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それは何の感情なのか?①
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◆それは何の感情なのか?
他愛もない話の中、気になる話題があった。
それは美術講師、早川のことだ。早川は、美術の点をひいきして付ける気に入らない講師だ。加えて、青山先輩の監視役もしていた。既に首になっているかもしれないが、要注意人物だ。
青山先輩は早川のことを「私に言い寄ってくるのが、たまらなく、鬱陶しい」と言っていた。
佐藤の話に依ると、早川は、ある女子生徒に性的な悪戯のようなことをしたらしい。夏休みが明け、早川がまだ学校に来るとしたらその件は学校側がうやむやにしているか、女子生徒が泣き寝入りをしているか、なのだろう。
いずれにしろ、イヤな話だ。青山先輩に報告しなくちゃな・・と思った。
佐藤とは、その他にも大学進学の話や学校のくだらない話を一通り終えると、話はまた女の子のタイプの話に戻ってきた。佐藤はよほどそんな話が好きのようだ。
「速水さんって、彼氏はいないのか?」と訊かれたが、僕は、「知らない」とあっさり返した。
「気になるのだったら、訊いてみりゃいいじゃないか」
僕がそう言うと、佐藤は「そこまでの興味はない」と返した。
「鈴木は水沢さんが好みだったんだよな」と佐藤は水沢さんの話に振った。
僕が答えないでいると、
「あいつには平手打ちを食らったからな」と頬を押さえて、思い出すように言った。
佐藤は、水沢さんの前で加藤の悪口を言いまくっていた。僕が怒ろうとすると、先に水沢さんの平手が飛んだ。
「気は強いが、あいつは男子に人気があるぞ。上級生にもよく噂されているらしいぜ」
上級生に人気・・それもイヤなエピソードがある。水沢さんは加藤と待ち合わせをしている時、上級生に無理矢理に誘われていた。あの時、僕は助けに入ったが、僕は役に立たず、実際には速水さんが透明化して助けてくれた。
水沢さんは人気がある。
それは、当然なのかもしれない。僕のような何の取り柄もない人間がつき合えるような女性ではない。
彼女は完璧なのだ。容姿端麗、勉強は一番。スポーツもできるし、言葉づかいもきれいだし、上品だ。
彼女には僕のような男ではなく、勉学スポーツ共にでき、いわゆる格好いい男が相応しい。釣り合いもとれる。
あの石山純子もそうだった。
ラブレターめいた手紙を渡した後、それが公表され、
誰かの「身分をわきまえろ」とか、「身の程知らず」という陰口を聞いた。
その通りだ。
最初からそうだと分かっていれば、僕はラブレターを書いたりはしなかった。中学三年生のクラス替えで廊下で待っていた時、彼女の泣いている姿が忘れられなかったのだ。
僕は思いを告げたかった。
・・それは、幻のようなものだったのかもしれない。
だが、そんな僕の妄想を吹き飛ばすように佐藤の言葉は続いた。
「そんな水沢さんが、どうして、あんな加藤ゆかりのような女と友達なんだろうな」
・・あんな加藤ゆかりのような女。
佐藤は加藤のことをそう表現した。以前、水族館で泣かしたことのある女の子なのに・・佐藤はそんなことは忘れている。つまりはそういう男だ。
僕が、
「加藤ゆかりのような女?」と小さく言うと、
「だって、加藤って、ガサツじゃんか」と佐藤は表現した。
無神経・・そんな言葉がぴたりと当てはまる男だ。しかし、モテる。世の中は矛盾だらけだ。
更に佐藤は言葉を続けた。
「加藤と言えば、あいつ・・体の調子が悪いらしいぜ」
たぶん足の怪我のことだ。
知っているが、僕は佐藤の話を黙って聞いていた。
「それでもって、加藤は陸上を退部したんだとよ」
正式に辞めたのか・・他に方法はなかったのか。
それでも、僕は黙って聞いていた。改めて佐藤の酷い性格を認識するように。
「それで加藤のやつ、部活をやめて、茶道一本だとよ。笑えないか?」
佐藤は僕に同意を求めるように言った。
「佐藤・・その話は誰かから聞いたのか?」
「ああ・・俺は顔が広いからな、いろんな話が耳に入ってくる」
たぶん、佐藤にとって面白い話だけを選別しているのだろう。
「茶道一本が・・そんなにおかしいか?」
僕は声を落として言った。
佐藤は僕の顔色を伺うように、それでも、
「そりゃ、おかしいだろ」と言った。頭の中を佐藤の声だけが響く。他の音は耳に入らなかった。
「どうして、おかしい?」
僕が訊ねると、
「あんな頭ん中に汗しかないような女が、茶道って・・」
そう言いかけた佐藤は僕の顏を見て、話を切った。
僕は佐藤のように高位の人間ではない。
いつだったか・・通学時、佐藤の前で透明になった際に、
佐藤は友人に「よく鈴木なんかと一緒にいることができるよな」と言われ、
「ああいう奴、意外と便利なんだぞ。女友達でいう引き立て役っていうやつだな」と言っていた。
つまり、僕という存在は、影が薄いばかりか、そんな風に便利な人間としても扱われる。
佐藤のようなクラスの人気者から見れば、僕は底辺に属する人間だ。
だがな、佐藤・・僕が底辺の人間でも、
加藤ゆかりはそうじゃない。
お前なんかに悪口を言われる女の子じゃない。彼女は一生懸命なんだ。
他愛もない話の中、気になる話題があった。
それは美術講師、早川のことだ。早川は、美術の点をひいきして付ける気に入らない講師だ。加えて、青山先輩の監視役もしていた。既に首になっているかもしれないが、要注意人物だ。
青山先輩は早川のことを「私に言い寄ってくるのが、たまらなく、鬱陶しい」と言っていた。
佐藤の話に依ると、早川は、ある女子生徒に性的な悪戯のようなことをしたらしい。夏休みが明け、早川がまだ学校に来るとしたらその件は学校側がうやむやにしているか、女子生徒が泣き寝入りをしているか、なのだろう。
いずれにしろ、イヤな話だ。青山先輩に報告しなくちゃな・・と思った。
佐藤とは、その他にも大学進学の話や学校のくだらない話を一通り終えると、話はまた女の子のタイプの話に戻ってきた。佐藤はよほどそんな話が好きのようだ。
「速水さんって、彼氏はいないのか?」と訊かれたが、僕は、「知らない」とあっさり返した。
「気になるのだったら、訊いてみりゃいいじゃないか」
僕がそう言うと、佐藤は「そこまでの興味はない」と返した。
「鈴木は水沢さんが好みだったんだよな」と佐藤は水沢さんの話に振った。
僕が答えないでいると、
「あいつには平手打ちを食らったからな」と頬を押さえて、思い出すように言った。
佐藤は、水沢さんの前で加藤の悪口を言いまくっていた。僕が怒ろうとすると、先に水沢さんの平手が飛んだ。
「気は強いが、あいつは男子に人気があるぞ。上級生にもよく噂されているらしいぜ」
上級生に人気・・それもイヤなエピソードがある。水沢さんは加藤と待ち合わせをしている時、上級生に無理矢理に誘われていた。あの時、僕は助けに入ったが、僕は役に立たず、実際には速水さんが透明化して助けてくれた。
水沢さんは人気がある。
それは、当然なのかもしれない。僕のような何の取り柄もない人間がつき合えるような女性ではない。
彼女は完璧なのだ。容姿端麗、勉強は一番。スポーツもできるし、言葉づかいもきれいだし、上品だ。
彼女には僕のような男ではなく、勉学スポーツ共にでき、いわゆる格好いい男が相応しい。釣り合いもとれる。
あの石山純子もそうだった。
ラブレターめいた手紙を渡した後、それが公表され、
誰かの「身分をわきまえろ」とか、「身の程知らず」という陰口を聞いた。
その通りだ。
最初からそうだと分かっていれば、僕はラブレターを書いたりはしなかった。中学三年生のクラス替えで廊下で待っていた時、彼女の泣いている姿が忘れられなかったのだ。
僕は思いを告げたかった。
・・それは、幻のようなものだったのかもしれない。
だが、そんな僕の妄想を吹き飛ばすように佐藤の言葉は続いた。
「そんな水沢さんが、どうして、あんな加藤ゆかりのような女と友達なんだろうな」
・・あんな加藤ゆかりのような女。
佐藤は加藤のことをそう表現した。以前、水族館で泣かしたことのある女の子なのに・・佐藤はそんなことは忘れている。つまりはそういう男だ。
僕が、
「加藤ゆかりのような女?」と小さく言うと、
「だって、加藤って、ガサツじゃんか」と佐藤は表現した。
無神経・・そんな言葉がぴたりと当てはまる男だ。しかし、モテる。世の中は矛盾だらけだ。
更に佐藤は言葉を続けた。
「加藤と言えば、あいつ・・体の調子が悪いらしいぜ」
たぶん足の怪我のことだ。
知っているが、僕は佐藤の話を黙って聞いていた。
「それでもって、加藤は陸上を退部したんだとよ」
正式に辞めたのか・・他に方法はなかったのか。
それでも、僕は黙って聞いていた。改めて佐藤の酷い性格を認識するように。
「それで加藤のやつ、部活をやめて、茶道一本だとよ。笑えないか?」
佐藤は僕に同意を求めるように言った。
「佐藤・・その話は誰かから聞いたのか?」
「ああ・・俺は顔が広いからな、いろんな話が耳に入ってくる」
たぶん、佐藤にとって面白い話だけを選別しているのだろう。
「茶道一本が・・そんなにおかしいか?」
僕は声を落として言った。
佐藤は僕の顔色を伺うように、それでも、
「そりゃ、おかしいだろ」と言った。頭の中を佐藤の声だけが響く。他の音は耳に入らなかった。
「どうして、おかしい?」
僕が訊ねると、
「あんな頭ん中に汗しかないような女が、茶道って・・」
そう言いかけた佐藤は僕の顏を見て、話を切った。
僕は佐藤のように高位の人間ではない。
いつだったか・・通学時、佐藤の前で透明になった際に、
佐藤は友人に「よく鈴木なんかと一緒にいることができるよな」と言われ、
「ああいう奴、意外と便利なんだぞ。女友達でいう引き立て役っていうやつだな」と言っていた。
つまり、僕という存在は、影が薄いばかりか、そんな風に便利な人間としても扱われる。
佐藤のようなクラスの人気者から見れば、僕は底辺に属する人間だ。
だがな、佐藤・・僕が底辺の人間でも、
加藤ゆかりはそうじゃない。
お前なんかに悪口を言われる女の子じゃない。彼女は一生懸命なんだ。
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