをずっと忘れる事なく恨み続けていたのだ。 「私達を裏切った」「すべて嘘だったんだ」「なにもかもあの家族に」「湊君も貴方を“裏切ったの”」 運命は時に残酷 そんな事知ってたつもりだった だけど 私と湊は また再開する事になる 天文部唯一の部員・湊 月の裏側を見たい・萃 2人はまた出会い幼い時の約束だけを繋がりに また手を取り合い進んでいく

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

バスケ部員のラブストーリー

小説好きカズナリ
青春
主人公高田まさるは高校2年のバスケ部員。 同じく、女子バスケ部の街道みなみも高校2年のバスケ部員。 実は2人は小学からの幼なじみだった。 2人の関係は進展するのか? ※はじめは短編でスタートします。文字が増えたら、長編に変えます。

幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪
青春
「よわよわ」「泣いちゃう?」「情けない」「ざーこ」と幼馴染に言われ続けた尾崎太一は、いつか彼女を泣かすという一心で己を鍛えていた。しかし中学生になった日、可愛くなった彼女を見て気持ちが変化する。その後の彼は、自分を認めさせて告白するために勝負を続けるのだった。  一方、彼の幼馴染である穂村芽依は、三歳の時に交わした結婚の約束が生きていると思っていた。しかし友人から「尾崎くんに対して酷過ぎない?」と言われ太一に恨まれていると錯覚する。だが勝負に勝ち続ける限りは彼と一緒に遊べることに気が付いた。そして思った。いつか負けてしまう前に、彼をメロメロにして告らせれば良いのだ。  かくして、実は両想いだと気が付かない二人は、互いの魅力をわからせるための勝負を続けているのだった。  芽衣は少しだけ他人よりも性欲が強いせいで空回りをして、太一は「愛してるゲーム」「脱衣チェス」「乳首当てゲーム」などの意味不明な勝負に惨敗して自信を喪失してしまう。  乳首当てゲームの後、泣きながら廊下を歩いていた太一は、アニメが大好きな先輩、白柳楓と出会った。彼女は太一の話を聞いて「両想い」に気が付き、アドバイスをする。また二人は会話の波長が合うことから、気が付けば毎日会話するようになっていた。  その関係を芽依が知った時、幼馴染の関係が大きく変わり始めるのだった。

庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話

フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談! 隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。 30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。 そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。 刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!? 子供ならば許してくれるとでも思ったのか。 「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」 大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。 余りに情けない親子の末路を描く実話。 ※一部、演出を含んでいます。

処理中です...