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この世界から僕の体を消してくれ!②

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 それは、青春を最も楽しんでいるような男女の姿だった。どこにでもいるような高校生のカップル。
 ただのカップルではない・・その女の子の方は、石山純子だった。
 楽しそうに見える語らい。
 この世界に悩みなど一つもない。未来に広がっているのは、希望の文字しかない。そんな風に見える明るい男女。
 二人の関係がどういう関係なのか、一目ではわからない。年の近い兄弟かもしれないし、クラブの仲間かもしれない。
 あるいは、たまたま出会った男女、偶然、帰り道が一緒になった者同士かもしれない。

 けれど、僕の片恋の本能は、二人を恋仲だと、とらえた。
 同時に向こうの二人も僕の存在を、その恋路を邪魔する厄介者と認めた。
 ・・世の中、そういうものだ。
 ここは細い道のど真ん中、逃げ込む場所すらない。
 来た道を引き返せば、彼女の住む団地だ。
 僕がこんな場所にいる理由の説明がつかない。その理由は明白だ・・石山純子の家を見に来た。それしかない。
 このまま進めば二人とかち合う。車が一台通れるくらいの狭い道だ。確実に僕だと認識される。
 まだ卒業してから一年と経っていない。いくらなんでも僕の顔は憶えているだろう。

 ・・お願いだ。
 僕のこの体・・今すぐに消えてくれ、
 前にも進めないし、戻ることもできない。
 神さまという存在が本当にあるのならば、
 今すぐ、この世界から、僕の体を抹消してくれ!
 僕は本気でそう願った。
 これ以上、絶望したくない。もう傷つきたくない。
 そんな願いを抱える僕は、無様にもその場に立ち止まっていた。
 進むことも後退することもできずに。
 彼らとすれ違う瞬間、僕は目を瞑った。

 気が遠のく中、真横で石山純子と男が語り合う声が聞こえた。
 そして、すれ違っていくのが、靴音で感じられた。
「純子、あいつ・・誰? 知ってる奴?」まず男の声が聞こえた。
「ああ、あれね、私が前に言ってた男よ」そう説明したのは石山純子だった。
 僕の初恋の子、久しぶりに聞く声。けれど・・
 彼女にとって僕には名前すら付いていなかった・・ただの「あれ」だった。
 そして、次に聞こえてきたのは、
「あれ、何しに来たのかしら? 気持ち悪いわ」
 ああ・・僕はこんなセリフを平気で吐く彼女にラブレターを出したのだ。
 二人が遠ざかっていく。少しほっとする。
しかし、後ろで男がこう言った。
「警察に言っちゃえば」
 そんなあざ笑う男の声に呼応するように、
「それもそうね。今度見かけたらそうするわ」と冷たい声が続いた。
 それは僕がずっと思っていた少女の声だった。

 最後まで僕の体は消えなかった・・
 そして、僕は気づいた。
 彼女にとっての僕は・・家の前に現れた男、それは如何わしいラブレターを送りつけてきた男、手紙を無視していると、いきなり家に電話をかけてきた男。
 中学を卒業してもう終わったと思っていたら、今度は家にまで押しかけて来た男。
 そう・・僕のしていたことは、
 ただの付きまといだった。

 高校一年・・心が沈み続ける僕は次第に影が薄くなり、誰かと親しく話すこともなくなった。そうするうちにクラスでの存在感もなくなり、どこにいるのかもわからないような男になった。
 クラスの皆が僕の横を素通りしていく・・そこに寂しさも感じられなかった。
 季節の移り変わりも感じなくなり、何の希望もないまま高校二年になった。
 そんな時に見たのが、
 教室の窓際に座っている水沢純子の姿だった。
 僕は水沢さんの姿に初恋を重ね合わせた。恋に落ちた。
 しかし、好きになっても、もう告白とかは、したくないし、ラブレターなんてもってのほかだ。電話もかけない・・そう決めた。
 だから、水沢さんに対する思いは片思いのままでいい。

 そんな頃だった。僕の体が透明化できるようになったのは・・
 あの時、神さまに僕が願ったことが叶えられたのか・・それはどうかはわからない。
 けれど、肝心な時に消えず、
 消えて欲しくない時に透明化する・・
 僕という男はなんて間が悪いのだろう。

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