上 下
190 / 330

その時、その二人は・・①

しおりを挟む
◆その時、その二人は・・

 オープンテラスの白いパラソルの中に僕と加藤は取り残された。
「あははっ、鈴木、ゴメンねっ」加藤は頭を掻きながら言った。
「どういうことだよ。いきなりあんなことを」
 一応、怒ったように言った。
 加藤は更に「ごめん、ごめん」と言って、
「ちょっと、ストレスが溜まってたから、変なことばかり言っちゃったよ」と笑った。
「ストレス?」
「そうそう。足が悪くて、陸上の展望もなくなっちゃったしさ」
 加藤はそう言って、「さっき、言ったこと、全部冗談だから、気にしなくていいよ。純子にもあとで謝っておくからさ」
「水沢さん、怒ってるよ。たぶん」
「そうだよね。誰だって怒るよね。私、節操がないもんね」
 僕は「うん」と頷き、きっちり肯定した。
 加藤は「あっ、鈴木、今、頷いたじゃん。ひどい!」と言った。
「加藤は、自分で言っただろ。『節操がない』って」
 そう僕が言うと、加藤は真顔になり、
「私は、嫌われ役でいいんだよ」と小さく言った。
 そして、「さっき言ったデートとか、只の冗談だから、気にしないで」と続けた。
 僕はそんな加藤に「わかった」と答えた。
 すると、加藤は、
「純子はね、誰も好きになれないんだよ」と言った。
 僕は応えない・・
「純子は、怖いんだよ。誰かを好きになるのが」
 僕は応えない・・どう言っていいのか、わからなかった。
 加藤は水沢純子のことをよく知っているかもしれないが、僕は水沢さんは「心を読む」ということ・・それだけしか知らない。水沢さんが本当は何を考えているのかわからない。

 ・・その時だった。
 オープンテラスのテーブルの間をすり抜けるようにして、アイスコーヒーを手に席を探すカップルを認めた。
 談笑しながら歩く高校生の男女。健康的で眩しく映る二人。
 しかも、高校の帰りなのか、二人とも制服。県立神戸高校のものだ。僕らの高校よりワンランク上の高校。
 そして、その女の子の方は、あの石山純子だった。男の方は、石山純子の家の近くで見た男とは違った。別の男子高生だ。
 神戸高校からこの図書館は近い。自習室で勉強する神戸高校の生徒も多い。偶然でも何でもない。むしろその可能性に気づかなかった僕の方がバカだ。

 石山純子の真っ直ぐな髪は、中学時代と比べて遥かに長くなっているし、背も少し高くなっているようだ。おまけにある種の気品も備わっている。
 僕は中学時代、石山純子に見事に振られ、高校一年の時、彼女の家を見に行った帰りに石山純子と連れ添いの男に出会ってしまった。その時の男が彼女のボーイフレンドなのか、恋人なのかは知らない、今の男がそうなのかもしれないが、
 いずれにせよ、僕は石山純子にこう言われた。
「ここに何しに来たのかしら? 気持ち悪いわ」と連れ添いの男子に言った。
 そう言った石山純子がこの席の脇を静かに通り過ぎていく。
 心臓が止まりそうだった。両膝がガクガクと震える。当然、声も出ないし、加藤の話も聞こえなくなった。
 石山純子は僕の存在に気づくだろうか。
 僕は俯き加減になり、祈った。
 どうか、僕たちと離れた席に座ってくれ! できれば、この位置から二人が見えない方がいい。そして、僕は静かにここを出る。
 今日、水沢さんと出会えたこと、話したこと・・それらを胸に仕舞い込んで家に帰る。

 しかし、現実はどうもそんなには甘くないらしい。
 加藤の向こう・・男が背を向け、石山純子は僕と向き合うような位置に座った。
 嘘だろ・・あんな位置に座られたら、声を出せない。加藤と話ができないじゃないか。

 そう思っている矢先にも石山純子の声が聞こえた。
「ここって、風が通るから、少し涼しいのよ」
 歌うような綺麗な声だった。
 元々、石山純子は、おしゃべりな方ではない。その声は授業中の朗読や、英語で聞くくらいだった。女友達同士で語らう声は印象にない。
 その他の声は、公衆電話で僕が告白をした時に冷たく返された声。彼女の家の近くで「気持ち悪いわ」と言われた時。
 それくらいしか記憶に残っていない。
 それなのに、なぜ、好きだったのか? と訊かれれば、答えに窮する。
 幻想的な雰囲気が好きだった・・それくらいだ。
 そして、そんな幻想的なはずの石山純子が現実の体を伴って、すぐ目の前にいる。
 教室でもない。公衆電話でもなく、彼女の家の近くのすれ違いざまでもない。
 そんな近くにいても、石山純子の目は僕まで届かず、すぐ近くの男子高生に向けられている。
 当たり前だ。
 石山純子にとって、僕はただの喫茶店内にいる客に過ぎない。
 だったら、お願いだ。僕に気づかないでくれ!

 そう思いながら、僕は自分の心が分からくなってきた。
 石山純子なんてどうでもいいはずじゃないか。振られた相手だし、今は、水沢さんのことが好きなんだ。
 でも・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バスケ部員のラブストーリー

小説好きカズナリ
青春
主人公高田まさるは高校2年のバスケ部員。 同じく、女子バスケ部の街道みなみも高校2年のバスケ部員。 実は2人は小学からの幼なじみだった。 2人の関係は進展するのか? ※はじめは短編でスタートします。文字が増えたら、長編に変えます。

微炭酸ロケット

Ahn!Newゐ娘
青春
ある日私達一家を裏切って消えた幼馴染み。 その日から私はアイツをずっと忘れる事なく恨み続けていたのだ。 「私達を裏切った」「すべて嘘だったんだ」「なにもかもあの家族に」「湊君も貴方を“裏切ったの”」 運命は時に残酷 そんな事知ってたつもりだった だけど 私と湊は また再開する事になる 天文部唯一の部員・湊 月の裏側を見たい・萃 2人はまた出会い幼い時の約束だけを繋がりに また手を取り合い進んでいく

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話

フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談! 隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。 30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。 そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。 刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!? 子供ならば許してくれるとでも思ったのか。 「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」 大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。 余りに情けない親子の末路を描く実話。 ※一部、演出を含んでいます。

NTRするなら、お姉ちゃんより私の方がいいですよ、先輩?

和泉鷹央
青春
 授業のサボリ癖がついてしまった風見抱介は高校二年生。  新学期早々、一年から通っている図書室でさぼっていたら可愛い一年生が話しかけてきた。 「NTRゲームしません?」 「はあ?」 「うち、知ってるんですよ。先輩がお姉ちゃんをNTRされ……」 「わわわわっーお前、何言ってんだよ!」  言い出した相手は、槍塚牧那。  抱介の元カノ、槍塚季美の妹だった。 「お姉ちゃんをNTRし返しませんか?」  などと、牧那はとんでもないことを言い出し抱介を脅しにかかる。 「やらなきゃ、過去をバラすってことですか? なんて奴だよ……!」 「大丈夫です、私が姉ちゃんの彼氏を誘惑するので」 「え? 意味わかんねー」 「そのうち分かりますよ。じゃあ、参加決定で!」  脅されて引き受けたら、それはNTRをどちらかが先にやり遂げるか、ということで。  季美を今の彼氏から抱介がNTRし返す。  季美の今の彼氏を……妹がNTRする。    そんな提案だった。  てっきり姉の彼氏が好きなのかと思ったら、そうじゃなかった。  牧那は重度のシスコンで、さらに中古品が大好きな少女だったのだ。  牧那の姉、槍塚季美は昨年の夏に中古品へとなってしまっていた。 「好きなんですよ、中古。誰かのお古を奪うの。でもうちは新品ですけどね?」  姉を中古品と言いながら自分のモノにしたいと願う牧那は、まだ季美のことを忘れられない抱介を背徳の淵へと引きずり込んでいく。 「新品の妹も、欲しくないですか、セ・ン・パ・イ?」  勝利者には妹の愛も付いてくるよ、と牧那はそっとささやいた。  他の投稿サイトでも掲載しています。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

海に向かって

ひふみん
青春
「海に向かって」 ――この言葉の続きは、旅の終わりに待っている。 高校三年生の夏、澤島昇は、中学の同級生四人と、自転車で海に向かう旅を計画する。しかし、そこにはなぜかもう一人、犬猿の仲で幼馴染の芹沢桜の姿があった。 思いがけない参加者に、動揺を隠せない昇と、この旅に一つの決意を抱いてきた桜。旅の中で、さざ波のように変化していく二人の関係だったが、その波は次第に周りも巻き込んでいく・・・ 多くの少年,少女たちが思い描いた夏の想い出を、自転車と共に駆け抜けていく。 海×自転車×夏の物語。

夏の抑揚

木緒竜胆
青春
 1学期最後のホームルームが終わると、夕陽旅路は担任の蓮樹先生から不登校のクラスメイト、朝日コモリへの届け物を頼まれる。  夕陽は朝日の自宅に訪問するが、そこで出会ったのは夕陽が知っている朝日ではなく、幻想的な雰囲気を纏う少女だった。聞くと、少女は朝日コモリ当人であるが、ストレスによって姿が変わってしまったらしい。  そんな朝日と夕陽は波長が合うのか、夏休みを二人で過ごすうちに仲を深めていくが。

処理中です...