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クラシック喫茶②

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 店内に流れるクラシック音楽が変わった。
 その時、僕は考えていた。
 それは加藤との会話についてだった。
 加藤との会話が優しい。だから、疲れない。
 加藤となら、ずっと話ができる。
 もちろん、速水部長の毒舌を聞きながら、やり取りすることも楽しいし、小清水さんと本の話をするのも素敵な時間だ。青山先輩も以前より話ができるようになった。
 だが、加藤は、それ以前から話が出来る存在のような気がする。
 いつからなのだろう? 加藤となんの抵抗もなく話ができるようになったのは。
 そんなことを考えていても、加藤の丸顔が目の前にある。
 加藤は何も言わない。けれど、沈黙の時間があっても、互いにそう気にならない。
 だが、これが、デートなのか? 疲れない相手といることが素敵な時間なのか?
 そして、僕は加藤を好きなのか?
 いや、待て、違う。
 今、目の前にいるのが水沢さんだったら、どうなんだ?
 まず、すごく緊張するし、話題や言葉も選んでしまう。途絶えることなく会話を続けないといけない。様々なことを考えてしまう。
 それは、何故か?
 僕が水沢純子に恋をしているからだ。

 例えば、今日のデート。こんなデートを水沢さんとだったら、どうなっていたのだろうか。
 まず、ホラー映画には行かなかっただろう。そもそも映画に行かないのではないか。いくら、妹のナミが、誤魔化しがきくと進めても、もっと他の場所を選んでいたはずだ。
 本屋にも行かなかっただろうし、小清水さんには悪いが、見かけても、かまったりしなかったのではないだろうか? こんなことを考えるのは、加藤にも小清水さんにも悪い。けれど、考えてしまう。

 では、水沢さんとなら、僕はどこでデートするのか? 
 どこに行くとか、ではなく・・ただ、傍に、彼女の傍にいるだけでいい、そう思ったのではないだろうか。
 それほど、僕は水沢純子のことが好きなのか。
 では、加藤の存在は一体なんだ? ただのデートの予行演習の相手にすぎないのか。

 そんな風にずっと考えていると、
「やっぱり、純子なんだね」
 加藤の声に現実に呼び戻された。
 僕の前に真顔の加藤の顔がある。その大きな瞳が動かない。加藤のアイスコーヒーの氷は全て溶けている。
「鈴木が好きなのは、純子なんだ」加藤は繰り返しそう言った。
 純子。それは水沢さんのことだ。
 加藤は暫く僕の目を見続けた後、少し微笑みを浮かべた。

 加藤に返事をしないでいると、
「さっきは、手をつないだりして、ゴメンね」
「そ、それって、謝ることなのか? デートなら普通じゃないのか?」
 どうして、加藤はそんなことを謝るんだ。僕は慌てて返したけれど、これは、本当にデートなのか。僕自身がそう思っているのか?
 
「私、男の子と手を繋ぐなんて、久しぶりだったから・・そうしたかったの」
「久しぶり?」
 そうか、加藤みたいに活発な女の子だったら、今までに色々とあるだろうな。何も僕が初めてなんてことあるはずがない。
「うん、私が小っちゃかった時以来かな?」
「それ、幼馴染じゃないのか?」と僕が指摘すると、
「そう、小学校の時」そう言って加藤は笑った。
 じゃ、加藤が高校生になってからは、僕が初めてなのか・・信じられない。
「でも、今日はデートだし」
 そう僕が言うと、加藤は、また真顔に戻り、
「鈴木は、デート、デートって、その言葉にこだわるね」と言った。
「だって、それは・・」
 それは、加藤が、「一回だけ、デートしてよ」と言ったから。そして、僕も「デートしよう」と言ったから。
「ねえ、鈴木。無理してない?」
「無理?」
 加藤は一呼吸置いて、こう言った。
「私のこと、別に好きでも何でもないのに、デートしたりしたら、疲れるでしょ」
 返事ができない。
 加藤が好きとか、そうでないとかじゃないんだ。うまく説明できない。
「加藤、たぶん、僕は女の子とつき合うとか、そんなことに向いてないんだと思う」
 僕が力無くそう言うと、
 加藤は、「何、それっ」と言って笑った。
「鈴木を見てたら、そうなんだろうなぁって、何となくわかるけど、それじゃ、いつまでたっても誰ともつき合うことなんてできないじゃん」
 まるでお叱りを受けているようだ。妹のナミに言われているような感覚だ。
「そ、そうだな。そうかもしれない」
 僕が弱い返事をすると、加藤は、
「鈴木は、もっと自信を持ったらいいと思うよ」と言った。そして加藤は自分にも言うように「うん、そう思う」と言った。

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