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「君は、私のどこが好きなんだい?」②

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 僕が「灯里さんと同じ高校です。二年です」と答えると、夫人は訝しげな目をし、
「二年生?」と小さく言って、青山先輩に向き直り、
「灯里さん・・彼が二年生というのは、初耳なのだけれど」と問い質した。
「いえ、お義母さま・・私は、予め伝えましたわ」
 青山先輩はいきなり女性口調に転じて説明した。
「そうだったかしら?」と言った後、夫人は、
「いずれにせよ、この子・・年下じゃないの」と軽くあしらうように言った。
「年下がいけませんか? お義母さま」青山先輩がそう応じた。
 そう反論した青山先輩の言葉が不服らしく、「だって、そうでしょう」と言って、
「いずれにせよ」とまた同じ前置きをし、
「お行儀のなっていない子のようね」と評価した。
 お行儀が悪い・・まさか、親のしつけとか言い出すんじゃないだろうな。
 ムッとして反論しそうになったが、ここは抑える。今回の目的は夫人を責めることではない。
 すると、青山先輩が「お行儀が悪いと、いけませんか?」と再び静かに言って、「彼は私のボーフレンドですよ」と続けた。
 ボーイフレンド・・良い響きだな。なんか嬉しくなる。
 青山先輩にそう言われた夫人は、
「全く、あの早川はいったい何をしていたのかしら」と愚痴を言って、脚を大きく組み替えた。
 夫人としては、青山先輩の監視役の早川が機能していなかったことは腹立たしいに違いない。
 これを機会に早川が青山家との監視契約を打ち切られることを願う。それで、今回の芝居の半分が達成したことになる。

「それで、あなたの親御さんはどんな仕事をしているの?」
 僕のことを訊く前に、親のことを訊いてきた。しかも、僕を鈴木くんとは言わず「あなた」呼ばわりだ。
 そこへ青山先輩が「それも、お義母さまに事前に説明しました」と挟んだ。
 そう言った青山先輩に、
「灯里さん・・私は、この子に直接訊いているのよ」と大きく言った。話に割り込むな、と言いたげな口調だ。

 そして夫人は、
「まあ、いいわ・・親御さんの職業は灯里さんから事前に聞いていることだし」と言って青山先輩に向き直り、
「それで、灯里さんはこの子のどこが良くて、交際を認めて欲しいわけなの?」と強い口調で訊いた。
 青山先輩は、言葉を用意していたのか、「誠実なところです」と答えた。
 その答えに僕は笑いを堪えた。
 しかし、笑いを堪えているのは、僕だけではなかったようだ。
「ちょっと、灯里さん。彼のどこをどう見て、そう言っているのか分からないけれど、早急な判断は灯里さんらしくないわねえ」
 堪えている笑いは、僕どころか、青山先輩をも馬鹿にしているように思われる。
「いえ、私の目に狂いはありません」
 青山先輩は断固として身構える。
 そんなに持ち上げられると、どう対応していいのかわからない。言葉も出ない。

 普段、この青山夫人と先輩がどのような会話をしているかは知らない。
 おそらくいい関係ではないことは間違いない。それが対立的なのか、そこに、親子関係以外の上下関係があるのかもわからない。
 強い立場なのはどっちだ? 青山夫人か・・

 そんなことを考えていると、突然、青山先輩が、
「君は、私のどこが好きなんだい?」と男性口調で言った。

 この三文芝居に特にシナリオはない。ただの交際宣言だ。青山先輩にも「君にまかせるよ」と言われている。
 僕は軽い自己紹介のつもりで来た。豪邸に住む夫人だから、ある程度のことは予想できた。
 しかし、青山先輩に、「私のどこが好き?」と訊かれるのは全くの予想外だった。
 何も考えていなかった僕も悪い。
 僕も悪いけれど、今の青山先輩の言葉は僕に対する意地悪にもとれた。
 それに芝居とはいえ、軽々しく口に出せる言葉ではない。
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